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器と力とルームメイト

「<重力加速(グラビトン)>」


「がはぁっ!」


通常の重力の5倍の力がマルクにかかる。


「どうだ?苦しいか?シャロルはきっとこれよりも強い圧力に苛まれて居たはずだぞ。」


「ぐっ…だが力無き者が退けられるのは当然だ!!あいつは力がないのに”器”だので特別待遇をされ、俺に当たるはずの光があいつに奪われた!当然の仕打ちだ!!」


“器”か。神が俺に言った単語にあったな。俺の”器”とは同じものなのだろうか。


「今はお前が力無き者だということを忘れるな。」


「<圧縮(プレス)>」


マルクの周りの空気が押しつぶされる。おそらく彼の周りは通常の空気圧の3倍程度になっているだろう。


「ぐっああ!!やめろ!!何故そんなに怒る!!」


「覚悟を持った人間がお前のようなクズに潰されるのが見てられなくてな。お前はその力が限界だろうが、シャロルはきっとお前をすぐに超える。」


「俺があいつに劣ると…」


「<圧縮(プレス)>」


空気圧をさらに上げる。


「ああ。お前はすでに心で大きく劣っている。シャロルもかなり当たりが強い印象があったが、お前のような権力を振り回すクズとは違う。あれは自分を保とうとしている人の目だ。」


「がはぁっ!!」


マルクがあまりの圧力に気絶する。


「<衝撃(ショック)>」


圧力が消えた代わりにドォン!という衝撃が走る。


「ぐはぁ!!」


マルクが地面に叩きつけられ、目を覚ます。


「人が話している途中に居眠りとはいい度胸だな。」


「ちがっ!!」


「<重力加速(グラビトン)>」


「ぐはぁ!!」


マルクは再び地面に叩きつけられる。


「さて、それじゃあ質問だ。お前がさっき言った”器”とはなんだ。」


「それが何かは知らない。ただ幹部(リーダーズ)がそう言っていた。」


幹部(リーダーズ)?なんだそれは。」


おそらくマルクは何かのチームのメンバーなのだろう。メンバーがチームを作ることも可能と教師が言っていたからな。


「それは言えな…」


「<衝撃(ショック)>」


「がはぁぁぁ!!」


「もう一発くらいたいか?」


「言う!!言うからやめてくれ!!幹部(リーダーズ)は俺が属している異端者でできたチーム”クロニクル “のいくつかに分かれたチームのリーダーとなっている人々で、全員がレート1500以上の化け物の集まりだ。」


レート1500!?異端者には本当に異端な者がいるらしいな。


幹部(リーダーズ)の上に何があるかや幹部(リーダーズ)の名前は知らないが、どうもシャロル・セイクリッドは彼らにとって重要な存在らしい。俺はそいつを手に入れるために日本へやってきた。」


