占書術師
「占書術師」
彼は私に言った。西洋では本を使った占いがあるらしい。
彼も、私を視覚で見る事は出来ない。西洋魔人は、良くビブリオマンサーと私を呼ぶ。
宮司と説明するのも面倒だし、私はそのイメージに乗る事にしている。
一度息を吐き、空間の力を含んだ空気を再び体内に引き込み、私は体感体型(霊的オーラ)を一周り大きく作り込んだ。
「その名で呼ばれたのは久しぶりです。あなたは?」
「名は…忘れた。が、あの女は、ジャンと呼んでいた。」
彼は、「あの女のワードを発することで、優しい気持ちを思い出したらしい。 それと同時に、
「あの女」が、かつて想像したであろう自分の姿を形取り始める。
黒髪の短髪、ラテン系のほりの深い顔立ちの逞しい兵士がそこにいた。
「ジャン。改めて聞きますが、私に、何か用ですか?」
私は、ジャンを見上げて聞いた。
私は、彼らに名乗ることは無い。
古来から、名前には言霊が宿ると言われて、軽々しくは名乗らない。ジャンも私に興味がないらしく、名前はただの「ビブリオマンサー」でいいらしい。
「話を聞いてほしい。俺の昔話を。昔、あの女がそうしてくれたように。」
ジャンは、名前を呼ばれると、急に優しげな低い声に変わり、甘えるように私に微笑んだ。
あのヒト…は、女の子だなぁ。
逞しいとはいえ、兵士とは思えないほど細身の体と、近くにいるだけで、なんだか腹が立つような長い足のハンサムを見ながら、恋バナ・エンドレスはやめてほしいと、ふと考えてしまう。
少女小説、コミック関係には、たまにこのテの奴が現れる。
恋を夢見る純粋な少女の空想に踊らされて、やがて、彼女たちの成長と共に忘れ去られた、そんな彼らには、たまに、現実を受け入れられずに混乱し続けるモノもいる。
彼らは、気高く、高貴な王子様の印象を刷り込まれ続けるので、性格は穏やかで、決して人を呪ったりはしない。
それをしたら、自分が愛される王子で無くなるのが分かるからだ。
だから、グッと我慢し続けるが、その分、我々には、しつこく絡んでくる。
なぜ、あの子は来ないのか?とか、
嫌われたのか?とか、
私が居なくて寂しがってないか?など、
一人身の私に、そんな事を聞かれても困るし、何より、少女趣味の甘い恋設定の思い出を、延々と聞かされるのは、拷問に近い。
私は、息を吐き出して、長期戦の覚悟を決めた。何にしろ、自分から名乗りをあげてくれたモノをつれて行く方が気分は楽なのだ。
「よし聞こう。さあ、ジャンよ。お前の名の元に依代をみせろ。」
私の号令と共に、ゴトリ、と、本が床に落ちる音がして、そこで私は電気をつけた。
床には、赤いハードカバーの表紙にビスクドールが描かれている本が落ちていた。
「きれいなお城の残酷な話 ベスト版」
桐生操先生の、残酷で美しい語り口の、歴史を彩った人物たちの物語である。




