駆け引き
「はーいみなさーん!異能大会第二回戦のマッチングを貼り出しまーす!あ、ちなみに今日からは6限目のみが異能大会になりまーす!」
異能大会二日目の朝。シリル先生が異能大会のマッチングを貼り出した。
「今日も水原、ボコボコにやっちまえ!」
濱口が言う。
「最善を尽くすよ。」
濱口に返す。正直第二回戦と三回戦は勝つのが難しい試合になる可能性が高い。前に例の6人の能力について少し調べた結果、俺が第二回戦にマッチングする遠見静香、そして三回戦にマッチングするレトロノ・クノーゲルは相当な能力を持っている可能性が高いということが分かった。だが二人とも第一回戦では能力を使用したようには見えず、俺は対策が取れていない。
「次マッチングする相手、強いの?」
葵が心配そうに見てくる。
「ああ。でもきっと勝ってみせる。」
ここで俺が負けたらシャロルになんて言われるかわからないしな。
「頑張れよ!」
レオナルドに軽く肩を叩かれる。
そして6時間目、異能大会第二回戦の時間がやってきた。
「それでは出場選手はフィールドに出て下さい!」
シリル先生の声が響く。今日は最初から放送室にいるようだ。
俺たちは昨日のように模擬戦会場の森エリアに集まった。
「第二回戦一組目、水原凱斗くん、草原エリアに移動して下さい!」
シリル先生の声が響く。
俺は草原エリアにすぐ移動した。
「遠見静香さん、草原エリアに移動して下さい!」
声が響いた数十秒後、黒いコートを身に纏った黒髪短髪の少女がうつむきながら手を前に組み、ゆっくり歩いてくる。
「…こんにちは。」
小さい声で挨拶してくる。
「こんにちは。」
挨拶を返す。
「レートを知る権利を賭けて決闘してくれないか?」
単刀直入に聞く。
「…いいですよ。」
少女が小声で返す。
「ありがとう。遠見静香に決闘を申し込む。」
決闘を申し込むと、少女はすぐに承諾した。
「…」
少女は何も言わない。
なんだか微妙な空気だな…
「それでは試合開始です!」
シリル先生の声が響く。
直後、消極的な様子でずっとうつむいていた少女が突然顔を上げ、透き通った黒い目を向けてくる。そしてコートの中から拳銃を取り出し、向けてきた。
急に目つきが変わったな。戦闘モードに入ったと言うわけだ。
「<反射>!」
反射で対応しようとするが、銃を撃ってこない。
「これじゃ戦えない。」
少女が拳銃を投げ捨てる。
自ら武器を捨てた…?
「攻撃を仕掛けてこないならこっちから仕掛けるぞ!<重力加速>!!」
そう唱えた瞬間、いや、唱える直前、少女が大きく左に跳んだ。
ズゥゥゥン!という音とともに少女が先ほどいた場所周辺の草が潰れた。
重力加速を避けた…?それならもっと大きい範囲で…!
「<重力…」
バァン!!唱えようとした瞬間、少女が散弾銃を発砲してきた。
「<反射!!>」
咄嗟に銃弾をはじき返す。しかし少女は反射された銃弾を綺麗に躱した。
重力加速を防いだ上に反射を躱した…?それなら!
「<念…」
少女の動きを念力で封じようとした瞬間、少女は煙幕を放つ。
念力を使うには対象物を視認している必要がある…ここで煙幕を放ったということは念力を使うことが分かっていたのか…?いや、念力は異能大会では使っていない。きっとここで煙幕を放ったのは攻撃を仕掛けるためだろう。
「<反射盾>!」
反射盾を体を包むよう球状に貼った。これで攻撃は防げ…
ドカーン!!と反射盾の内側が突如爆発する。
「ぐはぁっ!!!」
俺は爆風で吹き飛ばされた。
いつの間に反射盾の内側に爆弾を入れたんだ!?身体強化でなんとか耐えたが、身体強化がなければあそこで試合は終わっていた…
「なかなかしぶといな…」
少し離れたところに立っている少女が言う。
この攻撃ができるのは異能を利用したからに違い無い。第一回戦で異能を使ってなかったように見えたのは、異能を使ってなかったのではなく使ってることが分からなかったんだ…!まさか彼女の異能は…
俺は目を瞑り、真上を向いて立つ。
「一体何を…」
少女が警戒した直後。
ズカァァァァン!!!と少女の真下の土が少女を空へ吹き飛ばした。
「なっ…!」
少女が驚いた表情をし、なんとか着地する。
やはりそうか。お前の異能は"心を読む"異能だな。
心の中で言う。
「よくわかったね。でもそれが分かったところで貴方に為す術はない。思考を空にした時、必ず隙が生まれる。」
少女が答える。確かにさっきの攻撃は1回目だったから通用しただけだろう。それなら!
