第4話 魔法の才能
魔力が無いということは魔法が使えないという事だ。ゲームでいうなら呪文は覚えているがMPが常に0であるという事と同義だ。
魔力がなくて魔法を使えない…それは分かった。
しかしアキトにはそれについての原因に心当たりはなかった。考えられる可能性としては星渡りをした事くらいだろうか。
「えと、俺達はついこの間星渡りで魔力の無い地球から来たんですが、それと何か関係してますか?」
と言うと、更に不思議そうな表情を浮かべながら
「星渡りされた方…ですか。関係自体はありますが、むしろ本来星渡りをされた方は膨大な魔力をその身に宿すとされています。そもそも星渡り自体が、膨大な魔力の奔流によって出来ていますし、その中を通るとなると、その膨大な魔力の影響を受けて、生命エネルギーから魔力を生み出すための魔力回路と言われる物が人体に構築されます。その上で膨大な量の魔力を身に溜め込む筈なので、魔力が全く無いと言うのは不可解な話なのです。」
と説明してくれた。
星渡りをすると魔力回路が構築されて、膨大な魔力も得る。生命エネルギーを魔力に変換する回路。
(もしかしたら生命エネルギーを他のエネルギーに変換するって言う俺の能力と競合して弾いた可能性もあるけど、もはや惑星規模の災厄とも言える星渡りに一個人の能力が反発できるとは思えないんだよな)
とはいえ無い物をいつまで考えたって仕方ない。
「なるほど…分かりました。無い物は仕方ないので、魔法は諦めて剣士になろうと思います。」
「それが良いと思います。細かくは分かりませんが、剣術の才能は相当のレベルと示されていますので」
「剣の才能があるだけ良かったですほんと…。さてと、そしたらアオイも見てもらうと良いよ。星渡りした人は魔力すごいらしいから、魔法の才能があれば魔法使いになれるかも」
「は、はい!お願いします!」
かなり緊張しているようだった。地球での生活を通しても経験する事のなかった新しい事。
緊張と同時にアオイの表情からは期待も伺えた。
彼女は案外チャレンジ精神旺盛なのかも知れない。
アオイが水晶に手をかざし、先程と同じようにシーナが水晶を支える様に手を添えて目を閉じる。
すると、アキトが鑑定した時と比べても遥かに強い光が水晶から放たれた。
「ーーっ!!これは…凄まじいですね…!」
シーナが感嘆の声を上げる。
「アオイさんの魔法適正は、おそらく最高レベルの冒険者と同等かそれ以上かと…。加えて星渡りをしただけあって魔力量も超一流!どんな魔法でもバンバン使えると思います!」
おそらく滅多に見ないレベルなのだろう、シーナが興奮気味に説明している。滅多に見ない逸材ともなれば興奮するのも仕方ないだろう。
そんな中アオイはというとーー
「お、落ち着いてください、魔法適正の内訳を教えて下さい」
(冷静を装っているが、相当嬉しいんだろうな。瞳がキラッキラしてますよ)
しかし天はアオイに二物どころか何物まで与える気なのだろうか?そう考えずには居られない。
街を歩けば視線を集める程の美貌、異常なまでの学習能力の高さ、そして最高峰の魔法の才。
まさに才色兼備と言う言葉が似合うだろう。
「は、はい!まず、アオイさんは光属性の最上級魔法が扱う事ができます。光属性は特殊でして、攻撃魔法の他に治癒魔法を扱う事が出来ます。光属性魔法は中級までヒールなどの治癒魔法が主な役割になりますが、上級になるとある程度の攻撃魔法が使えるようになり、治癒魔法も怪我だけでなく、毒や麻痺と言った、いわゆる状態異常も直せるようになります」
(すげえな、既にパーティに1人欲しいくらいだ。これでも上級までなんだから、最上級は何なのだろうか。)
「最上級光属性魔法まで扱えますと、広域殲滅魔法を使えるようになります。恐らくアオイさんの魔力量なら王国の軍が1回で消し炭になるレベルの破壊力があるかと…。治癒魔法も広範囲化しまして、部位欠損、難病まで直せると言われていますね。」
(怖っ!めちゃめちゃ物騒な単語が聞こえ気がする。広域殲滅?王国軍が消し炭?治癒魔法に関しても、部位欠損や難病を治せると?)