なるほど。わざわざそのために日本へ来たとなるとそうとう重要な人物らしい。”器”というものが何かはわからないが、彼女が日本へ来たことにも何か理由があるのだろう。


「お前の本国はどこだ。」


「イギリスだ。」


ほう。おそらくその組織、クロニクルとやらはイギリスにあるようだな。それにしてもレート1500か。これは相当な鍛錬を積む必要がありそうだ。


「聞きたいことは以上だ。」


そう言うと、マルクの瞳に希望の光が灯る。


「俺は質問を止めると言っただけだ。お前への怒りが消えたわけじゃない。」


「なっ…!!」


「お前は俺の大切な配下、いや、友たちに傷をつけた。」


「なあシャロル、こいつは濱口と葵、お前に何をした?」


口を開けたまま唖然としているシャロルが声を発する。


「えーと、濱口の腹部を蹴って何処かへ飛ばしたのと、空色さんの背中を切りつけたのかしら。」


「お前に限っては今日だけのことじゃない。今までに何をされた。」


「私がイギリスにいた時はパンに土を塗られたり脚を斬りつけられたり、髪を引っ張られたり腹を殴られたりといったところかしら。」


最初のは完全に小学生のいじめだが、後半はなかなかに酷いな。それで今まともに過ごしているシャロルの精神力には驚いたものだ。


「よし、それじゃあ今復讐しておこうか。」


「えっ?」


シャロルがまさかと言ったような表情でこちらを見てくる。


「お前、もちろんこいつが嫌いだよな。」


「もちろんよ。あの嫌がらせの数々は決して時間が経って許せるものではないわ。」


「だそうだ。」


マルクに冷たい視線を送り、歩み寄る。


「やめてくれ!!それ以上近寄るな!!」


怯えた声でマルクは言う。


「人にそんなことをやっておいて、自分がやられる覚悟はないのか。ずいぶんと傲慢なことだ。」


そう言い、脚を振り上げる。


「<加速(アクセル)>!」


マルクの腹を蹴り飛ばす。


「がはぁ!!」


マルクが吹き飛び、木の幹にぶつかる。


「<(エア)(ソード)>」


空気を剣の形に圧縮し、マルクの背を斬りつける。


「ぐはぁ!!」


鮮血が飛び散り、マルクが地面に伏せる。


「そう簡単に死なせはしない。<念力(サイコキネシス)>。」


念力で止血する。


転がったマルクの髪を掴み上げる。


「<大地造形(ガイアモデリング)>」


パンの形に土を変える。


「<加速(アクセル)>」


マルクの口に突っ込む。


「むぐうぅ!!」


「<風刃(ウィンドブレイド)>」


風の刃がマルクの足を斬りつける。


「<衝撃(ショック)>」


マルクの腹部に衝撃を与える。


「ぐはぁ!!!」


これで彼も充分懲りたことだろう。


「復讐はこれくらいでいいか?」


「ええ。恨みの心は流石に充分晴れたわ。でもどうしてそんなに激怒したの?」


「俺は覚悟のない奴が大嫌いでな。なによりこいつは俺の大切な友を傷つけた。」


「大切な友…?」


「濱口に葵、それにお前のことだ。」


「私が…貴方の…?」


「違ったか?俺はすでにそのつもりだったが。」


「別に私は貴方の友になりたかったわけじゃないわ!!どうしてもなって欲しそうだったからなっただけよ!!」


シャロルがそっぽをむく。怒ってるようだが心なしか声が嬉しそうに聞こえるのは気のせいか。


「む、むむぐぅぅ。」


マルクが唸る。


「あ、忘れてたな。すまん。<超重力加速(グレートグラビトン)>。」


「むぎゃぁっ!!!」


マルクが潰れると同時に模擬戦終了の合図が送られる。


気付くと俺たちは模擬戦を始めた広場に戻っていた。


そこには授業を終えた全クラスの生徒がいた。心なしか皆怯えた目をしている。どうやら皆俺らの戦いを見ていたようだ。


「あの、僕何かしました?」


一番近くの生徒に問う。


「いえいえ!滅相もございません!!」


これ完全に怯えられたな。マルクのような腐った人間にしかあのようなことはしないのだが。


「いやぁ水原くん、初日からとんでもないことしてくれたね…」


担任の教師、シリル先生が呆れの混ざった驚きの声を発しながら歩み寄ってくる。


「いやまあ彼にはちょっと私怨というかがありまして…」


「まあ模擬戦にそういうのを縛るルールはないけどあんまやりすぎると皆のやる気がなくなっちゃうから気をつけてね?」


確かにこれを見せられたら模擬戦のイメージが悪化してしまうかもしれないな。


少しして、濱口・葵・シャロルが現れる。


「お、俺たち勝ったのか…?」


「ごめんね、私シャロルちゃんあんま守れなかった…」


「いえいいのよ空色さん。私こそ貴方に迷惑かけてしまってごめんなさい。」


「皆のところにマルクが行ったことに気付けなかったのは俺の失態だ。葵、お前がいなかったら俺たちは負けてた。ありがとな。」


「ほんとに?それならよかった!!私役に立ったんだね!!」


