第2話 眠り姫の起床
俺とアオイは『星渡り』にて別の星に来てしまい、気を失っているところをたまたま獣人のカエデに拾って貰い、介抱されていた。
目を覚ました俺はカエデから説明を受けて、どうやってこの星に来たのか、ここがどう言う星なのかを聞いた。
俺は頭がパンクしそうになりながらも情報を詰め込んで行った。
「星渡りでこっちの星にきたけど、星渡りで地球に帰ることはできないのか?」
150年に一度という時点で人間の寿命じゃ次の星渡りを待つ事が出来ないが、星渡りでの行き来が可能であるなら、人為的に星渡りを起こす事が叶えば理論上地球に帰る事ができるのだ。
地球では仕事をしていたため生活が出来たが、こちらに来てしまっては仕事が無い。俺やアオイはこちらの世界の知識が無いため会社勤めの様な事は出来ないだろう。
かといってカエデのように冒険者になるには、平和をぬくぬくと生きていた俺たちにとっては厳しい職業であり、最終手段にしたい。
なので帰れる手段があるなら帰りたい。僅かながらの希望である。
「星渡りで元の星に戻る事はできないよ、さっき魔力でこの星が見えなくなってるって言ったでしょ?星渡りもこの星の魔力が大きく関係していてね、どうやら魔力を持つこの星と、魔力を持たない地球とだと、魔力があるこっちの星に引っ張られる様になってるみたいでね〜。地球にも魔力があったら多分帰れるって前に学者さんが言ってたよ〜。」
僅かな希望は一瞬で潰えた。
あははは、どうやら俺とアオイは知らぬ間に片道切符を握っていた様だ。笑えねぇ…。
そうなるとこっちで再就職するしかない。
アオイはどうしようか…。冒険者は危険そうなイメージがあるし、あまりやらせたくはないんだけど…
「んむぅっ…ここは…?あれ、天羽先輩…?」
寝ぼけ目を擦りながらこちらを見て首を傾げた。
「あ、起きたか眠り姫。こっちのケモ耳尻尾の女性はカエデ。俺たちの恩人。」
「わっ、獣人っているんですね。カエデさん、月島葵です。アオイで大丈夫です。よろしくお願いします。助けて下さってありがとうございました。」
「いえいえ〜、よろしくね〜!アオイちゃん!」
「よしよし、流石の飲み込みの早さだ。このまま何が起きたのかザックリ言うから、わからなかったら聞いてくれ。」
「分かりました!お願いします。」
彼女も現状を理解するためには俺から聞いた方が良いと判断したのか、真剣な目をしている。
「いくぞ?黒い裂け目に吸い込まれた、別の星に来た、これが星渡り。星渡りはこの星の魔力関係で起きていて、魔力の無い地球に戻る事は出来ない、早い話一方通行だ。つまり俺らは職を失ったという事になる。こっちで生活する為に再就職が必要。知識を集めて店を開くなりして働くか、冒険者か。ちなみに別の星だから苗字は意味ないと思う。以上!」
「にゃ〜…いくらなんでもザックリ過ぎない?アキトくんーー」
「なるほど、分かりました。そうですか…確かに地球には魔力なんて概念ありませんでしたし…地球には戻れないんですね…。歴史から考えると150年に1度しかない星渡りも人間の寿命じゃ待てないですし…。向こうでの仕事は気に入っていたのですが、仕方ないですね。あも…アキト先輩は再就職どうなされますか?」
アオイは理解したのか、俺に聞いてきた。
カエデは驚いているようだ。耳がピクピクしている。
「な?すっげーだろ?」
俺はカエデに笑いながら声をかけた。
「今ので全部理解できたんだね…。ボクなら分からないと思うよ〜…。」
カエデは苦笑いしていた。
「まぁ無理もないな、俺からしてもアオイのこれは特殊能力だろって思うしな」
そう、地球で働いていてアオイを指導していた時もそうだったのだが、アオイの飲み込みの早さと理解力は常人の比ではなかった。
1つの事を教えて2つ覚える人間は優秀であり、1つの事を教えて1つ覚える人間は普通である。
しかしアオイの場合、1つ教えると10個覚えるのだ。
以前仕事が忙しく、新しい業務内容についてあまり教える時間が無かった時も、軽く説明しただけで全てを理解していたのだ。
当人は普通に理解して覚えただけと言うのだが、そんな範疇を遥かに超えていると俺は感じた。
同時に仕事もそつなくこなすのでかなり助かっていた。
アオイは後輩ではあるが、アオイが俺の後輩である事を誇らしく思うし、俺は尊敬していた。
「まぁそうだな…、こっちで商売とかするにしても、地域の名産や、価値なんかが全く分からないからね、俺は冒険者になって旅でもしようかなって思うよ。」
「分かりました、アキト先輩が冒険者になるなら私も冒険者になってついて行きます!」
なんか即答でとんでもねえこと言い出したぞ?
「良いのか?わざわざ危険な事しなくたって良いんだぞ?」
「良いんです。アキト先輩が言った様に私達はこの星、この世界について何も知らないですし、それに私、アキト先輩と旅したいです。あっあくまで後学のためですよっ!?」
最後のツンは照れ隠しか?可愛い後輩だよ全く。
にやけそうになる顔を抑えつつ、平静を装う。
「分かった。アオイも冒険者になるって決めたならそれ以上俺はなんも言わないよ。それに1人で旅するよりも2人で旅した方が安心だしな。」
「2人とも冒険者になるのかにゃ?そしたらまずはこの街の冒険者ギルドに行って、ギルドカードを作ってくると良いよ〜。」
「ギルドカード?俺たちでももう作れるもんなのか?」
「大丈夫だよ〜。Fランク冒険者として最初は登録するんだけど、それだけならチョチョイと個人情報書いておしまい。ギルドカードはランク問わず持ってるだけで身分証になるからね〜。買い物とかするにもあった方が便利だからオススメだよ〜!」
なるほど、日本でいう運転免許みたいなもんか。東京住まいの東京勤務で車とか必要無いから免許は取らなかったけど、身分証として取ろうか考えた時もあったくらいだ。
実際に車に乗ってなくても、国が発行した運転免許証は身分証として絶対的な効力があるもんな。
「分かった、アオイと2人で行ってくるよ。ギルドカード作った後はどうすれば良い?」
「そうだね〜、カードが出来たらまたウチに戻っておいで、ボクが2人に教えられる事もあるからね〜」
「オッケー、んじゃ行こうかアオイ」
「はい!」
「行ってらっしゃーい!」
こうして俺たちはカエデ宅を出て、ギルドに向かった。
カエデにギルドの場所を聞き損ねたけど、明らかに目立つデカイ建物があったのでそこに行ってみることにした。