実食とスキル至上主義
ローストウサギを切り分けて取り皿に盛ると、中にあるシンプルなチャーハンがウサギの脂を吸って黄金に輝いていておいしそうだ。
「いただきます」
と俺が手を合わせて言うと、二人はその様子にポカンとしていた。その両手にはナイフとフォークが握ってあった。あ、あれ?
「?どうしたんだ?そんな不思議そうな表情をして」
「い、いえ、何をしているのかな?って思いまして」
「あん?俺の居た地方での食事前のあいさつだが?自然や、穀物を作ってくれた農家などに感謝を込めるっていう意味だ。俺の国の宗教はあらゆるもの全てに神の意思があるという考えでさ」
と言うと少し苦い顔をされた。どうしてなんだ?
「・・・クロス殿。これは一つ忠告ですが、おそらくあなたは五日後のギルドの試験には問題なく合格するかと思います。そしてその流れで聖職者の人と共に仕事をする機会があるかと存じます。その時はその挨拶を絶対にしてはいけませんよ」
?どうしてだ?と聞いてみると。
「彼らは他の宗派をひどく嫌う。さらに貴方には回復魔法が聞きづらいので神から見放されたものといわれ、揶揄される可能性が極めて高いかと思います」
なるほど。じゃあ早々に回復手段を手に入れた方がいいな。と考えているが腹が大合唱を始めたのでまずは食べよう。
「わかった。留意しておく」
今はとにかくこの爽やかでジューシーな匂いが食欲を刺激しもう食べたい!
肉を口に運ぶとまず初めに感じるのは鑑別ウサギの肉だ。ささみのような歯ごたえともも肉のような上質な脂があふれ出す。その脂もさらさらとしつこくなくて、ミントやハーブのような爽やかな風味と野性味あふれる強い風味が殺し合うことなく溶け合って非常に美味い。
次に来るのは黄金色に輝くチャーハンだが、脂があふれ出ているためふっくらとした歯ごたえに、野菜の食感が丁度いいアクセントになっていて最高においしい。こいつはローストで当たりだ。だけど何か足りないような気がするけど、俺にはこれが限界だ。
「二人ともどうしたんだ……。はい?」
さっきから無言でご飯を食べる二人を訝しみ、見て見ると二人は唯々無言で肉を食べていた。言葉を忘れて。
「おーい大丈夫かー?」
と軽く肩を叩くとはっと気が付いたようで意識を取り戻し、恥ずかしそうにうつむいた。
「す、すみません。ちょっと意識が飛んでいました!」
「悪いな。この鑑別ウサギはあんまり獲れなくてな。美味かったぞ。え?」
「本当本当。って、え?フリットさん?どうしてここに?さっき出ていったのでは?」
っと俺の後ろにフリットさんという先程出ていった恰幅の良い男性が大きなお腹の上で丸太のような腕を組んで俺を見下ろしていた。
「おう。なんかいい匂いがしてな、来てみたらこれは、、、」
と大きくため息をつき、俺を蔑むような軽蔑の眼差しで見つめてきた。
「これはお前が作ったのか?」
「?はいそうですが・・・」
「はぁーマキの紹介だから期待したが、これは残念としか言いようがないな」
やれやれと手を横にして首を振る何だか芝居がかったような感じがむかつくけど、別にどうでもいいから無視する。
「こんなんじゃ、厨房を使わせられないな。マキ。お前も耄碌したか?まだ若いのに」
何だかさっきまですごくいい雰囲気だったのに、急に態度が悪くなったな。と思っていたらトーリュオ衛兵長が近づいて来て。
「フリットさんは元々貴族の厨房長をしていたんだが、そのせいで食事に関しては物凄いうるさいんだ。特にスキルがないやつの食事は食事じゃないとまでいう始末だ。」
それはそれは。
「そうですか。ですが俺は料理人ではないので、極めようとも思いません」
だって別にどうでもいいじゃん。俺料理人じゃないし。
「はん!料理人じゃない奴を俺の厨房に立たせたのか?やめてくれよ。俺の厨房が汚れるだろう」
うーん勝手に聖域認定されても困るんだが。まぁそれなら仕方がない。
「わかったか?これ以上俺の聖域を汚すなよ。まぁ?鑑別ウサギをくれるっていうなら「分かりましたもうこれ以上使いません」考え。はぁ?」
「ええ、ですから。もう二度と使いませんので」
と言うと冷や汗をかいている。あれ?これってもしかして。欲しかった?
