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初戦闘とスキル発現

 さて。さっき入っていた地図を見るにあの建物から町までは歩いて三日はかかる。幸いなことにリュックの中身はすべて無事だったので、ウサギなどの獲物さえ獲れれば何とかなるはずだ。

 …現実は非情だった。草むら付近を歩いても何にも遭遇しない。ただ鳥の鳴き声が遠くの方で聞こえるのと、柔らかい風が草を撫でるような音しかしない。

 そのまま歩いていると遂に日が傾きかけて空が赤みを帯び始めた。

 そこで俺は一晩を明かすために見晴らしの良い場所を探すとすぐ近くにいい具合に禿げている丘を見つけた。坂道や周辺にもひざ下くらいの草が生えている。ここなら周囲がすぐにわかるはずだ。

 鉈を取り出して周囲の草をある程度刈り取り、乾いた草を多めに確保する。

 次にテントマットにシートを敷いて、場所を決める。そして少し離れた場所にテントを止める様のペグを鉄鎚で打ち込んでテントを建てる。っとテントを設営し終えたあたりで、もう太陽が地平線に沈んでいた。危ない危ない、間に合った。

 次に俺は数少ない木炭と着火剤、それにマッチを取り出してさっき刈り取って集めた乾燥した草を使い、簡易的に焚火を作った。

 ようやく一息つけると安心したらお腹が空いたので夕飯を食べることにした。元々や魔の山頂で一泊してから下山するつもりで食事も用意していたので、食料もそこそこ持つものを用意した。今回はその中でカレーライスを作ることにした。勿論レトルトだ。


 小さな鍋に四本ある二リットルの水を半分注ぎ込み、沸騰させ、レトルトパックを放り込んで、体内時計で時間を図る。さすがにどんな生物がいるのかわからない場所で強い音が出るようなものは極力使いたくはない。それに自慢じゃないが俺の体内時計はかなり正確だ。

 五、六分たったのでレトルトパックを取り上げて、残った水にドライのコメをざらざらと注ぎ、蓋をして二分ほどたつと、ホッカホカのご飯が出来上がった。

 忍ばせていたマルチナイフをハサミ変わりにして、封を切ってカレーライスにする。旨そうだ。

 静かに両手を合わせて頂きます。と静かに拝むように深く礼を言い、スプーンを使い口に運ぶ。

 思えばこれほどまでに深くいただきますというありふれた挨拶をしたのは子供のころに父親に連れられて鹿狩りに行った時以来だと思う。

 味は普通のよく食べているレトルトカレーなのだが、状況と環境が味覚を変えるというのはよく言ったもんだ。今この保存食が高級レストランの食事よりおいしく感じる。


 気が付けばカレーが少し塩っぽく感じた。


 頬を伝う温もりを持った水滴がなめくじの様に這って降りてくる感覚、目の前がにじむ。気が付けば俺は泣いていた。

 そのまま塩っぽいカレーを食べ終えて、コッヘルをタオル地の手袋で拭う。後で洗うつもりで。一度レトルトの容器に入れて置き、しばらく感傷に浸っていると、目の前の丘の下からあガサガサと草が分けられる音が聞こえた。

 俺は粗悪な鉄剣と、マルチナイフを手にしてその場から出てくるのを待った。完全な暗闇だからこっちから向かうより迎撃する方がいいと考えたからだ。


 少ししてからひたひたという音がしてそこからがに股の二足歩行の緑色の生物が見えた。ファンタジーで悪い意味で有名なゴブリンだ!ちょっとだけ興奮した。


 そのゴブリンは俺の持つレトルトパックをジーっと見つめている。おそらくこれが欲しいんだろう匂いにつられてやって来たのか?

 試しに俺はレトルトパックを左右に振ってみるとグアァグアァと醜悪な声を上げながら左右に首を振ったことで確信した。

 俺はパックをゴブリンの少し後ろに放り投げると余程空腹だったのかすぐに飛びついて夢中でそのタオル地に、パックに舌を這わした。口から滝の様によだれを流してそれこそ貪るように。


 俺は音を立てないように静かに立ち上がると、ゴブリンの真後ろに立って剣を両手で逆手に持ち、一息に首の後ろを貫いた。


 ゴブリンがそれに気が付いたのはその瞬間だった。短い悲鳴を上げて首から胴体が離れた。

 その首は血走ったような眼を剥いて暗闇の中に転がり、残った胴体からは緑色の血が吹き出ていて周囲を濡らした。


 俺は肩で息をして初めて生き物を殺めたことを思い吐きそうなにおいが充満した。血が止まって脈打つゴブリンの死骸を見つめて、次に殺めた武器を見て何故だか体が自然に動いた。おそらくこの粗悪な剣にゴブリンの素材を合成すれば強い武器が作れるということが何となくだがわかる。


 俺は試しにその謎の感覚に身を任せてみることにして見ていた。すると何かに引き寄せられるかのようにリュックに歩いて行き、鉄板を取り出した。

 次に剣をよく見て見るとひびが入っていて強めに叩くと割れてしまいそうだ。その剣を鉄板の上で叩いて割る。

 次に鉈を手に取ってゴブリンの大腿骨を取り出すと、どんどんと砕いていく。


 そして次に焚火の中央で煌々と燃える木炭を掬い上げるといくつもの薪代わりの乾燥した草と共に剣の上に乗せる。

 しばらくして赤熱した鉄を目の前にして鉄鎚を手にして思いっきり振り下ろすと、カァアアアン!!という甲高い音と共に火花が少し散った。

 それからは手がしびれるのもお構いなしにカンカンと振り下ろして刀身が倍くらいに広がったのを確認すると、ゴブリンの骨粉をパラパラとふりかけてまた再び鉄を鍛える。

 しばらくすると薄暗く赤熱した鉄がほんのりと緑色をしたのを見て、形を整え始める。

 剣をずらして鎚を振るい、またずらして鎚を振るう。しばらくその繰り返しをしていると意外といい具合に剣の形になった。先の方が少し幅広になっている何だか夜鷹の嘴みたいな感じの見た目だ。

 俺は数少ない水のうち一本を空けて刀身に注ぎ、一気に冷やした。そう言えば気が付いたらすでに空が白んでいる。

 赤熱が収まると刀身が黒緑色の刃が姿を見せた。

 次にマルチナイフからやすりを、リュックから砥石を、近くの岩を使って刀身を研ぐと、白い刀身からほんのりと緑色の身が姿を見せた。


 だけどこの武器が完成してからなんだかこの武器がすっごく馴染む。俺が手を加えたのかこの武器の間合いが、性能が良くわかる。この武器の名前は何にしようかな?

 えっとーファンタジーの世界では大体ゴブリンは最も弱い魔物の一部だけど、この武器にはまだまだ成長の余地がある気がする。ようし。じゃあここは造語でも作ろうかな?えっと弱者が強者を食らって丸呑みにするという意味で【弱牙咬強じゃくがこうきょう】にしよう!

 ・・・冷静になったら恥ずかしいな。じゃあこのまま俺はテントを片付けて先に進もうかな?眠たいけど。

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