第1話 星渡り
「ここは…?」
俺は目が覚めた。見慣れない天井、見慣れない布団。
頭が痛い。一体なぜ俺は布団に寝ているのだろうか?思い出せない。
ここは見た感じホテルとかでもなさそうで、普通に誰かの家と言った内装だ。だがなんとなく違和感を感じた。
「なんか不思議なデザインの家具だな…。」
「んぅ…。」
声がしたので隣を見ると、もう1つの布団で月島さんがスヤスヤと寝ている。どういう状況だ?なんで月島さんが隣に寝ているのだろうか。
窓から外を見ると、太陽の昇り具合から昼ごろだという事が分かった。
「…となると月島さんとカフェで話してたのは昨日か…。そこからどうしたんだったかな…」
昨日は確か、クソ上司である木崎元部長と、グルになっていた上層部に適切な処罰が下ったという事で、連絡を兼ねて月島さんとカフェで話してた。
その後月島さんとカフェを出て、帰ってる途中に…?
思い出してきた。帰ってる途中、突然俺たちの真上に黒い裂け目が出来て、月島さんが引っ張られたんだ
それで月島さんが引っ張られない様に手を掴んで踏ん張っていたんだけど、裂け目の引っ張る力が強くなって俺ごと黒い裂け目に吸い込まれたんだ。
今隣に月島さんがいるって事は、吸い込まれた後もはぐれずに済んだんだろう。
しかしあの黒い裂け目はなんだったんだ…?
「あ!起きた!無事で良かったよ〜!」
物思いに耽っていたら、扉の方から明るい声が聞こえてきたのでそちらを向くと、そこには目を疑う姿の人?が居た。
白いストレートヘアを腰まで伸ばし、頭頂部に猫の耳の様な物が、腰あたりから猫の尻尾の様な物が生えている女性だ。獣人、と言うのだろうか?漫画やゲームで見た事はあったが、実際に見る事になるとは…。
背はそれほど高くなく、目視160cm程だろうか。
スタイルは抜群、こういうのをわがままボディと言うのだろう。細身ではあるが、出るとこは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
珍しい姿に見惚れていたら、耳と尻尾がぴょこぴょこと恥ずかしそうに動いている。どうやら飾りでは無さそうだ。
「あんまり見られると恥ずかしいよ〜」
「ご、ごめんなさい!その、初めて見たので…。」
「あ、君達がいた星には獣人は居なかったんだね〜」
と、ほわほわとした雰囲気で微笑んでいるが、今さらっと凄いことを言われた気がする。
君達がいた星って言ったのか?確かに地球に獣人が存在するなんて聞いたこともないが、ではここは地球ではないと言うのか?
黒い裂け目に吸い込まれて別の土地に来たと言うのならまだ分かるが、それが別の星ともなると訳が分からない。
そもそも、あの黒い裂け目自体が俺たちからすればイレギュラーではあるが、目の前で微笑んでいる獣人の女性の反応を見る限り、こう言ったことが初めて起きた、と言うわけではない様に感じる。
「あ!そういえばまだ自己紹介してなかったよね!ボクの名前はカエデ!見ての通り獣人族だよ」
「俺は天羽明人ーー」
と言いかけて気づいたが、もしここが別の星であるなら、苗字を名乗る事に意味があるのだろうか。
「あもうあきと?長い名前なんだね〜」
「いえ、天羽は忘れてください、アキトで大丈夫です。ちなみにこっちで寝てるのはアオイって言います。」
俺は未だ目を覚ましそうに無い後輩を見ながら代わりに紹介した。
「アキトくんとアオイちゃんね、よろしくね!」
「よろしくお願いします、カエデさん。」
「そんな畏まらなくても良いよ〜、もっとフランクにいこ?ボクの事もカエデでいいからね!」
「分かった、そう言ってもらえるとこっちも肩の力が抜けるから助かるよ。いくつか聞きたい事もあるんだけどその前に、俺たちを助けてくれてありがとう。」
「いえいえ、どういたしまして〜。それで聞きたい事っていうのは?」
「えーと、何から聞けばいいかな…。そうだな…まず、ここはどこなんだ?」
「ここはクオール王国、このあたりでは一番大きい国だよ。この大陸には他にも4つ国があるんだけど、クオール王国含めて5大国って言われてるの〜」
とカエデは教えてくれた。
大陸に国が5つ、それにクオール王国という聞いたことの無い国。地形から考えてもやっぱり地球じゃあ無さそうだ。
「なるほど、クオール王国ね…。んじゃ次の質問、俺たちはどうやってここに来たんだ?」
一番気になっている事を聞いてみた。あの謎の黒い裂け目に吸い込まれてこの星に来たという解釈が正解なのは何となくわかる。
