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まるで『自分のよく知っている世界によく似たまったく別の世界の中』にでも自分が迷い込んでしまったかのような変な気持ちにぼくはなった。(とても不思議な気持ちだった)
橙色の煉瓦造りの道は大地の上に緩やかなカーブを描いていた。ぼくと小さな女の子はその道に沿って、大きな自然公園の中を移動した。
……そもそも、ここは本当に大きな自然公園なのだろうか? という疑問をぼくが抱いたのは緩やかなカーブを曲がり、それから先にあった少し小高い緑色の丘のような場所を歩いているときだった。そこからぼくたちがいた迷子の子猫探しの出発点である白いベンチとその後ろにある大きな緑色の木を眺めていたときにぼくはそんなことをとても強く思うようになった。
……そもそもぼくはどうしてこんな場所にいるのだろうか? なぜぼくは白いベンチの上で居眠りなどしていたのだろうか? それらの理由をぼくはどんなに考えても思い出すことができなかった。(やっぱりとっても不思議な気持ちになった)
小さな緑色の丘の途中には石造りの階段があった。上と下に続く階段だ。
ぼくはどっちに行こうかと一瞬迷ったが、小さな女の子が『上に向かって』足を進めたので、ぼくも同じように階段を上に向かって上って行った。(見晴らしが良いほうが迷子の子猫を探しやすいし、とも思った)
ぼくは小さな緑色の丘の上で立ち止まった。すると小さな女の子も、ぼくの隣で立ち止まった。
ぼくたちの周囲を暖かい風が吹き抜けた。気持ちの良い風。自由で気ままな、心地よい春の四月の風だ。
「猫ちゃんいないね」と小さな女の子がとても小さな声でつぶやいた。見ると小さな女の子は下を向いていた。きっと今にも泣き出しそうな顔をしているに違いなかった。ぼくは落ち込んでいる小さな女の子に「大丈夫。すぐ見つかるよ」と声をかけた。「本当?」と顔をあげて小さな女の子が言った。小さな女の子はやっぱりとても悲しそうな顔をしていた。「うん。本当」とぼくは言った。本当と言ってしまった手前、本当に迷子の子猫を見つけないわけにはいかなくなった。