「では俺はこれで。ああ、マキ。悪いが洗っておいてくれないか?俺はもうこいつの言う聖域に入れないから洗えないんだ」
「はい。わかりました。ごちそうさまです」
と俺は後ろ手に手を振ってから食堂を去った。何だか視界の端でフリットが鬼のような形相でこっちを睨んでいる気がするが。まぁ気のせいだろう。ということで部屋に戻った。
そしてその翌日少々おかしいことが起こった。今日はリュックの中を確認してそのメンテナンスをしようとして水場は何処か借りようとしていたんだが、
「すまないな、ここは今俺たちが使っているんだ」
とコックの服を着た男性たちがほとんど全ての水場を占領していて、防具までも洗っている。他の場所をっと思い風呂場を借りようとしたが、同じく無理だと言われ、鍛冶場には何故か俺のスキルのことが回っているらしく近づいただけでも何故か追い出された。うーん何でだ?
鍛冶場に追い出された後で何故だと首をひねりながら考えていると向こうからエピプ医務長が書類を拾っていた。
「あれ?医務長、手伝うよ」
小走りで近づいてから一言言って書類を拾い終わると、
「ああ、ありがとう。ついでにもう一個頼んでもいいかい?ちょっと一緒に運んでほしいんだ」
というので話の流れで資料室のような部屋に書類を運ぶのを手伝った。
「ところでさっき何を考えていたんだい?」
と運び終わると唐突に話しかけてくれた。俺は簡潔に状況を伝え、貸してくれないと言うと。
「ああ、フリットさんねぇ。相変わらず陰湿なことを」
「エピプ?どうした?」
何やら舌打ちをしてそうつぶやくエピプ。
「・・・クロス君ちょっと面倒な相手に睨まれたね」
何となくわかりますが、一応続きを聞いてみようかな。
「君はずっと山奥の田舎に住んでいたらしいから知らないと思うんだけど、おおよその国の主義としてはスキルはその人の将来を映し出す鏡という認識なんだよ」
ほう、、、それで?
「まぁある程度認識には度合いがあるんだけど、フリットさんに関してはその度合いが非常に強い。だから自分が立つ厨房に料理スキルのない輩を入らせるわけにはいかないという信念があってね。多分そのせいじゃないか」
という話を聞いて一つ疑問が解決したと同時にまた疑問が浮かび上がった。
「なるほど。あれ?ですが、マキは気に入られている様子ですが?」
「うん?ああ、マキ君か。彼は珍しい鑑定というスキルと目利きというスキルの二つを持っているんだ。この二つは物を鑑定するスキルと、物の品質を見極めるスキルなんだ。かなり珍しい。これがどういう事かわかるかい?」
あ!鑑定あるんだ!と俺は大興奮した。
「まぁ最高品質の食材を見つけられるのと、新しい食材を見つけて調べるのが容易に行えるってことだろ?」
「まぁそうなんだが、そんな彼の紹介だから始めは彼も目を付けていたんだ。だけどそんなときに君がやって来てスキルがないと分かったというわけだ」
「え?スキルの有無って一目見てわかる物なんですか?」
「ああ、うーんっとそうだなぁ。これとこれだな。よし!じゃあこの二つを見てくれ、どう思う?」
と言ってテーブルに置いたのは二本の液体の入った瓶だった。しかし、片方はかき氷のシロップのような透明感のあり、深い色合いの緑、もう片方はモスグリーン色をしている。どう考えても人間が飲むようなものじゃない。
「こっちはもしかしてスキルがある人が作ったものですか?」
と透明な液体の方を指さすと、満足げに頷いて。
「うん。そうだね。これは製薬のスキルのある人とない人が全く同じ動作で全く同じの機材に同品質の素材を使って作ったポーションなんだよね。薬効もこっちのスキル無しが作った方は唯々不味いだけの薬だ。薬効なんてあったもんじゃない。スキルのあるなしはこれ程までに違いがあるんだよ。要はスタート地点が違うだけなんだけどね」
ふむ。それでアイツは俺のことを目の敵にしていたっていうわけか。
「ちなみにこの透明な薬の方は私が作ったもので、こっちの濁った方はカノン、あああの眼鏡をかけた子ねあの子が初めて作ったものだよ」
え?あのドライな人が?信じられない。と思っていると察した様子で。
「まぁこれ以上は言えないからね。結論を言うと君はどこの鍛冶場もスキルの事を伝えたら絶対に使えないから自分用の鍛冶場をこしらえるしかないかもね」
「あーそうだ。水場が必要なら着いて来て。僕の個人的な部屋を貸そう」
と言いながら部屋を出て行った。しかしどうしてこの人は俺に優しいんだろうか?