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ぼくは小さな女の子の顔を見た。小さな女の子はぼくたちのいる周囲の地面の上に視線を向けて、必死に迷子の子猫を探していた。あの三人組にはまだ気がついていないようだった。
「あそこに誰かいるね」とぼくは小さな女の子に言った。迷子の子猫が見つかるまでの気晴らしのための、たわいのない会話のつもりだった。しかし、ぼくの言葉を聞いて、視線を動かした小さな女の子はその三人の姿を確認してとても驚いたようで、口元に両手を当て、元から大きな目をさらに大きく見開いた。それから数秒間固まったあとで、まるで助けを求めるような視線をぼくに向けた。言葉はなかったが、小さな女の子は、どうしよう? とでも言いたげに大きく口を開けていた。
「知っている人たちなの?」とぼくは言った。すると小さな女の子はこくんと小さく頷いた。
ぼくたちがそんなやり取りをしていると、どうやら向こうの三人組からもぼくたちの姿を捉えることができたようで、先頭を歩く男性がこちらに向けて指を動かした。その顔は、見つけた!! とでも言わんばかりに歓喜に満ちている。それから女性二人もこちらを確認し、三人はお互いに顔を向き合い頷き合ったあとで、さらに速度を上げて、小走りになって橙色の煉瓦造りの道をこちらに向けて移動し始めた。
「わわ、ど、どうしよう。見つかっちゃった」と(慌てながら)小さな女の子が言った。
「見つかっちゃったって、なにかまずいの?」とぼくは言った。小さな女の子は困ったように慌てふためいているが、遠目にもあの三人組は悪い人たちには見えなかった。誘拐犯とか、極悪人とかではなくて、もっと普通の善良な人たちにぼくの目には見えた。(もちろん見た目だけで、実際にはいい人、悪い人なんて判断はできないんだけど)
「だってわたし、先生たちに見つかったら連れて行かれちゃう」と小さな女の子は言った。
「連れて行かれちゃうって、どこに?」とぼくは言った。
「バス。わたし、それに乗らなくちゃいけないの」と小さな女の子は言った。「バス?」とぼくは言った。「うん。バス。おっきなバス。おっきな青色のバス」と(両手を大きく広げるようにして、バスの大きさを表現しながら)小さな女の子は言った。