風邪
俺はいつものように濱口達と学校に登校した。
「あら。おはよう。」
「わあああああ!!また水原様だああああ!!」
そりゃSクラスの生徒だからな。
「ああ、おはよう。」
「きゃあああ!!生声ええええ!!」
「きゃああああ!!」
騒がしい二人がAクラスに戻る。
「一体なぜ俺が来たらAクラスに戻るんだろうか…」
「あなた達の朝の時間を邪魔したくないらしいわよ。あとあまり近すぎると心臓がもたないとか言ってたわ。」
うむ。つくづくわからん奴らだな。
俺はシャロルの周囲を見渡し、言う。
「葵はどうしたんだ?」
葵の姿が見当たらない。
「ああ、熱が出たから寮で寝てるわ。」
シャロルが言う。
「何度だ?」
「37度くらいよ。」
葵が熱を出した時は孤児院にいた時はいつも俺が看病していたな。いくらもう高校生とはいえ心配だな。
「大丈夫なのか?」
シャロルに問う。
「普通の体調不良みたいだから大丈夫だとは思うけど。」
シャロルが言う。
「お前相変わらず葵が熱出すと心配するよな。」
濱口が言う。
「そうなんでごわすか?」
ブライオスが言う。
「ああ、あいつは葵が熱出した時はいつも看病するんだ。」
「へえ!意外と心配性なとこあるのか!」
レオナルドが言う。
風邪かと思って放置してたら取り返しがつかないことになっていたとかそういうことがあっては困るからな。心配して当たり前だ。
とはいえ女子寮に葵がいるとなると女子寮には俺は立ち入れないからな。
よし、勝手に入ろう。
「すまんシャロル、俺急に気分悪くなって来たから保健室行くぜ。」
シャロルに言い、俺は教室を出た。
「まったくまたサボる気ね…」
俺はできるだけ人目を避け、校舎の外に出た。できるだけ怪しまれないよう男子寮に戻ってから校庭の方へ行き、体育館の後ろを回って女子寮に行こう。前学校を探索した時と同じルートだ。
俺は男子寮に入り、自分の部屋に行く。そして窓を開ける。
「<飛翔>!」
俺は窓から男子寮の屋根の上に登る。今回はレオナルドがいないことだし、透明化なんてせずに超速で進むか。
「<身体強化>」
「<時間加速>」
「<空気抵抗耐性>」
「<音響遮断盾>」
「<加速>」
俺は超低速の世界の中を高速で進む。空気抵抗耐性のおかげで風は起きず、音響遮断盾のおかげで音も漏れないため、恐らく遠くを飛んでいる俺を認知できる人はいないだろう。流石に人の真上を通ったら気付かれる恐れはあるが、このルートなら大丈夫だろう。
空を一直線に進んでいるとすぐに校庭の上空に達した。
「<反射壁>」
俺は反射壁を自らの前に右向きに45°に傾けて設置し、ぶつかる。そうすることによって俺の進行方向は右に90°回転した。
そして俺はすぐに体育館の上空に達する。ここからは上空の道ではいけないな。
「<停止>」
俺は自らの移動速度を無くし、体育館の裏に降りた。ただ女子寮からは女子が出て来ているため、空中、そして地上を通って行くわけにはいかない。とするならば残された道は一つだな。
「<採掘>」
俺は自らの足元に深さ5メートルくらいの穴を掘り、中に入る。そう、俺が行くべき道は地下だ。
「<大地造形>」
俺は自分が入った穴の入り口を綺麗に塞ぐ。
「<超音波>」
真っ暗になっていても超音波でなら周囲の状況を確認できる。
「<採掘>」
「<加速>」
「<大地造形>!」
俺はトンネルを掘り、その中を飛びながら後ろを埋め立ててゆく。
よし。距離的にここが女子寮の西側だろう。校舎は女子寮より東にあるから、こちらにくる生徒はいない。
「<採掘>!」
俺は地上に出た。すると予想どおり、そこは女子寮の左側だった。
「<大地造形>!」
しっかりと自分が出て来た穴を塞いでおく。
ただ俺は葵がどの部屋にいるか知らない。ちょうど発動中の超音波に感覚強化を合わせて葵の位置を探るか。
「<感覚強化>!」
