「さかさニジの森」の小さなお話
むかしむかし、ある森に、りっぱなニジがかかりました。
そのニジはさかさまで、めずらしいニジがかかったその森は、いつしか「さかさニジの森」とよばれるようになりました。
さかさニジの森には、いろいろなどうぶつたちがくらしています。
おうたがじょうずな、ふたごのコマドリ。
リンゴが大すきな、食いしんぼうのヘビ。
あくとうよばわりされている、あばれんぼうのアライグマ。
モミジのかんざしとツゲのくしをさしている、お人よしのキツネ。
バイオリンがじょうずで、いたずらずきのリス。
白い貝がらのイヤリングをつけている、こわがりのクマ。
ほかにも、さまざまなどうぶつたちが住んでいて、みんななかよしです。
よい子ちゃんたちに、たのしい森のせいかつを、ちょっとだけお話ししましょう。
*
ある日の朝のことです。
ふたごのコマドリが、チーチーパッパとさえずり、森の一日がはじまったことをつげてまわります。
そんなとき、ねぐらから出てきたお人よしのキツネとこわがりのクマが、朝のあいさつをしていました。キツネは、あたまにモミジのかんざしとツゲのくしを、クマは、耳に白い貝がらのイヤリングをつけています。
「おはよう、クマさん」
「おはよう、キツネさん。きょうも、いいてんきですね」
すると、そこへバイオリンをかついだいたずらずきのリスがやってきて、ふたりにうわさばなしをします。そのリスのほっぺたはふくらんでいて、なにかが入っているようです。
「おっす、おふたりさん」
「おはよう、リスくん」
「おはよう。きょうも、バイオリンのおけいこですか?」
「まぁな。そんな話は、おいといて。ドングリいけのうわさは、しってるかい?」
「ドングリいけのうわさ? ――クマさんは、しってますか?」
「いいえ、キツネさん。わたしもなんのことだか、サッパリ。――どんなうわさなんですか?」
ふたりがくびをかしげながら、うわさばなしに食いつくと、リスはしめしめとおもいつつ、話をつづけます。
「森のまん中にある川をこえたさきに、よくすんだキレイないけがあるんだ。そこに、ドングリをなげこんでおねがいごとをすると、そのねがいがかなうんだってさ。きょうは、よくはれてることだし、ひまなら行ってみなよ。ドングリなら、オイラのをわけてやるからさ」
そういって、リスがりょうほうのほおぶくろからドングリをひとつずつ出し、ふたりにわたします。
「まぁ、ロマンチックね。――行ってみましょうよ、クマさん」
「そうね。面白そうだわ。――ありがとう、リスくん」
「ヘヘッ。どういたしまして」
ふたりは、リスにペコリとおじぎをしてから、ドングリいけを目ざして歩きはじめます。そのうしろで、リスが小さくガッツポーズをしているともしらないで。
しばらく歩いて行くと、ふたりは食いしんぼうのヘビが、リンゴを丸のみしているところに出あいました。
おしょくじをじゃましてはいけないと、ふたりがそしらぬふりをしてとおりすぎようとしたとき、リンゴをのみこんだヘビが、ふたりにこえをかけます。
「そこの、ごふじんがた。こんな朝はやくから、どこへ行くというのだね?」
「あら、ヘビさん。ごきげんよう」
「わたしたち、川のむこうにあるドングリいけに行くんですの。ヘビさんも、ごいっしょにいかが?」
「わがはいは、えんりょするよ。食べたあとは、しょく休みしなければ。あぁ、そうそう。川のつりばしは、ボロボロになってきてるからね。きをつけたまえ」
「あら、そうなんですか。――やめときましょうか、キツネさん」
「だいじょうぶよ、クマさん。せっかく、ここまできたんだもの。ひきかえすのは、もったいないわ。――それじゃあ、ごきげんよう」
「行くんだね? なら、くれぐれもようじんしたまえ」
