第3話 冒険者ギルド
「でっかい建物があるから来てみれば…ビンゴだな」
「ほんと大きいですねぇ…冒険者ギルド・クラウソラス、確か神話上の武器で光の剣、でしたっけ?…とりあえず入ってみますか?」
「正解、その道も詳しいんだな?…そうだな、カエデも待たせてるし、さっさとギルドカード作っちゃおう」
ギルドの中に入ると、たくさんの人で賑わっていた。
受付スペースと酒場スペースがあり、依頼を受けている人や、数人で酒を飲んでいるグループがいくつかあったりと、文字通り盛況と言った様子だ。
冒険者稼業は男性が多いのかと思ったのだが、案外そうでもないらしい。男性と女性の割合は6:4といったところだ。
見た目はそれぞれで、鎧を着ている人、最低限の防具を付けている軽装の人、魔法使いの様なローブを着ている人など、いかにもファンタジーという感じだった。
武器も剣、弓、杖、ハンマーなど色々ある様だ。
「色んな人がいるな」
「そうですね、魔力があるって言ってましたし魔法使いさんがいるのもなんだか納得ですね」
アオイはそう言って笑っていて、楽しそうにしていた。
受付に行くと、これまた綺麗なお姉さんが迎えてくれた。
「ようこそ冒険者ギルド、クラウソラスへ!私はシーナと申します。依頼ですか?」
「いえ、冒険者登録をしに来ました。俺とこの人の2人分お願いします」
「冒険者登録が2名様分ですね、そしたらこちらの書類に名前と、同意のサインをお願いします。」
2枚の書類を受け取り、名前の記入とサインをした。
「それではカードを作成して参りますので、少々お待ち下さい」
そう言い残してシーナは奥へと消えていった。
ほんとに名前とサインだけで良いのか、とアキトが考えているとアオイも同じ事を思っていた様で、
「身分証の割には簡単に作れちゃうんですね、こちらじゃこれが普通なのかもしれませんが少し不思議です」
と苦笑いしていた。
事実向こうじゃ免許証に関わらず身分証明書になるものは手続きも面倒くさいし発行までも長かった。紛失して再発行しようものならそれはもう大変だったのを思い出したのか、2人してゲッソリした気分になっていた。
「お待たせしました。ギルドカードの作成が終了しました。」
談笑していたらシーナが2枚のギルドカードと、水晶玉を持って戻ってきた。
(…水晶玉?)
「こちらがアキトさんの、こちらがアオイさんのギルドカードになります。これ以降ギルドで依頼を受ける事が可能になりますが、依頼を受ける際はギルドカードをご提示下さい。依頼を達成した時等に依頼貢献ポイントを付与しますので、必ず必要になります。依頼貢献ポイントが一定以上溜まると冒険者ランクが上がります。ちなみに現状お2人はFランク冒険者としての扱いになりますが、Eランク、Fランクの間はギルドカードの有効期限は無く、依頼を受けなくともカードが無効になる事はありません。」
「てことは逆にDランク以上は一定期間依頼を受けないでいるとカードが無効になるんですか?」
「はい。最後に受けた依頼からDランクは1ヶ月、Cランクは3ヶ月、Bランクは6ヶ月、Aランクは1年と、それぞれランク降格の猶予があり、その間に依頼を一度も受けて居ないと強制的にEランクへ降格になります。」
「ランク毎に猶予が違うのか…猶予を過ぎるとEに降格とはおっかないな」
「あの、お話を聞いているとEランクとDランクの間に壁というか、区切りがある様に思えるのですがそれは…?」
アオイが言う事にアキトが同調し、シーナに目線で説明を促した。
なぜFとEの2つが無期限で、D以降に降格猶予があるのか。何故ランク降格がFではなくEなのか。
「順を追ってご説明しますね。まずFランク、Eランクの依頼には、害獣討伐や魔獣討伐と言った危険な依頼はありません。掃除依頼や薬草採取の依頼など、所謂おつかい依頼が殆どです。これは駆け出しの冒険者が討伐依頼に出て事故に合わない為の措置になります。なのでそう言った討伐依頼はDランク以降に受理する事が可能になりますね。そしてFランクとEランクの依頼は、街で仕事している人達の副業向けにもなっているんです。仕事をしながら簡単な依頼をこなしてお小遣い稼ぎをする人は結構多いんですよ」
(なるほどな、冒険者を本業とする人はD以上、本業は他にあるけどお金が厳しい人向けにFとEがあるのか。たしかに仕事しててもお金足りなくなりそうな時ってあるしなぁ、それに本業の仕事してたらいつ依頼を受けれるかわからない。だからEとFは無期限なのか、よく出来てるな。)
