さくら、古のルーンの主になる
王様は、漫画みたいなピンクブロンドを靡かせて、蕩けそうな蜂蜜色の瞳を輝かせた。
すごく美しい。すごく美しいけれどもっ。それ、ヒロインの配色だよね?
キラッキラだけど王様の威厳は大丈夫?王様っぽさゼロだけど大丈夫なの?
「古のルーンの主、なんとお美しい!会いたかった!」
「おうつくしい?」
私、すごく美しい人に美しいって言われてます。美しいってなんだっけ。
「吸い込まれそうな黒い瞳。あやしく艶めく漆黒の長い髪。全てが美しい」
よく聞くと黒いという事しか褒められてないけど、黒色が綺麗っていう解釈でいいのかな。造作は普通だしね。
「褒めたって駄目です。お断りします」
「お断り?え、カイ、どういう状況?」
王様が急にカジュアルな感じになった。
「もう主になっているから断れないとご説明している状況です」
「断りたいの?なんで?長生きできるよ?ずっと美しいままだよ?」
「マーゴさん普通のおばあさんでしたよ」
「マーゴ様は250才だぞ。250才にしては十分美しいだろう」
「リヒト様、マーゴ様は256才です」
「今はマーゴさんの実年齢はどうでもいいです。激重の役目なんて無理です。プレッシャーで死んでしまう」
「ルーン占い、好きなんだよね?趣味なんだよね?」王様はニヤリと笑う。
図星だ。さくらは、占いの勉強だけして暮らしたいと思ってた。
「ぐっ・・・!趣味は趣味だから楽しいんですぅ!仕事にしたら楽しくなくなるんですぅ!」
「本当か?ずっと占いの勉強をしながら、たまーに国の事をちょこっと占うだけだ。いい生活じゃないか?」
くそう、王様め、反論できない。さくらは頭を抱える。
「さくら様、選択肢が1つしかないと思うから、拒んでるのではないのですか?望んでないのに押し付けられると感じてるのでは?」
「まあ、そういう所はあると思います」
「大丈夫です。古のルーンは、向いてない人間を主には定めません。そのために厳しい条件があるのです」
「ちょっと待って、良い事言ってる風だけど、自力で家族を作ってなくて、重要じゃない人って言ってたじゃないですか」
危ない、納得しかけた。カイさん油断も隙もない。
「それは、残された人への影響を考えての事ですので、さくら様ご自身の評価とは無関係です。大切なのはマーゴ様のお姿が見えている事と、一定以上の魔力がある事。そして、ルーンに向き合った経験がありルーン占いの適性がある事です」
「さくら、夫や子供がいたら絶対に引き受けないだろ?」
「まあ、それは、そうかも知れません」
「さくらは、自分が重要人物だとは認識していないだろう?自分が重要人物だと思うような人間は、ルーンがそもそも選ばないんだ」
「何でですか?」
さくらは、自分が重要人物だと認識できるほど図々しくなれない。そもそも、重要人物になれるほど存在感のある人間ではない。
「社交的で、自己顕示欲が強くて、支配欲が強い。そういう人物が主になったら、その地位を利用していらん事をするんだよ」
「確かに。ありそうな話ですね」
「だから、社交的ではなく、目立とうとも思わず、変な上昇志向も無く、穏やかで人の良い人物が好ましいんだ」
嫌になるくらい、さくらにピッタリな人物像だ。
「例えば、例えばの話ですよ」
「うん、例えばの話だね。なに?」
「私が主になったとして、どんな感じの生活になるんですかね。人間関係とか面倒臭いの嫌なんですけど」
「さくらは、私と並ぶ地位になるよ。ただ、名誉職のようなもんだ。実権を握りたいというなら別だけど」
「実権って何の実権ですか。いりません重いです」
「それなら、使用人は好きに選んでいいし気の合う者を置いてもいい、交友関係も自由だ。のんびり占いの勉強を続けて、たまに国の為に占う生活。最高だろ?」
「なにそれ天国?あ、例えばの話ですけど、公務みたいなのは?」
「年に1度か2度くらいかな。まあ、カイも一緒だし、成功しようと失敗しようとさくらに責任は問わないよ」
「年に1度か2度か・・・本当にそれだけ?」
「うん、それだけ」
「結婚とかは?自由?」
「もちろん!」
「私が片時も離れず傍に居ますが、結婚は可能ですよ。片時も離れないので、2人には出来ませんが」
「片時も?」
カイさん、そんなに見つめないで。男前に慣れてないんです。誑かしにくるのやめて。
「カイ、やめろ。何故今その話をするのさ。せっかく、さくらがその気になったのに!」
「私はさくら様の護衛です。いつ何時であっても傍を離れません。もちろん結婚してもです」
「やめろカイ、さくらがどん引きしてるじゃないか」
「さくら様、私がさくら様をフォローします。さくら様は私と共にいて下さるだけで」
「ストップ、ストーップ!違うだろ、カイ、プロポーズじゃないんだからさ!さくら、大丈夫か顔が真っ赤だよ?」
「・・・話を、戻していいですか?」
「もちろんだよ。カイ、自重して」
「好きにお出かけしてもいいんですか?町でお買い物とか、旅行とか」
「もちろんだよ。さくらが行きたいのならどこでも行けるよ」
「私がさくら様をお守りしますので、安心してください」
「お給料は、占った時だけ?」
「さくらには年間の予算が組まれているから、占いの報酬や給料は特に無いけど、お金に困るような事はないよ」
「予算?」
