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悪役令嬢三人娘奮闘記  作者: いずみわか
カテリーナの奮闘記
9/23

前世と今世

※新興宗教については100%作者の妄想です。特定の団体を指すものではございません。

 

 ドリュー家でのお茶会当日。


 カテリーナが朝食を食べに下に降りると、珍しくヘンドリクスが食卓に座っていた。

 内心"ゲッ!"と思いはしたが、顔色を変えない様に挨拶をして席へとつく。


「……カテリーナ。今日は才媛と名高いアイルーゼン公爵令嬢とグラン伯爵令嬢との茶会だったな。お前は才能も性格も劣っているのだから、せめて見た目を磨き、より気が回るようにならんといかん。男なぞ、花から花へうつろいやすいからな。少しでも気を抜けば、お前もジークハルト殿にすぐ捨てられてしまうぞ」


 カテリーナは、顔を合わせれば何かしら突っかかってくるヘンドリクスに辟易しながら、話半分に聞いていく。

 自分の事は別に何を言われてもいいが、推し(ジークハルト)の事を軽視する発言は看過できない。


「……まぁ、お祖父様ったら。ジークハルト様はそんな方ではございません」

「ふんっ! 男なんてものは皆同じだ。お前も、父親を見てよくわかっているだろうが」


 アーカスの話を持ち込まれたら、カテリーナはもう黙るしかない。口に出したヘンドリクス自身、不快そうに眉間に深い皺を作っている。

 以前は祖父の言葉一つ一つに傷付いていたが、今なら少し彼の気持ちもわからなくはない。

 息子であるアーカスの子育てについて思うところがあるのか、不器用で少し迷惑ではあるもののイザークやカテリーナを放置する事なく養育してくれている祖父の事は多少の尊敬とそれなりの感謝はしているのだ。


 かと言って、ヘンドリクスの話は聞いていて楽しいものではまったくないので、カテリーナは必死にフォークを動かして、もそもそと食べ進めた。


 ♦︎♦︎♦︎


 カテリーナは、前世でも今世でも暖かい家庭というものに縁がない。


 前世での両親は、母親がハマった新興宗教により物心つく頃には既に崩壊していた。父親は自分の稼ぎのほとんどを教団にお布施として捧げる母に我慢できずにカテリーナが五歳の時に離婚して家を出て行った。


 そしてそのまま、五歳から十五歳までの十年間を母親と過ごす事になるのだがそこからが真の地獄だった。

 新年になると、五十万円以上する教団発行の教本を毎年買い、毎日教本に書かれている教祖からのありがたいお言葉を、朝のお勤めとして大声で読み上げる所から一日が始まる。

 学校が終わると、母親に連れられて布教活動に勤しみ、憐憫の混ざった冷ややかな視線を浴びながらご近所を回るのだ。


 中にはクラスメイトの家もあり、学校ではまるで腫れ物に触るような扱いをされていた。

 虐められなかったのは、皆本気で『こいつをいじめると呪われる』という噂を信じていた為だろう。


 カテリーナが前世で十五歳になると、母親は自分の死んだ両親の残り少ない遺産を持って、借金を全て踏み倒し、完全に教団信者として出家する事になった。カテリーナは出家を断固拒否した為、役所の人が父親に連絡をし、そちらへと引越しをした。

 ようやく平穏な日々を手に入れたが、十年離れて暮らしていた父娘の溝は深く、埋める事は難しかった。


 その後は、うっかりブラック企業に入ってしまい心身を削られる中、唯一の楽しみは数々のゲーム攻略だった。

 仕事を淡々とこなす日々が続き、気がつけば母親と離れて十年以上経っていた。


 男性と付き合っていた時期もあったが、結局深い付き合いをする前に過労死してしまったのである。


 前世のカテリーナはマイナス思考で、根が暗い方だと自覚していたが今世ではだいぶ楽天的だ。

 今世では口うるさく偏屈な祖父と、多少冷たいとは言え兄がいる。

 ヘンドリクスの頑張りにより金銭的にも困窮してる訳でもなく、多少の嫌味に耐えれば格段に暮らしやすい環境にある。破天荒の先陣を切ってるアーカスのおかげ(?)で、こっちまで手が回らないのかある意味伸び伸び暮らしているのだ。


 ♦︎♦︎♦︎


「お久しぶりでございます」


 型式的な挨拶からお茶会はスタートした。最初の十五分はお茶会の映像を投影する為に普通にお茶を飲みおしゃべりを楽しむ。


 因みにドリュー家愛用のポットは、外付けの魔石に魔力を込めると直前に入れたお茶が無限湧きするという素晴らしい代物だ。

 アイルーゼン公爵家の様に、メイドが頻繁に様子を見にくる様な事はないので、これで三時間はいけるはずだ。


「よくこんなに衣装と鬘あったわね……」


 オリヴィアが感心とも呆れとも取れる声を漏らした。


「ね! 初めてお父様がいてよかったって思ったわ」

「一応孤児院の情報は事前に調べておきました。……調べたのは私ではなくロベルト様ですけど」


 ロベルトは母親を救ってくれたミレイユに今や骨抜き状態で、四六時中べったりになったらしい。どうせ捨てられるなら余り情が湧かない様にとミレイユは距離を保ちたいそうだが、必要とあれば侯爵家の威光も遠慮なくチラつかせて外堀を埋めてくるから、ミレイユはロベルトへの対応に非常に困っていた。


 無下にも出来ず、彼の事はもう気にしない事にして、ミレイユが孤児院の情報など調べていると、ロベルトがこの都市近郊の孤児院を全て洗い出し、ある程度特定してくれたそうだ。


 カテリーナとオリヴィアは、ロベルトの献身具合に思わずため息を漏らした。


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