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もうひとつの四魂物語  作者: yuzoku
ジンセンフの修行編
8/9

森の精霊

 薄暗い霧がかかっている中、鬱蒼とした雑木林が広がっている。

 自分の歩くリズムに合わせて、踏まれた枯れ葉がカサカサと割れる音だけが辺りに響いていた。次の村へ向かう途中、いつの間にか山道を外れてしまったのか、看板などの人工物が全く見当たらない。木と木の間の、かろうじて歩けそうなスキマを見つけては進んでいた。

 要するにジンセンフは森の中で迷子になり、行く当てもなく彷徨っていた。



 変わり映えしない山道の景色にとっくに飽きていた。足も棒のようにダルい。このまま森の中で野垂れ死ぬ敷かないのかなんて、イヤな妄想まで浮かんできてしまった。やっぱり前の村にもう一晩泊まっていけば良かったと後悔が何度も浮かんできていた。この状況では貴重な干し肉も、噛み倒して味がしなくなって飲み込んだ時、目の前に急に開けた野原のような場所があることに気づいた。


 実際に野原の中心に立ってみると、周りは相変わらず草木が生い茂っているのに、その空間だけは柔らかそうな芝生が広がっていた。高い木がない分、久々に陽光を浴びることにもなった。ジンセンフは、とっくに歩き疲れていたので、これ幸いと横になった。


一度寝転ぶと何もする気がなく、かといって歩いてきたばかりで寝れそうもなかった。


さっきまでの自分の足音もなくなり、辺りは全くの静寂が広がっていた。

耳に意識を傾けると、自分の微かな息遣いに気づいた。


スーー フーー  スーー フーー


吸う音と吐く音の、微妙に違う音が一定のリズムで繰り返されていく。


体内の感覚に意識を向けると、鼻から入った空気が肺いっぱいにするのが分かる。その空気は体中を循環し、また鼻を通って外気に戻っていく。その過程で繰り返される、ゆっくりとしたお腹の上下運動。


静かな呼吸を繰り返す中で、ジンセンフは段々と自分の体の痛みが和らいでいることに気づいた。同時に、言い知れない不安感や倦怠感が無くなり、根拠のない安心感が全身を包み込んでいるのを感じた。


今はただ、この気持ちいい感覚をたのしんでいよう


いつぶりだろう、自分の呼吸にだけ意識を向けるのは。じいちゃんにはよく、『呼吸と向き合う時間を作れ』なんてしょっちゅう言われてたけど、あの時は『そんな退屈なことやってられるか!』って思ってた。修行つけてもらってた時は無理矢理やらされてたけど、ただただ苦痛な時間だった。1人で旅をしてからは、1回もやんなかったなぁ。さっきまで言われてたことすら忘れてたわ。こんな回復力あるんだったら続けとけば良かったなぁ。



「あー、気持ちよかった。」

たっぷり新鮮な森の空気を楽しんで目を開けた時、つい独り言が出てしまった。まぁ、誰もいないからいいか。



「…イガトゥ」


え?


何か聴こえた気がする。しばらく人と話してなくて、寂しくなって幻聴でも聞こえたんだろうか


「アリガトウ」


いや、今度ははっきり聴こえた!誰かがありがとうって言ってる!


首を振って周りを見回し、首を正面に戻した時、目の前に薄緑色のモヤのようなものが見えた。


「え、なんだコレ?」

「ボクは精霊だよ」

「うわっ!!」

目の前の謎の物体からはっきりと声が聴こえて、その10倍の大きさで叫んでしまった。モヤだと思っていたモノは、人間のような姿をしている。全体的に緑がかった半透明の、見た目10才くらいの男の子が目の前に立っていた。


「何コレとか言ってごめん、喋れるんだね。精霊って初めて見たな!キミは、何の精霊なの?」

「うーん、木の精霊て言えばいいのかな?」

「へー、本体はどの木になるの?あの1番高い籾の木とか?」

「うーん、僕はこの森のたくさんの木全部かな。」

「なんかざっくりだな笑。守り神的なことなの?」

「君たち人間みたいに、木に一本一本意識があるっていうより、森全体で繋がって1つのボクなんだよね。」

「へー、じゃあ森の精霊ってとこか」

「その方がわかりやすいかもね。」

「ありがとう、さっきまで心も体もボロボロだったんだけど、この森のおかげですごく元気になったよ。」

「それなら良かった。さっきは嬉しくていきなり話しかけちゃってごめんね。」

「全然だよ。オレの方こそ命の恩人に会えて、ありがとうまで言えて嬉しかったよ。何かお礼としてできることはない?」

「それは大丈夫だよ。」

「えっ、だって見ず知らずの人間のオレにこんなにしてくれて、何かお返しがしたいよ。」

「その気持ちで十分だよ。ボクたち木の精霊は1人では生きてはいけないんだ

 風の精霊が新鮮な空気を運んでくれて、

 光の精霊が太陽のエネルギーを届けてくれて、

 土の精霊が根を張るための大地を守ってくれて、

 水の精霊が媒介となって体中に栄養を循環させてくれる。

そうしてボクのヨリシロ達が元気に育って、ボクは精霊として自我を持てるようになる。だからボクは、他の精霊を大事にするし君たち人間も同じことなんだよ」

「そっか、精霊さんはさすが考え方も立派だね。つい損得で考えちゃうオレは、ちっぽけでダメなやつだ。」

「君も生きてるだけでいいんだ。人間は何かに成ろうとしたり叶えようともがく。でも、生命は生きてるだけで素晴らしいんだよ。」

「さすが長生きしてるだけあって、うちの爺ちゃんより深いこと言うなぁ。あ、コレは爺ちゃんには内緒ね笑」

「わかった、2人だけの秘密だね笑」


「そういえば名前はなんていうの?」

「名前はないよ、今人間の君と話してるけど、ボクたち精霊同士は言葉で話す必要がないからね。」

「キミが名前を付けてよ。」

「うーん、そうだな、、、ミモリってどう?」

「ありがとう!いい名前だね、嬉しいな」

「君はこの森にたまたま立ち寄っただけの部外者のオレを癒してくれた。すごく感謝してる。こんなオレを生きてていいって認めてくれた、そしてそれは当たり前だっていう。だから見守ってくれる森で、ミモリ」


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