すごいな。目を瞑っているのにあらゆるもの、人の場所や状態が手に取るように分かる。お、寮で部屋で一人寝ている女子がいるな。あの体型は間違いなく葵だ。部屋の位置はちょうど西側だな。
俺は時間加速、超音波、感覚強化、身体強化を解く。
「<飛翔>」
俺は葵の部屋の窓の前まで飛ぶ。
「<念力>」
俺は窓の鍵を開け、窓を開ける。
「ん…何…?」
葵が目を開き、窓が開いた音に反応する。
「驚かせてごめんな。俺だ。」
俺は靴を脱ぎ、宙に浮かせたまま葵に言う。
「なんだ、かいとくんか。」
「ってえ!?!?」
葵が少し間を置き、反応する。
「なんでここにいるの!?授業は!?ていうかどうやって来たの!?」
葵がすぐに身を起こし、反応する。
「お前が心配になってな。熱と聞いて看病しにやって来た。授業はすっぽかした。ここには異能を使ってバレないように来た。」
「え!?ただの熱だよ!?」
葵が驚いたような顔をして言う。
「ただの熱でも心配なんだ。どうせ今日の授業だって俺たちが前いた学校で習ったことばっかりだろ、大丈夫だ。」
俺が葵に言うと、葵は心なしか嬉しそうな顔をする。
「えへへ、かいとくんらしいや。」
そう言い、葵は再び横になった。
「いつまでここにいてくれるの?」
葵が聞いてくる。
「うーむ、シャロル達が寮に帰ってくるまでかな。」
「え!?それって学校が終わるまでじゃん!」
そういうことになるな。
「ああ。」
「でも近くにいてくれると安心するよ。」
葵が言う。それは良かった。
「熱出したらいつでも看病してやるぞ?」
「ほんと?ありがと。」
葵が安心した顔で言う。
「熱を出したら悪夢を見るってよく言うけどさ。かいとくんが看病してくれてるおかげか私熱を出してる時に悪夢見たことないんだ。」
葵が言う。それは嬉しいな。
「そうだったのか。それなら尚更熱を出した時はずっと一緒にいるぞ。」
「ありがとう。それにね、かいとくんの側で寝てるとなんかいつも同じ夢を見てる気がするんだ。」
「同じ夢…?」
「なんかその夢を見てると不思議な気分になるんだ。全然嫌ってわけじゃないんだけどね。」
「どんな夢なんだ?」
「それが思い出せないんだよねー。」
まあ夢はすぐ忘れるものだからな。仕方ないか。
「そうか。それなら仕方ないな。」
「あ、そういえば昨日は何してたの?」
「昨日?」
「かいとくん達が授業に出ないでどっか行ってたじゃん。どこ行ってたの?」
「ああ。それなら屋上に行ってたぜ。」
「屋上?どうして?」
「実は校舎裏には駐車場があってな。そこに来るトラックを観察してたんだ。」
「トラック?どうして?」
「その駐車場、実は外と繋がってるトンネルがすぐそばにあって、それについて調べてたんだ。」
「へぇ。そんなトンネルがあるんだ!知らなかった!」
「まあそりゃ普通の生徒には知らされてないからな。」
「あと濱口くんが先生に呼び出されてたのはなんで?」
「ああ。屋上の鍵を職員室でもらう時にレオナルドが濱口が飛び降りようとしてるって嘘を言ったせいだな。」
「それで先生あんな反応してたんだ!」
「ああ。そのせいで俺がシャロルになぜか怒られたがな。」
「そういえばシャロルちゃん、かいとくん呼び出してたね…」
「ちなみに濱口は寮に戻ったらレオナルドを追っかけ回してたな。」
「濱口くんらしいね!」
「ああ。そうだな。」
そんな会話をしばらく続けていると、葵のまぶたが重くなってきた。
「ねえかいとくん、私眠くなって来ちゃった…」
「寝ていいぞ。寝たほうが早く熱が引くからな。」
「もう少し話してたかったな…」
「俺もだ。でもこれからもいつだって話せるぞ。寮にいる時だって<会話>を使えば話せるし。」
「そっか…じゃあ寝ようかな…」
葵がゆっくり目を閉じてゆく。
それから数秒。葵は完全に目を閉じ、眠りについた。俺は眠りについた葵の透き通る空のような水色をした髪にそっと手を置き、撫でた。こうしていると孤児院で看病していた時のことを思い出すな。