ちゅうこくしたあと、ヘビは目をとじてねむりはじめました。ふたりは、ねたヘビをおこさないよう、足音をしのばせながら立ちさりました。
そのまま、ふたりはズンズンと歩きつづけ、森をはんぶんにわける大きな川にやってきました。
そこには、大きなつりばしがかかっているのですが、ヘビの言うとおり、つなも、いたも、ひどくいたんでいます。
「ヘビさんの言ってたとおりだわ。よしましょうよ、キツネさん」
「へいきよ、クマさん。ほら、こわがらないで」
しりごみしているクマを、キツネがせなかをおしてさきに行かせます。ふたりがつりばしをわたりはじめたとたん、いたをつないでいたつながきれ、さきにわたっていたクマは、そのまま川ぎしへとしゃめんをころがっていきました。
あわててキツネがおいかけると、そこには、びしょぬれになったクマとともに、プンスカといかりをあらわにするアライグマがいました。そのアライグマはあばれんぼうで、いつもはみんなから「あくとう」とよばれているのですが、いまはクマにせっきょうしています。
「バッキャローめ。そんなでかいずうたいで、つりばしをわたるヤツがあるか!」
「ごめんなさい、アライグマくん。おわびに、このイヤリングをあげるわ。――あら、キツネさん」
「わたしからも、あやまるわ。このかんざしとくしをあげます」
「フン。くえもしないもん、いらねぇやい!」
アライグマが、ふたりのアクセサリーをつっぱねると、クマとキツネはかおを見あわせ、そして、いっしょにリスにもらったドングリをわたすことにしました。
「それじゃあ、せめて、これをうけとってちょうだい」
「でなきゃ、わたしたちのきがすまないのよ。おねがい」
「わーったよ。そこにおいてけ。あとであらってくうから」
そう言って、アライグマがそっぽをむいてしまったので、ふたりは、ドングリをそのばにのこし、きた道をもどりはじめました。
「けっきょく、うわさがほんとうだったか、わからないままになってしまったわね、クマさん」
「そうね、キツネさん。でも、きょうはキツネさんといっしょにたんけんできて、たのしかったわ」
ねぐらの前にもどってきたふたりは、お空にかかるキレイな「さかさニジ」を見あげながら、なかよく一日をふりかえっています。
この「さかさニジ」とは、そのなまえのとおり、あか、だいだい、き、みどり、あお、あい、むらさきのなないろが、ふつうのニジとはさかさまで、そとがわからうちがわにむかって、むらさき、あい、あお、みどり、き、だいだい、あかのじゅんばんでならんでいる、とってもふしぎなニジで、まいにち、ごごニジからにじかんだけ、森のお空にあらわれます。
と、のほほんとおしゃべりに花をさかせているところへ、ふたごのコマドリが、いきせききってとんできました。なにやら、あわてたようすです。
「たいへん、たいへん!」
「リスくんが、リスくんが!」
「おちついて、コマドリちゃん」
「リスくんに、なにがあったの?」
「あのね。ねっこひろばの上をとんでたんだけど、そしたら、リスくんが」
「ねっこにつかまって、くるしそうにもがいてたの!」
「あらまぁ! たすけに行かなくっちゃ。――行きましょう、クマさん」
「そうね、キツネさん。はやく行かなくっちゃ。くらくなったら、マズいことになるわ!」
森には、たくさんの木のねっこがとびだしたひろばがあり、そこでウソをつくと、ウソをついたどうぶつは、ねっこにつかまってしまうのです。そして、それをたすけられるのは、ウソをつかれたあいてだけ。
このあと、リスはクマとキツネにたすけられ「朝のうわさは、ねもはもないウソだったんだ。ごめんよ」とあやまったそうな。
*
きょうは、ここまで。
よい子ちゃんたちは、もうおねんねのじかんです。
おやすみなさい。よいゆめを。