「FランクとEランクの依頼は、Eランク依頼の方がやや時間と手間がかかります。ですがその分報酬金が増えますので、仕事をしながらでもまだお金がほしくて、少し時間に余裕がある人がEランク依頼を受けています。Dランク以上の方々が降格猶予を過ぎて一律Eランクに降格となるのは、それまでにギルドに貢献してくれた為に、降格後も報酬が良いEランクになるようになっています。ちなみにDランク以上の降格はご説明した通りですが、EからFに降格する事はありませんのでご安心下さい」
EからFに落ちることは無い。
だが全員が全員冒険者を副業にする訳では無いはずだ。自分達の様な人間だっているだろう。
(冒険者を本業にしたい人もFとEでしばらくやっていかないといけないのか?…聞いた方が良いな)
「冒険者を本業として始めたい人が手っ取り早くDランクに上がるためにはどうすれば良いんですか?EとFじゃお小遣い程度と言うことは、それで食べていくには厳しいって事ですよね?」
「そうですね。本業で冒険者を始めたい方はギルドで模擬戦をしていただいて、合格基準に達すればFランクからでもDランクに昇格となります。先ほども申しました通り、Dランクの依頼からは命の危険が伴いますので、ある程度の実力があると判断されなければDランクに上げる事はできません」
(なるほど、EとDの間に感じる壁ってのはこれか)
確かにいくら依頼を受けた本人の自己責任だとしても、死んでしまったりすればギルドの評判にも関わる。
それはギルドとしても避けたいだろうし、そんな評判が広まれば冒険者になりたがる人が減ったり、冒険者を辞める人が出てくる可能性もある。
冒険者の安全を最低限確保するのもギルドの信用に繋がるのだろう。
「分かりました。Dランクに上がるための試験はいつ頃なら開催していますか?」
「いつでも、ですね。試験を受けたい時にお声掛けして頂ければすぐに対応いたします」
(試験は常時開催と来たか!超良心的じゃん!地球のブラック企業より遥かに待遇良いだろこれ!)
とはいえ今から試験を受けたとしてもアキトとアオイに勝ち目は無い。今まで一度も戦ったことがないだけでなく、武器の扱いも魔法もまだ知らない。
修行をすれば戦えるようになるかも知れないが、アオイはどうするだろうか。
「俺は実力をつけてから試験に臨もうと思うんだけどアオイはどうする?」
「私もそれに賛成ですが、訓練のアテはあるんですか?私達はまだ何が出来るかも分からない状態ですよ?」
「あ…」
(そうだったー!あまりの待遇の良さに興奮しちまったが、俺らには戦う力がねぇ!)
「ふふふ、そんなお二人の為に!ここに『鑑定水晶』があります!」
絶句したアキトを見たシーナがクスクスと小さく笑っていたのを見逃さなかった。本人はそれを隠す様に水晶を出して説明を始めようとしている。
「鑑定水晶?」
アオイがこてん、と首を傾げて聞いている。
「はい、『鑑定水晶』には、水晶玉に手をかざした人の魔力量や魔法適正、武器適正を見る事ができる能力があります。なのでお二人には順番に手をかざして頂いて、どの分野が得意なのかをこれで調べていただこうと思いまして。」
(平たく言えば才能を見る水晶か…恐ろしい物だけど、知らず知らずのうちに自分に合わない武器とか使ってたら嫌だしやるべきだろうな。)
「なら俺から見てもらって良いですか?」
そう言って鑑定水晶に手をかざすと、水晶が微かに光り始めた。
シーナも水晶を支える様に両手を添えつつ、目を閉じた。
「ふむふむ、アキトさんの魔法適正は一言で言うなら普通…ですね。上級魔法まで扱えるのが氷属性、中級魔法まで扱えるのが風属性と火属性です。」
「普通ね…魔法の階級っていくつまであるんですか?」
「魔法の階級は全部で4つあります。上から最上級、上級、中級、初級ですね。アキトさんは上から2番目の氷属性を扱える事になります。あと、武器適正は剣が最適性の様です。ですが少し気になることが…」
シーナが目を閉じならが困った様な顔をしている。何か妙な事でも起きた、と言う様な感じだ。
「気になることとは?」
「ええと、魔法適正はあるんですが、その…アキトさんの体には魔力が全く無いみたいで…。魔力はあっても魔法適正が無い人は何度か見た事があるんですが、その逆は初めて見ました…。かなり特殊だと思います」
「え"っ?」
アキトは思わず妙な声が出し、アオイはポカンとした顔をしていた。