<反射>!!
心の中で唱える。
俺がそう唱えた瞬間、少女が横に大きく飛ぶ。
直後、少女が立っていた場所の草が激しく潰れた。
「あまり考えないようにしてても貴方の思考が手に取るように分かる。心で唱えている技でない技を実際に使おうという思考がね。」
少女が言う。心の奥深いところまでも読めるというのか…それなら!
<念力>!!
少女が上に大きく飛ぶ。その直後、足元の草の上半分が真っ二つに切れる。
<衝撃>!!
少女が煙幕を張る。
<反射盾>!!
少女が大きく後ろに飛ぶ。その直後、煙幕の煙が下に叩きつけられる。
「連続してやっても無駄。貴方が本当に使う技が私にはわかるから。」
それなら!!
<風の刃>!!
少女が勢い良くしゃがむ。
「心の中で唱えた技と違う技を使うフリをして唱えた技を使っても無駄。」
どれだけ裏をかいてもお見通し、か。
やはり避けられない攻撃をするしか…!
「まさかっ!」
俺の思考を読んだのか、少女の顔色が曇る。
少女が必死に俺の攻撃を避けようと俺を飛び越え、俺の後ろに回る。
「<衝撃>!」
「ぎゃぁっ!」
しかし少女は避けられず、倒れる。
俺の周辺半径50メートル、すべての場所に衝撃を加えた。衝撃ならば広範囲にすぐさま攻撃をできるからな。
「いくら思考を読んだとしてもこの攻撃は避けられな…」
俺の背中に痛みが走る。
「なっ!!」
背中をすぐ確認すると、俺の背中には矢が刺さっていた。少女はこうなることを予測し、罠を仕掛けていたのだ。
「貴方の反射の弱点は大きな技を使った時、反射のバリアを貼っていられないこと。ね?」
少女がゆっくりと立ち上がり、言う。
そんなところまで読めているのか…普通に攻撃してるだけでは全部読まれるどころか反撃を許してしまうな。
だったら圧倒的な力を以ってねじ伏せるしかない!
「<時間加速>!!!」
周りの時間がどんどんと遅くなってゆく。
時間加速を使えば俺の思考速度も数百倍になる。それだけの速度をもった思考を読むことは不可能…!
その直後。
「ぐぁっ!」
急に心臓が痛み、反射的に時間加速を解除する。
「貴方のその能力、心臓に負担がかかるんでしょ。さっきの矢に心臓を一時的に弱らせる薬を塗ったの。」
少女が言う。まさかそこまで読んでいたとは…
俺は地に膝をつく。体が動かない。
「これで終わりだね。」
少女が最初に出した拳銃より一回り大きい拳銃をコートの中から出し、俺に向ける。
しかし少女は銃を撃たず、代わりに石を俺に向かって蹴り飛ばす。
ガキュン!という音を立て、石が弾かれる。
「貴方が最後の力を振り絞って1回分だけ反射を張っていたことはお見通し。残念だったね。」
少女が再び銃を向ける。
「どれだけ考えないようにしてても読まれていたのか。心を読む異能…とてつもない強さだな。」
「貴方がどれだけ強くても私には勝てない。これで本当に終わりだね。」
少女が俺に銃を向ける。
「ああ。これで終わりだな。」
俺がそう言った直後、少女が驚愕する。少女は今すぐ距離をとりたいような顔をしているが、少女の体は動かない。いや、動けない。
「お前の体はもう念力で封じた。お前が動くことはできない。」
「どう…して…」
少女が言う。
「1分。」
俺が人差し指を立て、少女に言う。
すると少女はまさかと言わんばかりの表情で見つめてくる。
「お前が見れる一番遠い未来だ。」
俺がそう言うと、少女が驚きに顔を染めながら言う。
「何故…分かった…」
「お前の異能は決して"心を読む"異能なんかじゃない。お前の異能は"未来を見る"異能だ。」
「一体…いつから…」
「最初から俺は心を読む異能だとは思っていなかった。お前が最初に"左に"跳んだ時点でな。でもそう思っている様に演じたらお前もそれに乗ってきた。ということはその時点でもうお前の能力は心を読む異能じゃない。となると一番可能性が高いのは未来を見る異能だ。」
「まさか…」