「ああ。いつも役に立ってるさ。」


「やったぁ!!」


葵は喜びに浸っている。


「それにシャロル。お前も自分を責めることはない。お前はきっと強くなれる。」


「別に自分を責めたりなんてしてないわ!!それに貴方上から目線すぎじゃない!?」


「だって上だし…」


「うるさい!!」


なぜか叱られた。


「あの、俺は…」


濱口が聞く。


「なあシャロル、こいつなにした?」


シャロルに問うと、呆れたような顔でシャロルが答える。


「敵に突っ込んでって2秒で屠られたわ。いや、1秒かしら。」


「えっと、まあ敵に突っ込む勇気があったのはすごいぞ。」


「苦し紛れにフォローするのやめてもらえますかね!?!?!?」


濱口が突っ込む。


あはははは!!と3人の笑い声が響く。笑いながら、シャロルの目元に涙が浮かんでるように見えた。


少ししてマルクたちが現れる。


「あっすみませんでした僕の負けです…」


そう言いマルクは足早に去って行った。きっともう変な事はしてこないだろう。


「じゃ、じゃあ解散しますか。」


シリル先生が言う。


スゥーッっと生徒たちが俺たちに目を合わせないように去ってゆく。


「あー、これ完全に嫌われたな。」


「ええ、そりゃそうよ。」


俺とシャロルが言う。


「お前たちなにやってたんだ?」


「気になる…」


濱口と葵が疑問の視線を向けてくる。


「えーっと、秘密だな!」


俺はきっぱり説明を断る。あの時のことを二人に話すのはちょっと恥ずかしいところがある。


「ええ、私たちだけの…秘密よ!!」


シャロルが途中で顔を赤くした気がする。何かあったのだろうか。


「えー、まあいいや!それじゃあ寮に行こっか!!」


「そうだな!!!」


「そうね。」


「そうだね。」


俺たちは寮に向かうこととなった。






女子寮と男子寮は校舎を挟んで反対側にあるため、俺と濱口、葵とシャロルにすぐに別れた。


「なあ水原、俺って本当にSランクなんだよな…」


濱口が不安そうな目つきで問う。濱口がこんな心配そうな声を出せるのか。


「あの機械には間違いはないだろう。」


「でも俺レート4だぜ。」


「異能はきっと練習すればどんどん強くなる。俺も最初は空気清浄機をすこし持ち上げるのが限界だった。」


「いや空気清浄機って…」


「お前も毎日練習すればきっと上達する。ただ加減には気をつけろよ。俺はそれで痛い目を見てきた。」


なんども俺は加減ミスで天井や地面、壁にぶつかってきた。炎でそれをされたら寮が燃えかねないからな。


「練習って言っても俺が炎を出すためには可燃材が必要なんだぜ、そんなに可燃材俺もってねえよ…」


火をつけるのに可燃材が必要なのか。もしかしたら無から炎を生み出せるシャロルとは異能の種類が少し違うのかもしれない。


「もしかしてお前の能力、火を出すんじゃなくて物を温めるんじゃないのか?」


「それってそんなに違うのか…?」


「ああ、火を出す能力と物を温める能力では応用とかが大きく違ってくる。」


火を出さす物を温めるなら、燃えない物でも温めたり溶かしたりできるからな。


「これ、やるよ。」


俺は懐から10cm立方の鉄の立方体を出す。


「お前何でそんなもん持ってんだよ。」


「なぜか俺立方体を見てると安心するんだ。だからお守りとして持ち歩いてるんだ。これ、異能の練習に使えよ。」


「いやでもそれお守りなんだろ?」


「それなら大丈夫だ。あと4個ある。」


「前から思ってたけどお前変だな!!」


「いやお前が言うなよ…」


あははは、二人の笑い声が響く。いつもの濱口に戻ったみたいでよかった。やっぱあいつは明るくないとな。


「それじゃあ寮に戻ったら少しだけ練習してみるよ!!」


そう話しているうちに俺たちは寮舎についた。


「えっと部屋割りの表は…」


「あ、あったぞ!」


濱口が指差す。


そこには俺の名前と濱口の名前両方があった。


「俺たち同じ部屋じゃん!やったな!!」


そして俺たちの部屋の面子の名前には俺たち以外に「ブライオス・アドルフ」、「レオナルド・アレクサンド」と知らない名前が刻まれていた。おそらく外国人だろう。Sクラスにいたような気がする。


「それにしても外国人多いな。この学園の5分の1くらいはいるんじゃないか。」


確かに外国人が多い印象がある。やはり他の国では受けきれなかった分だろうか。


「でも皆日本語話せるし気にすることじゃないだろう。」


「まあそだな!!」


俺たちが部屋に行くと、そこには二人の生徒がいた。一人は体格がとても大きく、肩幅は通常の人間の倍近くある。髪色は茶色で、優しそうな目つきをしている。もう一人は金髪で、痩せ型の体型をしているが身長はまあまああるだろう。彼はすぐさま俺を睨みつけ、迷いのない蒼い目を向けてきた。


