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ホラー短編シリーズ

人を呪わば

作者: リィズ・ブランディシュカ




 俺は、世界を呪っている。


 転落人生の真っただ中だからだ。


 世の中は糞だ。


 社会はゴミだ。


 世界中が不幸になればいいのに。


 自分一人が不幸で居続ける事が我慢ならない。


 他の人間が幸福で居続ける事が我慢ならない。


 だから、毎日呪いをかける事にした。


「世界中に、不幸な出来事があふれますように」


 どうせここから立ち上がれないんだ。


 だったら、道連れにしてやろうと思った。


 世界のありとあらゆる物に呪いをかける。


 人に、空気に、道具に、心に。


 不思議な事にそうすると、少しだけ荒れていた心が穏やかになった。


 だから、呪って、呪って、呪い続けた。


 けれどある日、気づいた。


 分かりやすい不幸はダメだと。


 対策されてしまう、用心されてしまう。


 たとえば俺の呪いが形になったとして。


 事故、事件とかが起きたとする。


 けれど人間は、危機的状況に瀕すると賢く、しぶとくなる事がある。


 だから、裏をかかなければならない。


 分かりやすい不幸が訪れるんじゃなくて、ぱっと見で分からない不幸が訪れますように、と。




 世界のどこかで誰かが俺の呪いで不幸になっている。


 かもしれない、という思い込みは俺の精神安定に一定の効果があったようだ。


 長い間、眠れなかったが、その日はひさしぶりに熟睡する事ができた。


 だからだろう。


 気分転換にと、普段は行かない場所へ散歩しに行ったのだ。


 そのさなか、のどが乾いた俺は、街路樹のそばにある一台の自販機を利用する。


 するとその自販機のお釣りが、七十円分残されていることに気がついた。


 誰かがとり忘れたのだろうか。


 ラッキーだ、しかも七だし縁起がいい。いいことあるぞ。


 間抜けにもそう思ってしまった。


 手を伸ばした俺は、忘れていたのだ。


 自分が世界にかけた呪いの事を。


 まっすぐそのままには作用しない呪いの事を。


 七十円分の小銭を見つめてにやけていた俺に、街路樹が倒れこんでくる。


 衝撃が襲う。


 俺は忘れていた。


 この世界には、人を呪わば穴二つ、という言葉があることを。



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