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フォッグ 特命刑事マリ  作者: 西一
1/10

フォッグ 発動

全10話の予定です。あらすじの延長みたいな文章力ですが、最後まで読んでいただけると幸いです。

 国際連合の安全保障理事会で、N国に対する二度目の経済制裁が採択されたこの年、国連総会で、もう一つの重要議案が採択されようとしていた……。


 警視庁の応接室で、警視総監や副総監などの幹部達が、国連総会会議場の中継テレビを見ていた。

『本案は、各国の多数賛成により採択されました』

 議長の言葉で会場内に拍手が響いた。


「やりましたね、総監」

 副総監が目頭を熱くして言った。

「長年の苦労が報われたよ」 

「あの、忌わしい事件を覆す時がきたのですね」

「ああ。いよいよ、フォッグの発動だ!」

 総監の力強い言葉で全員が立ち上がり、握手を交わした。



 ……二〇四五年、七月一六日。膨大な軍事費を費やしたアメリカが、人類初の時間移動装置を開発した。

 当初、アメリカはその技術を独占していたが、ライバル国であるロシアが実験に成功した。

 破壊するだけの核兵器と違って、タイムマシンは歴史を変える力がある。

 再び冷戦の時代が始まった……。


 やがて、その技術は各国にも広がりつつあり、それに伴って、技術の未熟さが被害を大きくした。

 タイムワープの技術が広がるのを恐れた保有国は、タイムワープ不拡散条約(アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・ドイツ・中国・日本の七カ国以外のタイムマシンの保有を禁止する条約)を結び、監視の目を光らして厳しく取り締まった。 

 その一方で、保有国は高性能のタイムマシンを手に入れるため、様々な時間移動実験を繰り返した。


 未知の領域、タイムパラドックスが懸念されるなか、民衆の反タイムワープ運動が盛んになる。

 今ある平和な日常を脅かす存在に不安を覚え、時間移動実験反対への動きが世界を動かした。

 圧倒的多数の支持により、国連総会によってタイムワープ実験禁止条約が採択され、全ての実験を禁止したのである。

 だが、人類の飽くなき探究心は止められない。

 科学者は未知なる世界を求め、歴史家は真実を確かめたくて、平和利用目的のためだけに限って使用を認めさせようと反対運動を起こした。

 

 国際連合に新たに新設された国際タイムワープ機関が、特別理事会を開き、厳しい制約の下、次の条件に沿うものに限って使用の許可を出した。

 一つ、世界秩序を乱さない。(軍事利用の禁止)。

 一つ、国連加盟国の全員一致によるもの。

 一つ、死んだ人間を生き返らせてはならない。

 一つ、エイジェントは身寄りの無い独身女性に限る。

 一つ、身分を明かしてはならない。

 一つ、過去の人と交わってはならない。(恋愛の禁止)。

 などなど、これらの条件を満たしたものに限って使用を許可した……。



 大都会東京で、日々多発する凶悪犯罪。

 警察官の不祥事や検挙率の低下に国民の不満が高まっていた。

 警視庁は汚名返上のために、一人の女性を現代(五十年前)の日本に送り込もうとした。

 彼女の名は、山下マリ。優れた刑事であると共に、厳しい条件を満たした選ばれしエイジェントである。


 東北の、北上山地の地下に建設された巨大な加速器――国際リニアコライダー(ILC)。

 初期宇宙を再現することで未知の素粒子を作り出す装置で、ほぼ光速に加速させた電子と陽電子を正面衝突させる。その時の温度は宇宙誕生のビッグバン直後に相当する約一京度。この技術を利用し、タイムホールを創り出す。

「日本のタイムマシンは高性能、誤差も少なく安全だ。安心するがいい。期間は僅か二年。日本の名誉のために頑張ってきてくれ」

 上司の山本警視が、マリにエールを送った。


 ボブスレーのようなカプセル状の乗り物にマリは乗り込む。

 横になるとハッチが閉まった。

 マリは目を閉じ、静かに待った。

 山本警視の言った、安全だ、との言葉を信じ、不思議と恐怖心はない。


 膨大なエネルギーが加速器に集中する。

 一帯の電力が施設内に集中、照明の明かりが不安定になる。

 どこまでも続く、真空に保たれた暗黒のトンネルの奥から、『ゴーーッ』っと恐竜の鳴き声が聞こえて来るようだった。


『ジリジリ、ジリィーン』

 発射のサイレンが響き渡る。

『グォーーッ』

 マリの乗るマシーンが発車した。

 全身に力を込めてマリは踏ん張る。

 タイムワープと同時に、『フォッグ』と呼ばれる装置も発動させた。


 フォッグは、過去に送られると同時に情報操作を行う装置で、行政機関の情報システムに侵入してマイナンバーを書き替え、過去の住民との違和感をなくす。潜伏中、安全な生活を営むための日本独自に開発されたシステムである。



 加速器によって現代の壁を突き破り、過去の世界へ――。


 山下マリは、五十年前の過去に降り立った。

 止まっていた滞在時計がマイナスに動き出す。

「今の時間は、二十日の十六時十七分。誤差は一百五十日か、さすがは日本の技術。余裕で一年を切っているじゃない。一年の誤差を覚悟していたんだけど、思っていたよりも早く帰れそうだわ。技術者に感謝しなくっちゃね。タイムトンネルを通って来たけれど、なんともないわ」

