部門長の落胆と滞在許可
各部門長の視線を浴びながら、俺は自分のスキルが書かれた紙を無言で眺めていた。
その沈黙を破ったのは生産部門のおっさんだった。
「ふん!呪いだか何だか知らんが、自分でものを一から作れん腑抜けに興味はないわい!!ワシはこいつを生産部門の会員に入れるつもりはないからの!!それに工房の貸し出しもせんぞ!!」
と踵を返してドスドスと音を立ててその場を去ったケイトさん。しかし残った二人はいつもの事の様に平然としている。
「悪いな。あの爺さんはいつもああなんだ。だが、ヤーディア。どう思う?」
「うーむ。この包帯はなかなか面白いし、物はいいけど。多分売れないと思うよ?」
え?嘘!今さっき資金源早ゲット!と思ってたのに!
「ほう?どうしてなんだ?正直滅茶苦茶売れそうだけど」
「うん。確かに物は絶対に売れると思うんだけど、スティンクも知っている通り、僕には鑑定があるでしょ?それによると、この包帯はこの人にしか作れない」
とても残念だ。と肩を落とす。良かったのか?よかったと思っておこう。
「まぁ少し彼に作らせ続けるのも考えたんだけど、勿体ないかなーと思ってね。だからしばらく何を作るのか見たいんだ」
おいおい。それを人前で言うか?
「それもそうだな、おいお前。ッツそう言えばお前の名前を聞いていなかったな。なんて呼べばいいんだ?」
あ、そう言えばすっかり忘れてたえっとどうしようかな。前の名前は好きじゃないし。うーん。よし!
「クロス・ディアンだ。クロスと呼んでくれ」
返答が少し間をおいてだったので、訳アリと思われたらしく、生暖かい視線を向けられた。
「・・・よろしくな。クロス!早速だがこれからテストをしたい。生産部門は期待できんが残りの二つ、流通と傭兵で結果を出せば入会手数料はいらなくなるぞ」
やめて!励まし交じりの言葉に視線は俺に刺さる!
「それより!お前が作ったものを見せてくれ!」
まるで少年のような期待のまなざしで見るスティンクとは対称的に、ヤーディアは値踏みするような眼を向けている。濁っているのか何なのか。
まぁそれでも一応俺が作った唯一の武器である弱牙咬強を見せると二人は相当苦い顔をした。特に期待の表情を向けていたヤーディアはひどく落胆した表情で、子供がクリスマスのプレゼントに欲しいもののパチモンを渡されたかのような表情をしている。
「はぁあーなぁーんだ。面白いものがみられると思ったのに、なまくらじゃんか。何だよ成長するって武器が成長なんてするわけないじゃんか。スティンク僕もこの人を流通部門に入れるのは反対だよ」
と酷く落胆。というか期待外れの顔をしてヤーディアは去ろうとして、途中で振り返って。
「あーでも君のその包帯は面白いから、それだけは認めてあげるよ」
とフォローにもならないものを言われた。
すごい掌返しだなぁ。
「悪いな。今回は年会費を払えれば登録できるからな。だが、今は病み上がりだからやめた方がいいな。五日後にこの街の総合ギルドに来てくれ。この紋章のある大きな建物だ。お前は田舎から来たと聞いたから衛兵に聞くといい」
俺は衛兵と聞いてすっごい苦い表情をした。だってつい小一時間前にリンチされたばかりなんだから。
「ああ、わかった」
と言うと事情を察したのか。
「安心しろ。お前にリンチをした盗賊衛兵共は全員しょっ引かれた。何ならそこの嬢ちゃんに案内してもらえ」
といって隣で置物になっていた赤い縁の眼鏡をかけた医務員に目をやった。
「え?私ですか?」
「うん。そう。いいよな?エピプ?この嬢ちゃんを借りても」
「うん。いいよ?ね?マキ」
「はぁーいいですけど、ボーナスくださいね?」
「うん。抜け目ないなぁ」
「というわけですので、五日間は個室の医務室を用意しますので、お宿代わりにしてください」
「ああ、私はマキ・ロールと申します」
マキロン?ああ、マキ・ロールですか。
「よろしくお願いしますマキさん」
「はい。よろしくお願いします」
一礼をしたマキを見終えて満足したスティンクは部屋から出ていく前に。
「ああ、そうだ。一時間ほど前に来れば試験に使う木剣を改造する許可を特例として許可してやるよう手配する」
と言って再び出ていった。……うーん扉の前で半身出して一言いうのって流行っているのかな?
「流行っていないと思いますよ」
マキさん心の声を読まないでください。
「ところで医務長はいつまでここにいるのでしょうか?」
「ええ?いいじゃないか!君のこの包帯に興味があるのとこの武器が何なのかなんかも興味があるんだよー」
「仕事してください。さっ行きますよ」
といって襟を掴んで引き摺って扉から二人は出ていった。
俺は近くの流しを借りてキャンプ用具を洗っていると、街に入る前にいたウサギの肉を思い出した。その事を近くの医務員に伝えると肉を見せて欲しいというので、見せると心底驚いていた。
「この魔物の肉はかなり珍しいですよ?こいつは鑑別ウサギと言って相手の強さを見て襲うかどうかを決める面倒な獲物なんです。しかもこいつ自体結構強い。そのうえ弱いものを集中して狙うという魔物です」
意外とやばい獲物だった?じゃあ目玉を使えば面白いものが作れそうだな。
「じゃあこいつはどうやって食べるのが一番美味いんだ?」
「僕のおすすめはローストですかね?腹に詰め物をして焼き上げるんです。此奴の肉はジューシーさとハーブのような爽やかさを併せ持つ肉なんです!」
と炊事場に案内してもらっている最中に解説を聞いた。
「あのーお願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「ちょっと分けてもらう事出来ないですかね?俺も手伝うんで」
お!いいところに助手ゲット!!
「ああ、いいぞ。しっかり手伝ってもらうからな。というか勝手に使ってもいいのか?」
「本当はあんまり良くないんですが、僕だけは食堂の人たちとは仲がいいんで。それに旅人の料理を見れるのは貴重な機会ですから」
いやそんなに期待の表情で見られても。
そんなこんなで案内してもらえた食堂は丁度夕飯の時間が終わり、夜勤の衛兵と交代したころで、みんな暇そうにしていたころだった。そう言えばもう夜だな。
「おうギプスじゃねぇかどうしたんだ?」
「あ!フリットさん!実は厨房を貸してほしいんです!」
「あん?それはいいがそいつも一緒か?」
と料理長と思う恰幅の良いフリットさんという人がそう不思議そうに俺を眺める。
「はい!この人が鑑別ウサギを狩ってきまして、丁度食べごろだったので料理したいと思いまして!どうですか?」
「ふむ。ああ、いいよ。ここにある食材なら、使ったものを言ってくれればいいからね」
と言って場所を空けてくれる。
「もう使えますよ!さぁまずは何をしますか!」
さて。料理しましょうかね。まずはっと鑑別ウサギの味見からかな?
主人公は普通に料理できます。これはスキルの範囲外なので。