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……黒い子猫、黒い子猫。ぼくは大きな自然公園の高い場所から一生懸命に周囲を見渡して迷子の子猫を探した。きっとどこかにいる。ぼくはそう信じて迷子の子猫を探した。しかしそんなぼくの思いとは裏腹に、迷子の黒い子猫は一向に見つからなかった。
「……猫ちゃん。わたしのこと嫌いになっちゃったのかな?」と小さな女の子は言った。
「そんなことないさ」とぼくは言った。
「でも、猫ちゃん。急にわたしのところからいなくなっちゃったの。だからきっと、猫ちゃんはわたしのことが嫌いになっちゃったから、わたしのところからいなくなってしまったんだと思うの」と伏し目がちになりながら小さな女の子は言った。
「どうして君はそう思うの? なにか子猫に嫌われるような、そんな原因になるようなことに思い当たる出来事でもあるの?」とぼくは言った。しかし小さな女の子はぼくの質問に小さな声で「わからない」と答えただけだった。
ぼくはそんな小さな女の子をちらっとだけ確認したあとで、再び迷子の子猫探しに没頭した。周囲の風景を見渡せる見晴らしのいい小さな緑色の丘の上からも、迷子の子猫の姿は見つからない。もうこの辺りには迷子の子猫はいないのかもしれない。迷子の子猫は確かにこの小さな女の子のところを去ってしまったのかもしれない。いなくなった迷子の子猫を探しながらそんなことをぼくはふと思った。
そうして迷子の子猫を探していると、ぼくたちの歩いてきた橙色の煉瓦造りの道の上、白いベンチと大きな緑色の木のある、そのもっと先の道の上にぼくは小さな三つの人影を見つけた。ぼくは初めて自分たち以外の人間の姿を確認して、少しだけほっとした。ぼくは目は良いほうなので、遠目でもそれが男性一人、女性二人の三人組の集団だと特定することができた。男性は太っていて、頭の毛は真っ白で年老いて見える。女性は二人とも若くて、小走りで移動する男性の少し後ろを二人並んで移動していた。三人はぼくたちと同じようになにかを探しているようで、きょろきょろと周囲を見渡しながら橙色の煉瓦造りの道の上をこちらに向かって移動していた。