葵の頭を撫でたまま、しばらく時間が経つ。しかし葵を眺めているだけでも不思議と飽きなかった。
「…おおきな…立方体…なの…?…」
葵が寝言を言う。大きな立方体?また不思議な夢とやらを見ているのだろうか。それにしても大きな立方体…レートを調べた時のあの立方体の機械を見た時に少し反応していたことと関係があるのかもしれないな。
「ふにゅ…ふへへぇ…」
葵は頭にある俺の手を両手で掴み、首元に持っていく。そういえば小さい頃に看病した時も同じことをしてたっけ。時間が経っても葵は葵のままなんだな。
それからかなりの時間が経つ。気がつくと時計が6限目の終了の時刻を指していた。もうそろそろここを出なきゃいけないな。
俺は葵から手をそっと離し、窓を開けて宙に浮いている靴を窓枠に腰掛けながら履く。
「じゃあね、葵。お大事に。<飛翔>。」
俺は小声で言い残し、校舎の上を飛び、男子寮の自分の部屋に戻る。それから30分くらい後に濱口達が部屋に戻って来た。
「おう水原!!空色はどうだった?」
濱口が部屋に入って来て、俺に言う。
「大丈夫そうだ。きっとあの風邪も明日には治ってるだろう。」
「やっぱり空色さんのとこにいってたんだな!」
「水原氏、優しいでごわす。」
レオナルドとブライオスも部屋に入って来て言う。
「今まで看病してたから今回もしてやっただけだ。」
俺はいつものように寮で過ごし、就寝した。
翌日。
「お早うでごわす。」
いつものようにブライオスが目覚ましを止め、起床する。
「おう、おは…」
ブライオスに挨拶を返そうとした時、俺は気付いた。
喉が…痛い…!!
体が重くて頭痛もするな。俺としたことが不覚を取ってしまったようだ。
「なあブライオス。」
ブライオスに言う。
「どうしたでごわすか?」
「俺風邪引いたわ。」
「移ったでごわすか!?」
「ああ。濱口とレオナルドはお前が起こしてくれ。」
「いいでごわすが…学校はどうするでごわすか?」
「ああ、休む。」
下手に学校に出て周りの人に移すのもよくないからな。
「分かったでごわす。お大事にでごわすよ。」
俺はゆっくり目を閉じ、再び眠りについた。
「こんにちはー!」
聞き慣れた声がする。
「かいとくん、大丈夫?」
目を開けると、そこには二段ベッドのはしごから顔を出した葵が居た。
「来てくれたのか…?」
「私が移しちゃったんだから責任取らないとね!」
「別に俺が不覚を取っただけだからいいんだが…」
「いいの!私だって看病されるだけじゃないもん!」
「葵が看病してくれるのは嬉しいが、また風邪引いたりしないか?」
「大丈夫!一回なった風邪は二回目はもうならないから!」
そういえば確かに人に移してまた移し返されたことはないな。
「それにしてもこのはしごあしかける場所細くない?足が痛くなって来たんだけど…」
「それなら降りていいんだぞ。」
「やだ!降りない!かいとくんが見えるとこじゃないとやだもん!」
意外と可愛いところがあるんだな。
「それなら俺の布団入るか?」
「へ!?いいの!?」
「ああ。小さい頃とかよく一緒に寝てただろ。」
「でも今はもう小さくないじゃん!」
葵が顔を赤くしながら言う。そんなに恥ずかしいものなのか?
「ほら、しっかりスペースならあるぞ。」
俺は自らの体を壁に寄せ、スペースを作る。
「そ、それじゃあお言葉に甘えて…」
葵が布団の中に入って来た。
「い、一緒に寝るの、久しぶりだね…!」
葵が言う。確かに最後に一緒に寝たのは小学校低学年の時だったな。
「あ、っていうかこれって看病できてるの…?」
心配そうな目で葵が見つめてくる。
「一緒にいるだけで安心するから大丈夫だ。」
「よかった!!」
葵が安心した顔で言う。
こうして学校を休んで一緒に居られるのだから、正直風邪をひいてよかったかもしれない。
葵回ですね。




