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盗賊門番とスキルの存在

 俺はさっき言われたリュース家という商人のお使いを優先しようとして、野宿予定を切り上げて大急ぎで街に向かった。

 町は返しの付いた三メートルほどの明るい色のレンガで出来た壁で囲まれており、門から見える街並みは同じく明るいレンガで出来た可愛らしい雰囲気だ。

その光景に見惚れていると、門番が話しかけてきた。


「街に入りたいのか?入りたいのなら身分証を提示しろ」


その言葉に我に返り。身分証がないことを思い出した。


「申し訳ない。実は俺は山奥の田舎から来たもので、身分証を持っていないんだ」


取り敢えずここはこの手の小説のテンプレというかお約束を言ってみると、門番は少し訝し気に眉を顰め、槍を握る手が強くなった。


「ではなぜこの街に来た?」


「旅に出ようと立ち寄っただけだよ。さすがに村に来る行商人だとおあまり満足に物が揃えられないからね。この街でそろえようかと」


「…そうか。じゃあちょっとこっちに来てくれ。時間は取らせないが規則でな悪いな」


と言って俺は詰め所に通された。


 そして俺は詰め所の中の小会議室のような場所に通された。そこは机と椅子、それに魔法?で作られた光のたいまつのようなものが全体を照らしているだけのどう取り繕っても殺風景という風な部屋だった。

 俺は部屋の中央の椅子に座らされて、リュックと弱牙咬強を自然な動作で離された。そして衛兵が数人どかどかと押し入って来た。

 それからは俺は衛兵に囲まれて取り調べという名の質問攻めを受けていた。それこそ一つ一つの質問に答える隙もないほどに。

 何処から来たのか、今までなにを生業にしていたのか、なぜその年まで田舎から出なかったのかなどなど。果ては荷物のことまで漁られ、た。もはや盗賊だ。

 

 衛兵たちは俺のリュックの中身を見てこれは何だとこの鉄はいい素材になるなど三者三様というか一喜一憂の反応を示した。

 特に老兵から貰った財布の中身を見て懐の中に堂々と入れようとする始末。最悪だ。もう耐えられない。


「あのさ。何時から衛兵は盗賊になったんだ?いや、この場合蛮族か」


しびれを切らした俺はそうハッキリと聞こえる声でつぶやいた。

 その瞬間騒いでいた衛兵たちはその手を止めて静まり返った。どうやら俺の言った言葉の意味を理解するのに時間がかかったようだ。その証拠に顔が憤怒の表情に変わり、ゆでだこかと思うほどに真っ赤っかになった。


「き、き、き、貴様ぁああああ!!!優しくしてやれば付け上がりやがって!!それを言うに事欠いて盗賊だと!?我々を侮辱するつもりかぁああああああ!!!!」


いやだってそうじゃん。冷静に考えれば盗賊や山賊と何一つ変わらないじゃん。

怒った兵士は座る俺を囲んで椅子ごと俺の手を押さえつけて

抵抗しようと立ち上がるとそのまま顔面を殴られ、後ろに倒れ、その瞬間に腹を踏みつけられ、顔を蹴られた。弱牙咬強は衛兵に取り上げられて馬鹿にされている。

 俺は憎々しい表情を浮かべて俺を嘲笑う衛兵を睨みつけながら意識が薄れていった。


「おい!お前ら何をしているんだ!」


という声とバンッ!と扉が開く音と共に俺は意識を手放した。


 次に目を覚ましたのは知らない天井だった。いや本当に。ここはどこだ?体全体が痛い。

 何とか傷だらけの体を起こして、辺りを見渡すとベッドがたくさん置いてある医務室だと悟った。誰かが運んでくれたんだろうか。

俺が寝ている足元には先程俺をリンチしてくれやがった衛兵たちと、それより上等な鎧を着用した男性が申し訳なさそうな態度で立っていた。確かこんな表情を見たことがある。居酒屋で飲んでいた時に絡んできたサラリーマンが、翌日会社の俺がいる部署に上司と社長と共に土下座しに来た時だ。と言う事はこいつこいつらの上司か。


「目が覚めたか。体に問題はないか?」


とその上官が話しかけてきた。


「まぁ全身が痛いけど何とか動かせる」


と言うと心底ほっとしたような表情を浮かべた。その後、顔を引き締めて。


「先程は私の部下が粗相をして申し訳ない!!上官として謝罪する!!!」


と頭を下げてきたが、後ろにいる彼の部下は不貞腐れたような表情で立っていた。


「うーんそもそもこいつらの上官だと言われても見ず知らずの人間に謝罪されてもね。現行犯の彼らが謝罪も反省も何もないので意味がないのではないでしょうか?」


「何ぃ!!!本当か!」


慌てて後ろの衛兵たちを振り向くと衛兵たちは取り繕ったかのように謝罪する。


「そなたの気持ちはわかるが、ここは溜飲を下げてはもらえないか」


ダメだこりゃ。俺はその上官の謝罪を無視して枕元に置かれてあるリュックに目をやる。あ”?