「私と同額くらいだよ」
気楽な立場なのに王様と同額ってどういう事なの。それを責任を負わずに使えるってそんな事あるの?怖すぎる。
「さくら様は古のルーンの主です。欲望の薄いさくら様の叶えたい事など、ほぼ100%叶えられます」
「例えば、どんな?」
「幻想的な雑貨屋のモルフォ蝶グッズを爆買いしたり、ハンドメイド作家のアクセサリーを集めたりです」
「ちょ!何で知ってるの?!」
「マーゴ様から伺いました。さくら様の事は何でも知りたいので」
「カイ、ちょっと黙ろう。マーゴ様にそんな事を根掘り葉掘り聞くんじゃないよ(小声)」
「猫を飼ってもいいんですか?」
実家は父が嫌いで動物を飼えなかった。
「好きな動物を飼えばいいよ」
「私は、のんびり占いの勉強をしながら、猫を可愛がって、好きな使用人と楽しく暮らして、たまに占いをすればいいって事ですか?あと、年1・2回の責任が伴わない公務」
「そうだね、後は、民の幸せをルーンに願ってくれればいい。そこが結構大事かな」
「わかりました。王様が一筆書いてくれるなら」
「一筆?もちろん書くけど、私と同等の立場なんだよ?リヒトで良いよ」
「リヒト様?あ、呼び捨ては嫌です。慣れてないので」
「カイがカイさんなら、私はリヒトさんでしょ?」
「じゃあ、それで」
「私とリヒト様では立場が違います。同じで良い訳がありません。さくら様、それなら私はカイと呼び捨てでお願いします」
こわいこわい、カイさん圧がすごい。やめて男前がグイグイくるのやめて。
「わか、わかりましたっ。リヒト様で!」
「さくら、正式な書式で一筆書いて届けさせるよ!いやー、さくらが納得してくれて良かった!じゃ、私は帰るね。カイ、さくらを頼むね!」
リヒト様は、すごい勢いで帰って行った。言質は取ったと顔に書いてあった。
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「さくら様、邸内を案内させていただきます。地下はご覧になったのですよね?あのお部屋はマーゴ様のご趣味のお部屋です」
「マーゴさんのご趣味って何?すごい枝が天井からぶら下がってたけど」
「マーゴ様のご趣味は、化粧品の研究と栄養ドリンクの研究です」
「栄養ドリンク?」
「詳しくは存じ上げないのですが、味はリアル〇ールドを目指していると伺っています」
「ああ、エナジードリンクの」
「大好物だそうで」
「そうなんですね。だから元気なのかな」
マーゴさん256才の大好物は、まさかのエナジードリンク。さくらは、学生時代からまるで変わらないおばあちゃんの顔を思い浮かべる。
「化粧品はビューティーMGというブランド名で販売されています」
「ビューティーMGの、MGはマーゴ?」
「MGは、マーガレットですね。マーゴ様のお名前です」
「マーゴさん、マーガレットさんなんだ」
「はい。マーゴ様ご自身がマーゴと名乗っていらしたので、皆マーゴ様と」
「カイさんは、マーゴさんの護衛だったの?」
「まさか!私の高祖父の親友が務めておりましたが、マーゴ様と共に先ほど引退いたしました。マーゴ様と同い年だと伺っております」
「え?まだご存命?」
「護衛は主様と同じように年を取りますので」
「カイさん、もしかして私も250年とか生きるの?」
「それは、次代の主がいつ現れるかによります。現れなければ、200年でも300年でも」
「イーヤァー!イヤ!100年目くらいまでなら喜べるかもしれないけど、200年とか300年とか無理!」
300年って人生何人分?転生ループするヒロインじゃないんだから。
「ならば、次代を早めに見つければ良いのです。100年以内は無理かもしれませんが、180年過ぎれば他の世界に探しに行けますし、200年くらいで現れるかもしれません」
「かもしれません?200年で?」
「マーゴ様は幸運でした」
「250年で幸運なの?」
「マーゴ様は256才ですが、主になられてからは200年くらいですよ」
「マーゴさん、50才代で主になったの?」
「そうですね。その時の姿をベースに10才くらい若返りますから、もう10年早かったらといつも悔し気におっしゃっていました」
「10才?!」
「鏡ならあちらに」
カイさんが右手で部屋の奥を指し示す。
さくらは猛ダッシュで走り寄り鏡を見る。
「若返ってるぅぅ!20才?うーん、23才くらい?・・・眉毛太っ!」
さくらは、眉毛を整えないとだいぶ太い。慌てて前髪で隠す。
「さくら様、凛々しい眉も素敵ですよ」
「カイさん、何でも褒めりゃいいってもんじゃないですよ。眉は後で整えます」
カイさん、なせ残念そうな顔をする。
「マーゴ様の化粧品で、眉の脱毛ができるセットがありましたよ」
「脱毛はちょっと。失敗すると取り返しがつかないんで」
「侍女に整えてもらえますよ」
「侍女さんって、どこに?」
「これから、さくら様がお好きな者を選んで下さい」
「え?いちから?噓でしょそんな面倒くさい」
「いちから選んで頂いても良いのですが、一応候補を何人か呼んであります」
「良かった、問題なければその人達紹介して」
「わかりました。ですが、その前に邸内のご案内を」
「そうだった」
さくらは、ここに現れて3時間以上経過して、やっと邸内の案内をしてもらう事になった。