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気がつくと、ぼくはいつの間にか光の溢れる場所にいた。緑色の大地と青色の空が広がる世界のどこかにある白いベンチの上にぼくはぽつんと一人で座り込んでいた。どうやらぼくはあまりの天気の良さにいつの間にかこんな場所で、眠りについてしまったようだ。
見知らぬ世界の上には、暖かくて、とても気持ちの良い風が吹いていた。季節は春。月は、きっと四月の始めごろだろう。桜色をした春の暖かな風がその証拠だ。
こんな気持ちをぼくは以前にも味わったことがある。だからこの見慣れない美しい風景と暖かく気持ちの良い風という少ない手がかりから、ぼくは春という季節と四月のはじめごろという時期を推測することができた。そのぼくの推理を証明してくれるように、よく見ると、遠くには美しい色をした桜の木々が生えている場所が見えた。
「ねえねえ」と声がした。
それは小さな女の子が発した声だった。小さな女の子はぼくの隣に座り込んで、その小さな体をぼくの体にぺったりと、まるでシールでもくっつけるようにして、その、ねえねえ、という可愛らしい声と同じリズムでぼくの体をゆさゆさと揺らしていた。
その小さな女の子は、小さなひまわりの花がついた(白いりぼんのある)子供用の麦わら帽子を頭にかぶっていた。それから白いワンピースのような服を着ていた。目を引くのは暖かい風に揺れる美しくて長い黒髪と異常だと思えるような白い肌。それと大きな黒目。その大きな黒目の中には、はっきりと小さな女の子を見つめるぼくの顔が映り込んでいた。
この小さな女の子が麦わら帽子をかぶっているのは暑さ避けというよりも、日焼けを避けるためのものだろうか? そう思えるくらい小さな女の子の肌は白かった。まるで全身がろうそくで作られているみたいだ。もしかしたらこの小さな女の子が麦わら帽子をかぶっているのは暑さ避けのためでも、日焼けを避けるためでもなくて、頭のてっぺんにあるろうそくの芯を隠すためかもしれないな、とそんなことをぼくは思った。