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地獄の炎

俺は濱口たちと異能大会の第二回戦を観戦していた。


「おっ!シャロルの戦いがもうすぐ始まるぞ!」


濱口が言う。


「シャロルさん…知り合いですか…」


シズが言う。未来を見て情報を得たのだろうか。


「なあシズ、お前の能力は未来を連続で見すぎると精度が落ちる。だから戦う時以外あまり見ない方がいいぞ。それに試合の結果を見ては面白みに欠ける。」


シズに言う。


「確かにそうですね…気をつけます…」


シズが言う。


相変わらず暗い口調だな。まだ緊張してるのか?戦ってる時はもう少し明るかったんだがな。


「それでは第二回戦、最後の組!音無翔さん、草原エリアに移動して下さい!」


シリル先生の声が響く。


白髪で金色の目を持った、中肉中背の男が現れた。


とうとう来たな、大気使い。


「シャロル・セイクリッドさん、草原エリアに移動して下さい!」


シャロルが草原エリアに歩いてくる。


「こんにちは。」


男が言う。


「こんにちは。早速だけどお互いのレートを知る権利を賭けて決闘をしてもいいかしら。」


シャロルが言う。


「いいよ。負けた方が勝った方に教えるってことでしょ。」


男が返す。


「ええ。音無翔に決闘を申し込むわ。」


シャロルが決闘を提示すると、男は承認した。


「じゃあ始めよっか。」


男が言う。


「それでは試合、開始です!!」


シリル先生の声が響く。


「早速行かせてもらうよ!<空気砲(エアロブラスト)>!!」


男が手をかざすと、風の衝撃波がシャロルに向けてとんでいく。


「<噴出加速(スパートアクセル)>!!」


シャロルが風の砲撃を横に大きく動き、避ける。


あれは昨日編み出した技だな。


「なかなかやるね。草の動きでどう飛んで来たか見たのかな。それならこれはどう!?」


男が姿勢を低くし手刀で空気を切る。


「<(ウィンド)(ブレード)>!!」


男がそう言うと、手刀で空気を切った場所からシャロルに向けて広がるように空気の刃が飛んでゆく。


「甘いわね。」


シャロルが上に飛び、避ける。


次の瞬間、シャロルの背後にあった森エリアの木々のいくつかが真っ二つに切れた。


「それを避けるとはなかなかやるね。それならこれはどうかな。<空気爆弾(エアロボム)>!」


男が手を上に持っていき、振り下ろす。


これは圧縮空気の爆弾か…


「<爆裂(エクスプロージョン)>!」


シャロルがすぐにそう唱える。


ドドドドドーーン!!!と、男が作った空気の爆弾が強制的に男の真上で爆破される。


「すごいね。あれが見えるんだ。」


煙の中から男の声がする。


煙が晴れると、そこには無傷の白髪の男が立っていた。


「圧縮空気の盾かしら。」


シャロルが言う。


「そうだよ。よく分かったね。」


直後、シャロルの背後で空気が爆発する。


しかしシャロルは自らの背後に炎の盾を張っていた。


「どうして分かったんだ…?」


男が言う。


「あなたの考えがお見通しだからよ。<豪炎弾(フレイムバレット)>」


シャロルが言い、炎の弾を何発か男に打ち込む。


しかし、炎の弾は男の前で一斉に消滅する。


「僕の盾は破れないよ。そこらの合金より硬くなるよう圧縮してるからね。」


男が言う。


「<魔竜(デビルドラゴン)(フレイム)>!」


負けじとシャロルが攻撃する。


しかし男の前で炎が消える。


「この空気の盾は炎程度じゃ破れないよ。<真空空間(エンプティスクエア)>。」


次の瞬間、男の盾に周りの空気が吸引されはじめる。


「<噴出加速(スパートアクセル)>!!」


シャロルが後ろ向きに加速し、盾に吸われるのを防ぐ。


「残念だけど、君に勝ち目はないよ。」


男が言う。


「ここら一帯を真空にするのよね。」


シャロルが言う。


「よく分かったね!でも君の能力じゃそれは防げないよ。」


男がそう言い、吸引をさらに強くする。


「ぐっ!!」


シャロルは必死に耐える。


「空気がなければ酸素もなくなる。つまりもうすぐ炎が出せない空間ができるんだよ。君の能力にとっては最悪の状態だね。」


男が言う。


「なっ…!」


シャロルが驚いた表情をする。


「まさか真空で炎が出せないことを忘れてたの?まあたとえ出せても君は呼吸できなくて負けることになるけどね。」


男が言う。


「ぐっ…」


シャロルが苦しそうな表情をし、膝をつく。


「これでもう真空になったよ。」


男が言うが、シャロルは何も答えない。


「あ、そっか。真空だから音が届かないのか。」


男は真空の中の空気の塊の中で納得する。


その瞬間、男の目の前が急に真っ暗になった。


「なっ…!一体何が!!」


男は周りを見渡す。しかしどこを見ても真っ暗だ。


「何が起きているんだ!?」


男は目をパチパチさせ、閉じていないことを確認したり、自分で作った空気の盾に触れ、自分が空気の塊の中にいることを確認したりする。


「周りが何も見えない…しかし、彼女は倒したはず…一体何が起きているんだ…?」


男が困惑する。


「真空空間で彼女が炎を出せるはずがない、ということは彼女の攻撃ではないのか…?いやしかし…」


男が必死に考える。


男の頰には汗が滴っていた。


「僕としたことが冷や汗をかいているのか…?」


男が少し考え、気がつく。


「違う…!!気温が高くなっているんだ…!!!」


男が焦る。


「一体どうして…」


男が空気の盾に触れた瞬間。


「熱っ!!!!!」


男が火傷した。


