表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

自分探しの旅ツアー

作者: 村崎羯諦

「本日は、自分探しの旅ツアーにご参加くださりありがとうございました。私、ガイドを担当する上村絢美と申します。皆様が本当の自分を探し出せるよう全力でお手伝いしますので、本日はどうぞよろしくお願いたします」


 ツアーガイドの上村さんが頭を下げ、バスに乗っているツアー客がパラパラと拍手を送った。僕もみんなにならって拍手を送り、ちらりと手元に持っていた旅のしおりを確認する。『本当の自分を探すお手伝いをさせてください』というキャッチコピーが書かれた表紙。中を捲ると、ツアーのスケジュールと行き先が事細かに書かれている。最後のページには、おまけとして、このツアーに参加したことで本当の自分を見つけることができた人たちの体験談が載っている。


 僕は旅のしおりに手を乗せ、ガイドの説明に耳を傾ける。今日のこのツアーで、本当の自分を見つけてやるんだと、僕は強く決心するのだった。






*****






「まず最初は、こちらの禅寺での座禅体験になります。雑多な日常を離れ、座禅を通じて心を静めることで、自分自身を見つめ直すことができると言われています。ぜひみなさん自分の心を見つめ直し、本当の自分を見つけてみてください」


 最初に案内された禅寺。僕を含めたツアー参加者は最初に禅僧から座禅のやり方を教えてもらい、早速座禅を組んでみる。だけど、座禅を組んでいると足が痺れて、なかなか集中できない。それに今時瞑想とか座禅だなんて時代遅れじゃないかと思ってしまう。


 初めての方向けに短めに設定しているという時間が過ぎ、休憩に入る。休憩後に何セットか座禅を組む予定になっているのだが、ツアーガイドの上村さんから足が痺れたり、体調がすぐれない方はやめてもらって問題ないと言われる。僕は他の参加者がやめますと手をあげるのを待ってから、自分もやめますと上村さんに伝えた。


「次は歴史資料館の見学です。歴史を学ぶことで自身のルーツや生き方を考えることができるはずです」


 次に訪れたのは、貴重な歴史史料を見て回ることができる資料館だった。僕は自分探しのためにこのツアーに参加しているのに、なんでお勉強なんてしないといけないのか不満でしょうがなかった。一応お金を払ってる分を取り戻そうと最初の方はちゃんと見てみたものの、途中から飽きてしまったので、後半は適当に流し見するだけだった。


「途中休憩です。お昼ご飯を食べながら、他の参加者と交流を深めてみましょう。このツアーに参加している方はみなさん同じような悩みを抱えています。一人で悶々と悩んでいるだけではなく、他の人と関わることで何か光明を見出すことがあります。ぜひ交流を深め、新しい出会いを楽しんでください」


 昼食。僕は六人一組のテーブルに腰掛ける。ツアーが用意したファシリテーター一人と他の四名の参加者で話をしながら昼食を取る。はじめに各自の自己紹介から始める。名前と職業、このツアーに参加した理由を簡単に説明していく。僕を含め、参加者はみんなフリーターか無職で、このツアーを通じて本当の自分を探し、人生を好転させたいと考えていているらしい。だけど、みんな言葉の端々で、自分は他の連中よりかはマシだと思っていたり、他の連中はバカだと思っている態度が透けて見えたのが気に食わなかった。


 やっぱり、このツアーに参加するようなやつは大したことない人間ばかりだと思ったし、そういった連中と仲良くなったり、交流したりするのにはなんの意味もないと思って、僕はただ黙々と昼食を食べることにした。


「昼食後は近場の山岳でハイキングとなります。自然と触れ合うことで、自分自身の悩みがちっぽけなものに思えたり、その美しい風景に心を表れたりすることが期待できます。お腹いっぱいになったので運動し、みんなでいい汗をかきましょう!」


 昼食後ですごく眠たかったので、僕は体調が悪いと嘘をついて不参加にしてもらった。


「本ツアーの最後はカウンセリングです。カウンセラーと共に今日経験したことや今までの人生を振り返ることで、自分が本当にやりたいことを探し出すことができるかもしれません。それでは今から各自の担当カウンセラーと面談に順番をお伝えしますので、待機中は待合室でゆっくりお過ごしください」


 僕の担当カウンセラーはツアーガイドの上村さんだった。ツアーガイドとカウンセラーを兼任しているんです。面談の最初に、上村さんはそう説明してくれた。


「では、まず最初に本日のツアー内容について感想を聞かせてもらえますか? どれが楽しかったとか心に残ったこととか、その程度の簡単なもので大丈夫です」


 僕は腕を組んで考えたが、どれもこれも意味があるようには思えなかった。そのことを正直に伝えると上村さんはツアーの内容が期待に添えていなくて申し訳ないと謝罪した。


 それから上村さんはツアー以外で、何に興味を持っているのか、何をしている時が楽しいかなどを聞いてくる。しかし、そんなことを聞かれてもパッとは思いつかないし、むしろそれがわかっているのであればそもそもこんなツアーには参加しないと思う。


「それを見つけてもらうためにツアーに参加してるんですから、そんなこと聞かれても困ります」

「もちろんそれはそうなんですが、できる限り協力していただけたらと……」

「こっちはお金を払ってるんですよ。なんでそこまでしないといけないんですか?」


 僕の言葉に上村さんが黙り込む。僕は相手を論破できたことに少しだけ満足した。結局そのまま面談は終了時刻となり、何も得るものがないままツアー自体が終わってしまった。


 ツアーから帰った僕は早速、溜まりに溜まった不満を発散させるため辛口のレビューを投稿した。それで気持ちをスッキリさせた後、僕は今回の件を深く反省した。


 本当の自分は見つけることがとても難しい。だからこそ、今回のツアーよりもずっと信用ができる別のサービスを探さなければならない、と。


 僕はそう思いながら何気なくネットサーフィンをしていると、ふと『本当の自分を探すためのオンラインサロン』というネット広告に目が止まった。


 一度痛い目にあった僕は、少しだけ警戒しながらもそのネット広告をクリックし、中身を確認する。そしてこのオンラインサロンが、本当に本当の僕を見つけてくれるのかを見極めようとするのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