「俺はお前が嫌いだ!!!」


いきなり嫌い発言をされてしまった。心当たりは大いにある。あの模擬戦だ。先生によると音声は届いていなかったらしいようで、ほとんどの人は俺がただ虐殺を行っているよう思えただろう。まったくとんだ風評被害だ。


「いやそれにはワケがあって…」


「いいや、嫌いだ!!」


これはしっかり説明しないといけなそうだ。




1時間後


「そうだったのか。疑ってすまなかったな。なにせ俺は正義の味方だからな!!」


すごく説得に時間がかかってしまった。模擬戦よりも疲れた。


「なあ、俺たち自己紹介してなくないか…?」


濱口が言う。説得に夢中になって忘れてたな。


「そうだな!一応皆同じクラスだけどもういっちょいっとくか!」


正義感が無駄に強い金髪が言う。


「俺の名前はレオナルド・アレクサンド!!正義の味方だ!!」


「一応ルームメイトだし異能とレートくらいは言った方がいいでごわす。」


体格の大きい方が話す。それにしてもごわすとは語尾が独特だな。


「うーむ、そうだな!俺の異能は電気を操る能力だ!!レートは210だ!!」


電気を操るか。応用の幅が広そうだな。


「拙者はブライオス・アドルフでごわす。レオナルドのお供でごわす。異能は怪力でごわす。レートは190でごわす。」


口調が独特だな。それにしても怪力か。かなり強そうだ。先生はSクラスのレート平均は110と言っていたから、二人ともかなり高い方だろう。


「俺は濱口俊だ!!多分物を温める異能だ!レートは4だがこれから頑張って強くなるぞ!!」


「4wwwwwwwww電子レンジかよwwwwww」


レオナルドが笑い転げる。


「レオナルド氏、失礼でごわすよ。」


「おっと失礼。ちょっと驚いただけだ。そう気を悪くするなよ。Sランクだしきっとすぐ強くなるだろ。」


濱口から強くなるぞという決意を感じた。


「えっと、僕は水原凱斗です。悪いやつが大嫌いなだけで別に悪いやつじゃないです。異能は物理法則を操る力で、レートは312です。」


「312!?!?!?俺よりもずっと強いじゃねえか!!!」


レオナルドが驚きの声を上げる。こいつ激しいな。濱口と気が合いそうだ。


「敵になったら恐ろしいでごわすが、味方になったら頼もしいでごわすな。それと水原氏、もうルームメイトの仲だ、敬語はいらないでごわすよ。」


「確かにそうだね。これからよろしく!」


「おうよ!!」


「ごわす!!」


最初はどうなるかと思ったが二人ともいい奴そうだ。


そして俺たちは風呂に入り、消灯した。






部屋の左右に1つずつある二段ベッドのうちの部屋の入り口から見て右側のベッドの下から声が聞こえる。


「いやぁー、レオナルド氏、オンセンとやらに入ると癒されるでごわすなー。」


声が聞こえた一つ上のベッドから別の声が聞こえる。


「そうだな!いつもなかなかねれない俺もねれそうだ!!」


隣の部屋に聞こえないよう声が小さめとはいえ、寝る前のテンションとは到底思えない。


「水原氏、日本人はいつもオンセンに入るのでごわすか?」


もう片方の二段ベッドの上にいる俺に話しかける。


「いや、大浴場って建物に行った時か、ホテルとかに泊まった時だけだと思うよ。」


「それでも頻繁にオンセンに入れるのは羨ましいでごわす!」


どうやらブライオスは相当温泉が気に入ったようだ。


「濱口氏はもう寝たでごわすか?」


濱口の声がない。


「寝たみたいでごわすね。起こすといけないでごわすから拙者たちも寝るとするでごわす。」


「そうだな!」


「そうだね。」


そして俺たちは眠りについた。


しかし俺は濱口が寝てないことを知っている。俺は二段ベッドの壁側の隙間から下を見た。


するとずっと鉄の塊を握っている濱口がいる。


「ははっ、お前らしいな。」


上から小声で話しかける。


「うるせ!俺だってずっと足手まといじゃないんだからな!」


どうやら彼なりの覚悟がしっかりあるようだ。

濱口くん、今後の活躍が期待できそうです!!

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