寄木の街③ 親子げんかと時々修行
太陽が登り、シンプルな構造の木造の家は日差しに熱せられていく。工房には若い男女が2人。少し離れてそれぞれ真剣に作業をしている。会話もなく、換気扇の回る機械音だけが熱気を揺らしていた。
そんな静かな熱を帯びた部屋に、髭だらけの男が入ってきた。
「お父さん、おはよう。」「おはようございます。」
「おう、二人とも早いな。」
「お父さんのほうが寝坊したんでしょ。冷めたご飯でおにぎり作ったから食べちゃって。」
「珍しく気が利くじゃねえか。」
「『珍しく』は余計じゃない?まったく、お父さんから寄せ木の技術だけをとったら、ただのダメ人間だからね」
「ヒトコト多いんだよ。オメーは!」
「さて、一言多いのは誰に似てしまったんでしょうね!?」
「おい、死んだ母さんの悪口はやめろ!」
「どうしたらそういう発想になるのよ!この石頭!」
「ふざけんな!オレの頭の中は寄せ木に使う『木』でいっぱいなんだよ!」
段々と居候先の父娘のやり取りにも慣れてきた。ジンセンフは隣の会話を聞き流しながら、木を削ることに没頭していた。
「オヤジさん、見てもらえますか」
ジンセンフはそう言って、削り取った木片を渡す。
それを黙って手を出して受け取る。口いっぱいに入ったおにぎりを咀嚼する度に下顎が大きく動くが、両目は渡された木片を凝視していた。
「少しはできるようになったじゃねえか。」
「ありがとうございます!オヤジさん!」
「その『オヤジさん』て呼び方もやめてくんねーか?俺の名前はイチマツって言うんだ。まぁウチのじゃじゃ馬を嫁にもらってくれるならその呼び方でもいいかもな。ハッハッハ!」
「ちょっと、勝手に結婚相手決めないでよ!」
ガールフレンド(仮)が、大股で歩きながら2人に近づいて来た。
「なんだ、今オトコがいるのか?」
「うっさいわね、いないわよ!こんな修行と家事に追われた引きこもり生活してて、出会いなんてあるわけないじゃない!」
「なんだよ、だから目の前にちょうどいいのがいるじゃねえか。」
「私もジンセンフくんがどんな人かまだ知らないし!っていうか、私年上が好きなんだから最初からストライクゾーン外してんだけど」
何だか知らないうちに一方的に振られてしまったが、まぁ修行に集中できるということでよしとしよう。父娘とも自分の存在を忘れて喧嘩が続いているのをいいことに、部屋の隅に移動し、また作業に戻った。
「おい、なんだ今日の朝飯は?おからしかねえじゃねえか。」
「馴染みのお豆腐屋さんに頼んでもらってきたの。」
「こんな犬のエサみたいなもん食えるか!」
「お金ないんだからしょうがないでしょ!ねえ、ウチも『貼り』の製品も売らない?」
「バカヤロウ、そんな魂売るようなマネできるか!」
「でも、『無垢』だけじゃ食べていけないのわかってるでしょ?」
「それはオマエの商売の仕方が悪いんじゃねえのか?」
「『オマエの』って何よ、ここはお父さんのお店でしょ!?『店長さん』もちゃんと真剣に考えてよ!」
「バカヤロウ!オレは職人だ!店長とやらになった覚えはねえ!森に行ってくるからその間に考えとけ!」
「ちょっと、待ってよ!」
扉を閉める大きな音が鳴り響き、苦虫を潰した顔のアサハがジンセンフのいる工房に戻ってきた。
「何よ、自分は寄せ木以外、何もできないくせに!ジンセンフくんも生活のためには『貼り』だけにこだわるんじゃなくて『無垢』も始めるべきだと思わない?」
「あの、ごめんなさい、『ハリ』とか『ムク』ってなんですか?」
「呆れた、、、ああごめん君じゃなくて何も教えてないウチのボン師匠にって意味ね。しょうがない、姉弟子のアサハさんが教えてあげよう。」
「お願いします、アサハ姉さん!」
少し機嫌を戻したのか、アサハの顔から苦虫が消えていた。
「ますは『貼り』。今君が作っている寄せ木の板をね、完成したら、鉋で薄くすくの。それを普通の木工製品に貼るっていう方法なの。一回寄せ木の紋様を作っちゃえば、何百個も製品を作れちゃうから。大量生産できるのが特徴ね。イマドキ他の大体の店はこれよ。」
「なるほど!」
ジンセンフはいつもより大きく相槌を打つ。
「次に『無垢』。寄せ木の板やブロックだけを組み合わせて、そのまま製品にする手法よ。
私達一家の流派はコレよ。寄せ木を全部使うから、紋様は一点もの。だから、紋様が製品全体を構成するからスピリットの強さは『貼り製品』の非じゃないわ!」
「だからこの店の製品だけスピリットの質が異常に高かったのか。やっぱりスゴイね、この工房の技術は!」
「ありがとう。そりゃ、これで毎日美味しいゴハンが食べられるならそれに越したことはないんだけどね、、、」
なんとか『タネ』を覚えて、ようやくオヤジさんに箱を開けてもらうことができた。
「ありがとうございます!これで帰れます!」
「良かったわね、これで気流士のおじいさんにいい報告ができるわね!」
「ん?おいボウズ、オマエそのジイサンの名前ってなんだ?」
「えっと、ユウドウですけど、、」
「あのクソジジイの弟子か。飄々としてるようで、無理矢理に我を通そうとするとこなんかそっくりだぜ。」
「たしかにジンセンフくんも結構ガンコだもんね。師匠と弟子でそっくりなんて笑っちゃうな〜。」
ジンセンフは早く帰りたかったので、何もツッコまず、お礼だけ丁寧にして工房を後にした。
帰ってじいちゃんに報告した。
「開けてくれたのか。ドレドレ中身は、、、そうコレだコレ。いやぁ、開けれなくて困ったんだよ。死んだばあさんとケンカした時に、コレを箱に入れられてからは本当にツラい毎日じゃった、、、」
そう言いながら、じいちゃんは取り出した木の棒を大事そうに持って、耳に当てた。
その様子を見ながら、段々と状況が見えてきて真相に気づいてしまった。そして、そんなハズはないと自分にいい聴かせながら、じいちゃんに尋ねた。
「もしかして、その箱の中身が欲しいから俺にお使いさせただけか??」
「いやいやそんなわけではない。決してな。コレは大事な修行であって。オホホ、やっぱり気持ちええなぁ。」
話している間ずっと、じいちゃんは耳かきする手を止めなかった。