だが黒い裂け目が人為的に起こされたものなのか、自然現象なのか、まだまだ分からない事が多すぎる。
「う〜ん。その事なんだけどボクも詳しくは分からなくてね〜。でも多分『星渡り』をしちゃったんだと思う。」
「星渡り?」
「そう、約150年に1度、この星が隣の星に極限まで近づいた時に起きる現象でね〜、隣の星とこの星が共鳴しあって空間に裂け目が出来るの。そこに生物がいると吸い込んじゃうみたいで、今より150年前、つまり前回も同じ感じで人がこっちに渡ってきちゃったんだって〜。多分それだと思うよ〜」
なるほど、確かに日本にいた時に歴史で学んだ様な気がするな。俺は歴史が好きじゃなかったからテキトーにしてたけど、150年前、謎の裂け目が目撃されて、近くにいた人何人かが行方不明になったと。時期的にちょうど当てはまってはいるが、不可解な点がある。
星渡りが隣の星である地球と共鳴したという事は、逆に言ってしまえば地球からも隣の星って事になる。
地球の隣の星と言ったら金星か火星になるけど、両者共に生物が快適に住める環境じゃあ無かったはずだ。
それに、星渡りで極限まで隣の星に近づくなら、地球から目視出来なかったのは不自然だ。
「俺たちの住んでた地球からはこの星は見えなかったぞ?いきなり黒い裂け目が現れたんだ。それに地球と隣り合う星は地球基準で金星と火星って言って、生物が済む様な環境じゃあ無かった筈なんだが…」
「ううん、この星は君達の住む地球の隣であってるよ。正確にいうならこの星は地球と火星の間にあるの。この星は魔力を帯びていて、魔力の影響で他の星からは見えなくなってるみたい。でも地球とかと同じ様に太陽の周りを公転してて、150年に1度だけ綺麗に地球と重なるの。」
ま、まりょく?なにやら聞きなれない単語が出てきたな…。
だがそれなら辻褄が合う。150年に1度、地球に重なる程に近づいても見えないのは普通に考えたら有り得ない話なのだ。
1年で1回公転する地球と150年に1度しか重ならないという事はこの星の公転速度は地球とほぼ変わらないのだろう。
星渡りの黒い裂け目が発生するのは極限まで近づいた一瞬。だが星渡りが終わっても星が離れているわけじゃ無い。恐らくは数年間は目視できる位置にこの星は存在しているはずなんだ。だけど今まで生きてきて見た事が無いなんて、普通は有り得ない。
魔力という存在は信じがたかったが、地球から見えない星があり、地球と同じように生命が存在する星が太陽系に存在する。それを地球人が認識出来ていないという事実が、逆に魔力という存在を事実足らしめる理由になった。
そうでもなければ惑星サイズの物体が何年も見えないなんて、超常現象でもあり得ないのだから。
「魔力…か、地球にはそんなものはなかったな。だがそれなら納得出来る。ちなみに俺たちがカエデに介抱されてるのはなんで?」
「あ〜それはね〜、ボクあの時他の街に出掛けてたんだけど、その帰り道に突然黒い裂け目が現れてね〜?そしたら中から人が2人降ってきたの!ボクびっくりしちゃったんだけど、気を失ってるみたいだったし、放置も出来なくて連れてきたって訳だよ〜」
「あ〜…ご迷惑おかけしました…。」
俺は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
突然人が降ってきて、気を失ってて放置出来ないから家に連れてきて介抱したとか、どんな善人だよ。
日本じゃ放置されるか通報されるかだってのになぁ。
…ん?連れてきた…?俺とアオイの2人を、この女の子が…?…ん??……???
「ちなみにどうやってここまで運んでくれたんだ?俺とアオイと2人も居るのに」
「ん?どうやってって、普通に背負ってきたんだよ?冒険者の力を舐めちゃいけないのですよ〜!」
むふん!と言うように胸を張っている。
マジ?こんな可愛らしい女の子が?2人を?担いで?…どうなってんの?獣人ってみんなこんななのか?
それに今冒険者って言った?それこそゲームでよくある様な冒険者?ギルドとか入るやつ?やばい、情報量多すぎて頭痛くなってくるぞ…。
「ほんと何から何までありがとう、カエデ」
とりあえず感謝しておいた。感謝しているのは事実だが、なによりこの量の情報の整理を投げ出したくなった。
「いえいえ〜、当然の事をしたまでだよ〜」
そう言って照れているだけで、当人は不思議に思ったりしてなさそうなのでこれが普通なのだろう。そう割り切ろう。
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