黒いお邪魔虫と白いそよ風
ある時から、気づけば筋肉と気が張ってる部分には黒いモヤがかかってた。
コイツが現れてから、俺の体は固くなるようになってしまった
背中は張ってるし、頭は常にズキズキしてうっとおしい。
何年もコイツには悩まされてきた。時には、生きる気力も無くなるくらいに
でも、最近の修行や戦いで、ようやく気付けたことがある。
コイツは敵でも呪いでもない。体内の気の澱みを、痛みとして教えてくれるんだ
じいちゃんは言ってた。「いつか、お主にとってソイツが気流習得の、助けになる。感謝さえするだろう」って
そん時は、「またこのジジイ、テキトーな気休め言いやがって!」なんて思ってたけど、ホントに感謝する日が来るなんてな笑
そうだ、まずは名前をつけてあげよう。
体の中の淀みやコリを知らせてくれるオマエは、「ヨドコリ」だ
そう思えたら、ホントに意思がある生き物に見えてきて、急に愛着も湧いてきたな
オレの一部であり、オレの大事な相棒だからな
そうだよな、ずっとオマエはそこにいて、語りかけてくれてたんだよな
気づいたんなら、自分の意志で、自分の体と対話して教えてあげればいい
ーー《ホグシ》
呼吸で取り込んだ空気が、丹田で白い糸になったのを感じる
その糸を、今1番痛みがあって、ヨドコリの濃い左脇腹に流す
すると、少し痛みと黒さがゆるんだ。
よし、イイ感じだ。
無意識に入っていた力みに、感覚を集中させる。
意識して、体の各部位の力を抜いていく。
流されるまま、気の向くまま、体の自然な反応で、呼吸を繰り返す
少しほぐれてきたら、
両手を挙げて大きく伸びをして、左右の脇腹を伸ばしてあげる
じいちゃんの言葉が蘇る
「お主の体は、骨に筋肉が付いてでできているんじゃないぞ。気が流れてお主ができているんじゃ。」
あの時は意味が分からなかった。いや、学校で習ったことと違うし。迷信被れで時代遅れの勘違いジジイだなんて思ってた。ごめんな、じいちゃん笑
この世界には、物質にも生き物にも、目に見えていようがいまいが、ちゃんと気流が流れている。
1個の個体それぞれに気流の輪がある。それらが干渉し合って世界が成り立っている。
そうか、オレの体も、この世界の気流の1つなんだ。
自分の体に対して、「肉の塊」から「気流の束」という感覚に変化したのを感じた。実際の体はそんなに変化も無いはずなのに、身体の捉え方が変わったら、ホントに感じるんだから不思議なもんだ。
丹田に力を入れる。
左右の肩甲骨を寄せる
アゴを引いて目線は真っ直ぐに
ただ、体に意識を向け、姿勢を正すことだけに集中する。
丹田に力を入れる
左右の肩甲骨を寄せる
アゴを引いて目線は真っ直ぐに
丹田に力を入れる
左右の肩甲骨を寄せる
アゴを引いて目線は真っ直ぐに… …
どれくらいの時間が経っただろうか。
ふと、ヨドコリに目を向けると、漆黒だった靄が少し白みがかっていて、灰色に変わっていた。体も少し軽くなっていた。
「フフッ、なんて中途半端な色なんだよ、おまえ。
でもお前のおかげで俺は気流を身に付けることができたし、お前のおかげで自分自身の気流と向き合うことができた。
ありがとな。そしてこれからもよろしくな」