表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

大魔王の地元では、魔王でさよならする

季節は夏。久々に地元に帰ってきた。


懐かしい景色を楽しみながら、夕方の街をぶらぶらと歩き回る。


お気に入りの懐中時計の針が、丁度6時を指した時。短調の三連符が気味悪く響き渡る。


シューベルトの『魔王』だ。


本来このように子供達に帰宅を促す放送というものは、『夕焼け小焼け』であったり、市歌や県歌であったり、もっと優しく語りかけるものだ。


しかしどういったわけか、俺の地元では『魔王』が採用されている。


親子に迫り来る影。魔王の甘い囁き。息子の悲痛な叫び。必死で馬車を走らせる父の努力も虚しく、息子は帰宅する前に絶命する。


簡単に言うとこのような物語なのだが、それはそれは恐ろしい曲調で、今聴いてもうっすら鳥肌が立つ。


大人の俺がこうなるのだから、子供達はさぞかし怖いだろう。


約4分にわたる曲が始まると、皆おもちゃを片付け、友人に別れを告げて一目散に帰宅する。曲が終わる頃には小学生以下の子供たちの姿は綺麗に消える。


そういう意味では本来の目的に適ってはいるのだが、そんなにビビらせる必要も無いのではないかとも思う。


歩みを進めていくと、公園に少年が一人残っているのを見つけた。


うん、分かるよ。皆が余りにも逃げるように帰るから「俺、怖くねえし」って悪ぶってみたくなる気持ち。女の子の前だとついやりがちだよね、分かる分かる。


昔の俺も、そうだった。


まあここは先輩として、そして立派な大人として注意しなければ。





ねえ君、お母さんにちゃんと教わらなかったかな?


『魔王』が流れても帰らなかったら…。







今日も僕は、地元の街をふらふらと歩く。


大人になってから久々に見る景色はどこか懐かしいようで、なんだか新鮮でもある。


そろそろ時間だ。


胸元から懐中時計を取り出す。僕の趣味ではないのだが、貰い物だから仕方ない。


古びた針が6時を指す。



『魔王』の時間だ。



この曲はいつ聴いても良い。陰気なメロディに子供の叫び。


ゾクゾクして鳥肌が立つ。


曲が終わった。僕は尚も散歩を続ける。


ふと見ると、空き地に一人の少年を発見した。

なんだかいじけたように俯いている。


これは友達と喧嘩したクチか?それとも弟妹ができて親に構ってもらえなくなった腹いせか?


まるで昔の僕を見ているようだ。





ねえ君、このルール知ってる?


『魔王』が流れても帰らなかったら…。

ハイファンタジーが書けない女なので今回も少し現実味のあるお話です。

やっと1000文字にも慣れてきました。あと何本書こうかなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