「ああそうだ。お前が見た未来では、俺が自分の弱点をペラペラ言ってただろ?だからお前はその見た未来を利用して、俺の攻撃を避けられ、俺に攻撃を当てられた。」
「そんな…」
「お前はわざと俺を優位に立たせるよう動き、俺が自分の弱点を言う未来を作り出していた。と、思う様に俺がお前を動かした。」
「でも…どうして1分と…」
「簡単な話だ。俺はお前に弱点を言う時間をずらし、どこを境目にその弱点が伝わる境目があるかを見極めた。」
「じゃあ…」
「ああ。俺がした攻撃全部が、お前がどこまでの未来を見ることができるのかの実験だった。」
「でもどうやって…」
「確かに俺がこのことバラした場合、1分前にお前はそれを悟ることができるだろう。お前の異能の"抜け穴"を使わなければな。」
「抜け穴…?」
「お前は気づいていないかもしれないが、1分後の"1分後の未来を見た自分"の未来を見ることはできない。それができたら実質2分後の未来を見ることになるからな。」
「そんな…」
「だから俺はお前がちょうど俺に止めを刺そうとしていた時、俺がお前に"ちょっと待ってくれ"と言った後俺はちょうど1分間必死に命乞いをした。お前がその未来を見た時はただの命乞いかと思って気にしなかった、それどころか勝利を確信しただろ?でもお前は、ちょうど俺が"ちょっと待ってくれ"と言うであろう時に未来を見てしまった。そして見えてしまった。お前が俺にリタイアを宣言する未来が。お前は自分が未来を見る未来を見ることはできない。つまりそれによって引き起こされる未来は見えず、それによって引き起こされる未来はそれがなかったことによる未来、つまり"嘘の未来"として見える。だから俺がお前に命乞いする未来、それはお前が未来を見ることがなかった未来、"嘘の未来"というわけだ。」
「…まさか私以上の策をここまで精密に、そして素早く練る者がいたとは。その上私でも気づかなかった私の弱点を見つけるとはね。降参だよ。リタイアする。」
「選手のリタイアが宣言されました!勝者、水原凱斗!!」
シリル先生の声が響く。
「…すごく強いですね…参りました…」
試合が終わると、最初の暗い雰囲気に戻る。
「それにしても"未来を見る"異能をここまで上手く使ってくるとは驚いたぞ。久しぶりに楽しい試合ができた。」
「私も…です…あの…もしよかったら…私を貴方のメンバーにして下さい…」
「ああ…ん!?!?」
「私…負けたの初めてなんです…だから…」
「メンバーって、しもべっていうことだよな…?」
「…はい…」
まじか。まさかメンバーにしてくれと言われるとは思わなかった。まあでも黒幕でないと分かったし、こちらとしても嬉しいな。
「お前がいいならいいぞ。」
「ありがとうございます…!!…もしよかったら気軽にシズって呼んで下さい…」
「ああ、わかった。」
ー遠見静香が付き従いましたー
付き従う…なんかもっと軽い繋がりでいいんだがな。
ー遠見静香さん、レートを水原凱斗に伝達して下さいー
「あっ…!そういえば決闘してたんだった…!えっと…812です…」
思ったよりずっと高かったな。まあ未来を見ること自体強力だし、1分とはいえ何度でも見ることができるわけだから妥当なレートか。
観客席に戻ると濱口達が出迎えてくれた。
「すげえ試合だったぜ!!」
濱口が元気に言う。
「俺には何が起きてるのかわかんなかったぜ!」
「水原氏、すごいでごわす!!」
レオナルドとブライオスも続く。
「対戦相手の子もすごかったね!!あんなにかいとくんの攻撃を避けるなんて!」
葵が言う。
「えっと、その子についてなんだが…」
俺の後ろからシズが顔を出す。
「しもべになりました…遠見静香です…」
そう言った瞬間、シズが耳をふさぐ。
「「「「えええええええええええええ!?!?」」」ごわす!?!?」
4人が一斉に叫んだ。
「なんでええええ!?!?」
「まじかよ!!!」
「すごいでごわす!!」
「後輩だ!!!」
まったく、観客席で騒ぎすぎだ。
頑張って頭脳戦書いたら思ったより時間かかって投稿遅くなっちゃいました。