最上級光属性の殲滅力も凄まじいが、高度医療にすら出来ない事をやり遂げられる魔法の存在。最上級は伊達では無かった。
「そもそも光属性を扱える方はかなりレアなんですよ?聖職者たちなんかは聖女だなんだと、喉から手が出るほど欲しがると思いますので気をつけてくださいね」
「わかりました」
アオイは最上級の光属性魔法の力を理解し、神妙な面持ちで返事をした。
「では続いて上級魔法適正ですね。氷、炎、闇の3つが適正になります。詳しい説明は省きますが、光と対を成す闇属性もまたレアなので、扱いにはご注意下さい。中級魔法適正は雷で、初級魔法適正は風と土になります。」
やっぱり得手不得手はあるのだろうが、アオイの適正数は多い気がする。今聞いた限りでも7つ出てきているが、一体いくつ属性があるのだろう。
「そういえば魔法って何属性あるんですか?」
「炎、氷、土、風、雷、そして光と闇で計7属性ですね。なのでアオイさんは全属性扱える事になります…」
そう言い放ったシーナの目はどこか遠い物を見る様だった。
この反応を見るに全属性扱う魔法使いは極めて貴重なのだろう。
驚きすぎて感情が虚無の領域に突入しかけている人をアキトは初めて見たのだった。
俺とアオイは冒険者登録と適正魔法などの説明を聞き終え、カエデの家へと帰ってきた。
「ただいま〜、冒険者登録してきたよ」
「あ!2人ともおかえり〜、自分の魔法適正とか分かった〜?」
「俺は魔力が全く無いって言われちゃったよ、でもアオイは凄いぞ?」
「ありゃりゃそうなの?アオイちゃんどんな感じだった〜?」
カエデ本人も冒険者という事もあって、耳と尻尾が興味津々と示しているくらいピョコピョコ動いていた。
「ええと、最上級の光、上級の炎、氷、闇、中級の雷、初級の土と風、だそうです。」
「おお〜!凄いね!魔法使いとしてトップクラスだね〜!!良かったねぇ〜!」
「にしてはあんまり驚いてない感じだな?ギルドの受付の姉さんなんて全属性適正を見て遠い目してたのに」
「ま、ボクも得手不得手はあるけど全属性扱えるからね〜」
てへっ!といった感じにカエデはウィンクをして来たが、サラッと爆弾発言をしてくれた。
「えええぇぇぇぇぇ!!!???」
そこから細かく聞くと、あんまり誰かに話したりするものじゃ無いけど、と言いながら色々教えてくれた。
カエデはSランク冒険者だった。冒険者登録の時にAまでしか話を聞いてなかったのだが、実はSランクまで存在しているらしく、数多の依頼解決をし、Aランク冒険者の中でも極めて高い戦闘能力を持つ者がSランクになるとの事だ。
Sランク冒険者はクオール王国の冒険者の中でも片手で数えられる程の人数しか居らず、Sランクになったものはランク降格が無くなり、国から様々な優遇措置を受ける事が可能になるようだ。
とは言えSランク冒険者の存在は機密事項らしく、表面上はAランクとして扱われるとのこと。
「すごいな、Sランク冒険者か…。全属性適正なら魔法使いとして過ごして来たのか?」
「んーにゃ?ボクは剣と魔法両方扱うよ〜。魔法だけだと近づかれたらお終いだし、剣だけだと遠距離はどうしようも無いから、じゃ両方使っちゃえ!って事でね〜」
「さしずめ魔法剣士ですか、凄いですね。私は剣の適正はなかったので憧れちゃいます」
アオイはカエデの実力を聞いて驚いた様で、魔法だけでなく剣も使えるオールラウンダーという事に感心していた。
「あ、そういえば帰ってきたら教える事があるって言ってたけど、一体何を…?」
「うふふ、それはね?2人にはボクが戦い方を教えてあげようと思ったの!」
Sランク冒険者のカエデ。しかも魔法も剣も扱えるとなれば2人の訓練相手として一番マッチしていると言えた。
アキトはアオイと顔を合わせ、互いに頷いた。
「ぜひお願いしたい、俺たちに戦い方を教えて下さい。」
こうしてカエデによる戦闘訓練が始まったのだった。