「なぁ名も知らない上官さんよぉ。お前の部下はさっき反省しているって言ってたよなぁ?」


その言葉に表情が明るくなる上官と、体をびくっと震わせて体が強張る部下の衛兵たち。


「ああ!その通りだ!わかってくれた」


「じゃあさ。何で俺の荷物がボロボロなんだ?幾つかの物もなくなってるんだが。謝罪だけか?」


俺の弱牙咬強もない。

 その声にさぁーッと顔色が真っ青になる衛兵たちと目を剥く上官。


「それにさ、俺お前の名前も知らないんだが、謝罪するのに名も名乗らないのはどういう了見だ?」


その言葉に更にはっと気が付いて、その場で部下を叱責する上官(名無し)この人ピュアというか

一直線というか目的を見失ってないか?


「なぁ。そんな芝居はいいとして、俺はこれからどうすればいいんだ?正直こんなボロボロのリュックでうろつきたく無いんだが」


と言うとようやく上官が俺に向き直り、衛兵が持っていた弱牙咬強を取り返して渡してくれ、全員から財布を奪い取り、全て俺に渡してきた。


「これで許してくれ!!あと壊してしまったものは後で手配しよう!!」


まぁそれなら多少はいいが。


「それよりそいつらの処罰はどうするんですか?おそらくこんなこと良くしてますよ?」


と言うと少し考えてから。


「こいつらはしばらくの間謹慎及び減給しよう」


甘っ!!滅茶苦茶甘い!激甘だ!


「あのーそれじゃあ反省しませんよ?せめて普通の犯罪者と同じ扱いにしないと」


と言うとめちゃおろおろしている。恐らく慈悲のようなものがあるのだろうか?仕方がない。


「上官さん。一つ助言ですが、こういう事をした部下に示しがつかないのでこういう時はしっかりと処罰をしないと駄目ですよ。部下に舐められる恐れがある」


と言うと覚悟を決めた表情をして、


「お前たちは一度勾留し!追って沙汰を下す!おい!誰か来い!」


と言うとぞろぞろと衛兵たちがやって来て件の衛兵たちを連れて行った。

上官はさっきまでのなよなよとした表情から一転、きりっとした表情をしているがまだ無理をしている感じがする。


「それより、お願いがあるんですが」


と上官に言うと上官は何だい?といい笑顔をして笑っている。


「実は俺がここに来た目的の一つに、リューン家の人が困っているので、助けを呼んでほしいと言うものがあったんです」


と言うと顔色が真っ青になり、慌てて手配すると言い出してバタバタという音を立てて出ていった。

 ……そう言えば名前聞いてなかったな。っま!会う事もないし良いか!


と思っていると丁度入れ違いになる様に真っ白なローブを羽織った人が入って来た。


「ようやく目が覚めましたか」


とその人が持っている盆を見やると真っ赤な液体の入った瓶が入ってあった。


「何故かあなたの体に回復魔法が使えないので、此方をお飲みください」


と言って差し出した瓶を見ると、何故か使えないと判断してしまった。


「あの。ちょっといいですか?新しい包帯と、火はありますか?」


と聞いてみると怪訝な表情をしてこっちを見た。


「何故ですか?」


「うーーん。どうとは言えないんですが恐らくこちらも俺にはあまり効かないと思いますのでちょっと手を加えたいので。失礼なのは重々承知していますが。

どうかお願いします」


と聞いてみると、いやそうな表情をしてから仕方がないと机に御盆を置いて再び出ていった。

 その数分後、入って来たのは白衣を着た男性と先程の女性だった。


「この人です。医務長」


「ふむ。この人が…ですか」


「あのーどういう事でしょうか?」


「いえ、実はこちら、医務長なのですが、あなたが手を加える様子をぜひ見たいとおっしゃってまして」


と言ってお盆を渡してきた。


「なるほど、…いいですよ」


と俺はボロボロの体を引きずって椅子に座り、アルコールランプを使い、鍋に赤い液体を何の躊躇もなく全て入れてから包帯を浸した。

 しばらく待っているとその包帯に赤い液体がしみ込んでいき、血の様に真っ赤に染まった包帯が出来上がった。


「はい!ちょっとこれを巻いてもらえますか?」


といって手渡すと恐る恐る俺に巻かれた包帯を取り換えてくれた。

 数秒してから見る見るうちに俺の傷が癒え、包帯に巻かれていない箇所まできれいになった。


「っつ!これは!」


と目を剥く医務長とそれに準ずる医務員。


「ちょっと失礼」


と言って俺の包帯の一部を切ってモノクルをかけてじっくりと観察する。なんだ?


「これはすごいものだ!ぜひこっちでも試してみよう!あ、でもその前に君!」


と掴むように迫って来た。


「は、ひゃい!!」


「ぜひ君のスキルを見せて欲しい!もちろん口外はしない!!」


ちょっと待て!スキルってなんだ?


「ちょっとスキルって何ですか?」


「何!スキルの存在知らない?それはそれは、ではついでにこちらでスキルカードを作らせてはもらえないか?もちろん準備もこちらで全て行おう!」


と詰め寄る医務長に俺は首を縦に振るしかなかった。

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