「まさか目の前が真っ暗になったのは俺の盾の周りに炎が纏っているからなのか…!?」


男が考え始める。


「しかし外は真空状態、それに間違いはない…この炎は一体なんなんだ!?」


男が熟考する。


「炎は普通光を発するもの…真っ暗な時点でこれは炎ではないのか…?」


男がさらに考える。


「それ以前に空気は熱伝導率が低い。そう簡単に空気を温めることはできないはず…じゃあ何故ここは暑いんだ!?」


男が必死に考える。


「くそっ!!こうなったら盾を爆発させて炎を吹き飛ばすしかない!!真空状態ではなくなるし盾も無くなるけれどやむを得ない!!<膨張(エクスパンション)>!!!」


男が盾を爆発させると、視界が明るくなった。


「なんだ…これ…」


男の目に入った明るさは決して太陽のものではなく、草原を焼け野原にしている緋く燃えたぎる炎のものだった。


「どうして…」


男がそう言った直後、男はとてつもない暑さに悶える。


「私の異能は"物を燃やす"わけじゃないわ。"炎を生み出す"のよ。」


シャロルの声が炎の中から聞こえる。


「そんな…」


男が言う。


シャロルが炎の中を歩き、男に近寄る。


「空をみてごらんなさい。」


シャロルが上を指差す。


そこには暗黒の空が広がっていた。


「あれこそが地獄の炎。あなたの盾の周りを纏っていたものよ。」


「そんな簡単に空気が温められるはずが…」


男が言う。


「あなたは空気がどうして温めにくいか知らないの?」


シャロルが言う。


「それは分子同士の距離が遠くて、密度が低いから…」


男がそう言った瞬間、気づく。


「あなたは空気を圧縮しすぎた。熱伝導率が鉄を超えるほどにね。」


シャロルが言う。


「そんなことよりどうして真空で生きてられた…」


男が尋ねる。


「私は炎の装甲を体全体に纏って自らの体に気圧と同じ力をかけていたのよ。」


シャロルが答える。


「しかし呼吸は…」


男が言う。


「この世界において炎を保つには酸素が必要なのは覆せない法則よ。だから私の炎は燃えるとき、酸素を一緒に生み出しながらそのエネルギーを使って燃えるの。燃えた直後の何とも結合せずにエネルギーを失った酸素は分子として、とても不安定な状態になるからすぐ消滅しちゃうけどね。」


「まさか…」


男が言う。


「ええ。体内で炎を作り続けたの。私の体は炎、熱に対する完全耐性があるからすぐに炎は消え、酸素しか残らないわ。それを利用したの。」


シャロルが言う。


「そんな応用が…」


男が驚きの表情をする。


「これで終わりね。」


シャロルが男に手をかざす。


「くそっ…!こんなところで終わりにはしたくない…!!<空気防具(エアロアーマー)>!!」


男が空気を圧縮した鎧を体に纏わせる。


その瞬間。


「ぐあああああああああああああああっっっっっっっっっっ!!!!!」


男が苦痛に悶え、直ぐに鎧を解除する。


「あなたが盾に閉じこもっていたとき、私はあなたの空気すべてを熱したわ。今はせいせい40度程度の気温だけど、その空気を圧縮すれば熱が蓄積され温度が上昇し、軽く100度を上回るわ。」


「く、くそ…」


男が倒れながらシャロルを見る。


「<空気爆(エアロボ)…」


「<爆裂(エクスプロージョン)>」


「ぐああああああっ!」


男が吹き飛ぶ。


ドゴオオオオン!!と突如シャロルの背後が爆発する。


しかしシャロルは防いでいた。


「何故!?」


「空気は圧縮すると少し温度が上昇する。私はそれを見ただけよ。」


「悪いけど、あなたに勝ち目はないわ。」


シャロルが言う。


「くそっ!!<真空空間(エンプティスクエア)>!!!」


男がものすごい速度で空気を吸引し、盾を作り、周りを真空にしていく。しかし。


「あ、暑い!!!体が焼ける!!!」


男が苦痛に悶え、よろめく。


「ああああああああああっ!!!」


男が自ら作った盾に触れ、火傷する。


「暑!!!」


男がそう叫ぶが、どんどん温度が上昇していく。


「暑…い…」


男が遂に倒れる。


「なんというか…勝負とはいえ罪悪感が凄まじいわね…自分で言うのもなんだけど悪魔みたいね…」


「試合終了!勝者、シャロル・セイクリッド!!!」


シリル先生の声が響く。


「ま、まさかあんなことができるとはね。参ったよ…」


男が少し顔に恐怖を浮かべながら言う。


「なんかごめんなさいね。あんなことして。」


シャロルが言う。


「い、いやいいよ。勝負だし。まあ僕も真空に人を入れた時点でひどいことをしてるからね。」


男が言う。


「あ、約束通りレートを教えてくれるかしら。」


シャロルが男に言う。


「う、うん。612だよ。」


「ありがとね。」





シャロルが観客席に来た。


「お前すげえな!!」


真っ先に濱口が反応する。


「なかなかいい試合だったぞ。」


シャロルに言う。


「すごかったでごわす!!」


「よく勝ったな!!」


ブライオスとレオナルドも続く。


「あ、ありがと。あら、その子。」


シャロルがシズを見る。


「私…水原さんのメンバーになった、遠見静香です…」


シズが言う。


「あらそう。………え!?!?」


シャロルがそこそこ大きな声を出す。


「ま、まあ普通は驚くよな…」


ま、まあとりあえず無事に第二回戦を終えられて良かった。明日の準決勝戦が俺たちにとってのもっとも大きな山だ。気を抜かないようにしないとな。

シャロルちゃん…恐ろしい子…

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