プロローグ
小学5年生から卒業までの2年間、俺は"恋愛マスター"と呼ばれていた。
だがそれはいかにも小学生らしい理由で、俺はその年の秋に開かれた運動会の徒競走で学年1位だった。子供というのは単純なものでクラスで一番かわいい女の子の「こうざきくんかっこいい~」の一言によってすべての女子が俺のことを意識するようになった。こうして俺はある日突然恋愛マスターになった。
恋愛マスターとなってから陰気だった俺の生活は一変した。学校に行ってすぐにクラスメイト全員に話しかけ、放課後には毎日クラスの男子とサッカーをやっていた。誰がどう見てもクラスの中心人物となり浮かれ切っていた。俺は調子に乗っていたのだ。学年が変わり6年生になって数日が経ったある日、クラスの様子がいつもとどこか違うことに気づいた。誰に話しかけてもどこかよそよそしく、それまで毎日誘われていた放課後のサッカーにも誘われなかった。それからまた数日が経ち、気づいた時には誰とも話さずに一日を過ごすようになった。これまで輝かしい称号だった恋愛マスターは見下すべき蔑称に変わり、囁かれていた噂話は悪口に変わってしまった。俺は一人になっていた。