第壱魍魎 クスクス童と引導ロープ
ぽつりぽつりとアジサイの葉に雨が落ちる、霧で空気が淀んだ昼下がりの午後。
ここは嘘松3丁目。
愛理の相談を引き受けて一人と妖怪一匹をつれて調査に向かう内臓。
坂道を上る途中、煙草に火をつけようとして盗まれたタバコが無くなっていることにようやく気付く。
「クスクス坂童にやられたさー」
「クスクス・・・人っこひとり・・・クスクス・・・」
「あいっSirーやられたやられたまぬけ!まぬけ!」
懐から予備の妖怪よけの煙草をとりだすと火をつけ大きく息をふかす。
「煙といっしょに消えるがいいさー」
「クスクス・・・煙たい・・・クスクス」
内臓は妖怪にとって美味しい食材そのものだった。ゆえに好奇心と食欲で妖怪が集まってくるのだ。
いきつけの妖貨屋でかった妖怪よけの煙草が無ければ大変なことになってしまう、本人の妖力によって祓うことも可能だが友達のような存在を消したくはなかった。
あったはずの坂道がうねり平坦な道へと戻る。
「妖怪酔いしそうさー何度あじわってもなれんのー」
「あいっSirーなれるーなれるー」
「なれんのか?」
「うん!」
「よくわからんさー」
肩から妖力がぬけていくのがわかる、テル坊主はタバコでけせないうえに寄生宿主の妖力をすって生きている。
リュックサックには妖貨屋でかったグッズがたくさんはいっている。そのうちのひとつがタバコであり、今から使うのが引導ロープという代物だ。
「よいっしょっと」
空にめがけてイッタンモメンの妖の素材からできた引導ロープを空めがけて投げかける。
「引くよいさー」
「あいっSirーよいさーほいさー」
手伝ってくれはせず掛け声をかけてくれるテル坊主の声援にこたえつつ、引導ロープを空中にひっかけ引っ張る。
すると空がズイズイと近づいてくる錯覚を起こした内臓のもとにロープをひくごとに雲が近づいてくる。
一つひきよせるごとに雨がぽつり、二つ引き寄せると雨粒がポツリぽつり。
徐々に強まる雨脚に確信をもった内臓がさらに引導ロープを強く引き抜く。
引き抜くと先には小さな少年が宙にうかび泣いていた。
「かなしいよ・・・たすけて・・・」
「あいさーたすけにきたさー」
「誰・・・お兄さん・・・」
「愛理さんの知り合いの探偵さー」
「愛理ちゃんいるの・・・?」
うつむきながらしくしくと泣く少年は愛理という名前に反応するようになきやんだ。
「愛理ちゃんなら事務所にいるさーついといでー」
無言のまま泣き止み内臓についてくる少年を内蔵は探偵事務局までつれていくことにした。
彼が泣き止むと空からはしょっぱい雨は止み、小さな雨粒がシャワーのようにふりそそぎ虹をかけた。
「ハヤト・・・!」
「愛理ちゃん・・・!」
抱き合おうとするがするりとぬけてしまう。
霊体になってしまった少年ハヤトを抱擁できずになみだぐむ愛理。
「愛理ちゃんハヤト君みつけたさー。これで空も悲しまなくなったはずさー」
とある事件に巻き込まれ亡くなった少年ハヤト、その友人の愛理に問いかけるようにハヤトは小さく呟き消えていった。
「愛理ちゃん・・・おじさんがぼくを殺したの・・・事故じゃない・・・ころしたの・・・助けて・・・」
「ハヤト・・・!」
手を差し伸べると同時に霧消していくハヤトの霊体の跡をなぞるようにして手は宙をかく。
.「心配ないさー悲しいけど救われたさー愛理ちゃんにねー」
「そうで・・・しょうか・・・」
ぐすんと泣き崩れ落ちる愛理に手を添える内臓。
「犯人捜してつだってもらえませんか?」
「もちろんさー」
そういうと内臓はタバコに火をつけ帽子を深くかぶった。
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