 マリは隅々の体を触り、ポンポンとその場で何度も跳ねて異常がないかを確かめた。


『チュン、チュン』

 マリの肩に小鳥が乗った。

 鳥型癒しロボット・バードが彼女を励ます。

「五十年前の、過去の世界に降り立ったんだ。そんな実感ないなぁ。アポロの月面への第一歩を踏み締める感動が味わえると思って期待していたんだけれど、なんにも変らない。でも、名誉は貰えるんだよね」

 小鳥に話した。


「あーあ、うっとおしな、この髪」

 頭を振って長い髪をなびかせた。

「長い髪は、この時代のスタイルだって上司に説得されたんだけれど、ほんと、邪魔だわ。それにこの過去の服、伸縮性に欠けるし、肌触りも悪いわね」

 激しい動きをともなう捜査のため、ショートカットだったマリだが、今回の任務のために長く伸ばしていた。

「この時代の女性は女らしく、って、なんで私が男どもに合わせなくちゃならないのよ。男も女も外見じゃなく、中身が大事だというのにぃ」

 不満を言った。



 特命を帯びたマリは、情報操作された過去に送られた。

 彼女の配属先は都内警察署の地域・生活安全課。歴史のゆがみを避けるために、軽犯罪を主に扱う部署が選ばれた。

「上から聞いているよ、確か山下マリ君だったね。君とパートナーを組む上司は……」

 そう山田課長が言って、眼鏡越しに見回した。

「会議があると言っていたので、間もなく来るでしょう」

 谷川係長が説明する。


 凶悪犯を検挙するのが生き甲斐だった刑事の私が、なんでこんな所に配属になったの……。


 そう心の中で思って、マリが辺りを見回した。


 みんな、かなり年配の人達。何より緊張感が無い。

 ヌルい感じの職場に、マリは唖然とする。

 彼女の居た捜査一課では、僅もがミスが許されないというピリピリした空気が漂っていたが、ここは正反対。厳しい環境の中で成長してきたマリには、相性の悪い職場だった。


「これを、部署内で共有しているスマホを渡しておくよ」

 谷川係長が言って、マリにスマホを渡した。

 渡されたスマホを、まるで骨董品でも見るようにマリは見詰めた。


 スマホ? ああ、一昔前の携帯かぁ。今は持つ物から身に付ける物に代わっている。確か、ガラケーって呼ばれていた携帯から、スマホに代わったのよね。今はてのひら型の携帯。手首に付けた小型の時計のような物から、掌にフォトグラムを映し出して操作するのよね。軽くて、何より無くすことがなくなったって、発売当初、皆、喜んでいたっけ。


「マリちゃんの席は、こっちよ」

 生活安全課で、紅一点の水沢主任が案内した。

 その時、マリの背後に人の気配が迫った。


 ――誰か居る。


 彼女が反射的に動き、得意の回し蹴りが炸裂した。

「痛っ、何すんだ! このアマ」


 ――あま?


 視線を下に向けると、長身の男が倒れていた。

「なんてことを……、君の上司、巡査長の黒田蓮くろだれん君だぞ」

 驚き、青ざめた谷川係長が慌て注意する。 


 あちゃ~、赴任早々やってしまった。どうしょう? でも、イケメンじゃない。確か、恋愛禁止じゃなかったっけ? だとしたら、なんで彼が私の上司に?


 マリの疑問はすぐさま晴れた。

「お前か、赴任した女警官って。見るからに、ノロマそうだな」

 ゆっくり立ち上がりながら言って、

「中途半端な時間に来やがって、お前は何様なんだよ。芸能人じゃあるまいし、化粧に時間が掛かったのか? 暑苦しく、仕事の邪魔になりそうな長い髪、男にチャホヤされたいんだろ」

 と嫌味を言った。


 たった今来たばっかりなのに、仕方ないでしょう。きっと蹴られたことを根に持っているんだわ。なんて了見の狭い男なのかしら。それに……。


「お前?」

 マリが確認するように聞くと、

「お前は、お前だろ」

 と即座に言い返した。

「私の名前は『山下マリ』です。ちゃんと名前で呼んで欲しいんですけどぉ」

「お前のような半人前に、そんな資格は無いんだよ」


 もう、なんて身勝手な人なんだろう。


 自分勝手なうえ性格が悪そうで、あからさまに女を見下した態度。マリの最も嫌うタイプの人間だった。


 その人選が、担当者の狙いね。私も、こんな堅物、好きになんかならないわ。


 ムッとした顔で黒田を睨み付ける。その時、電話が掛かった。

 対応した水沢主任が、 

「無銭飲食、定食の食い逃げよ。至急、現場に向かって!」

 と告げた。

「いつも通っている大衆食堂か。警察署の近くで犯罪を起こすとは、ふざけやがって」

 怒りを覚える黒田が、

「オイ! 何ボーッとしてんだ、行くぞ、初仕事だ!」

 声を荒げて言った。 


 なんでエリートの私が、捜査一課で強悪犯の捜査を行っていた私が、食い逃げなんかのショボい事件に関わらなくちゃならないのよ、全くぅ。


 不満をあらわにしながら、マリは上司でパートナーとなった黒田の後に付いて行った。

 


仕事終わりの土曜日に投稿します。

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