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9/20

私、仲間になりました

草の香り。

咲き乱れる夏の花々。

風の匂い。

青い空にぽっかりと浮かぶ白い雲。


森から鳥の声が聞こえる。

今日は気持ちいいね。

みんな口々にそう言っている。


穏やかに時が流れていく。


「フニャァ(おっとすまない)!」


ハリーはふと我に返ったみたい。

バッタの死骸を背に、毛づくろいを始める。


私も羽をクチバシでつまんで手入れをする。

幼虫を食べたときにちょっと汚れちゃっていたから。

今のうちに綺麗にしておくわ。


胸の辺りを丁寧に手入れをしていると、ふと視線を感じた。

顔を上げると、緑色の大きな目が間近にあった。


「ピキィー(どうしたの)?」

「ニャアー(いや、何でもないさ)」


鼻をひくひくさせて私の匂いを嗅いだ。

そして目を細めて、鼻をぺろりと舐める。


「ニャア(ジミーを悲しませることはしないさ)……」


頭を振りながら、座り直した。


「ニャーゴ(屋敷に帰るか)?」

「ピュル(そうね)!」


私が答えると彼は背を向けた。


「ニャーゴ(本当に)?」

「ピュル(もちろん)!」

「ニャーゴ(ありがとう三代目)」


振り向いた彼の顔は何か安心したような表情に見えた。



玄関の扉はハリーでも開けることはできないらしい。

だから、人間が開けるその瞬間が屋敷へ戻る唯一のチャンス。

私たちは花壇の影からじっと待っている。


やがて一人の男がやってきた。

黒い執事服。

馬車の中にいた目付きの鋭い執事だ。

手には黒い包みを持っている。

彼は周りを警戒するそぶりを見せながら、玄関扉に向かっていく。


ハリーが口を開けて再び私を咥えようとする。

私は思わずびくっと身を震わしてしまった。


「ニャーゴ(オレ様が怖くなったか)?」

「ピュルル(少しだけ)……」

「ニャーゴ(オマエはもう仲間だ。絶対に食べない)!」


クロアリの群れがバッタの死骸を運んでいる。

そよ風が灰色の猫の黒いひげを揺らしている。


カチャッ――


玄関扉のドアノブを回す音。

私は頭を下げて彼が咥え易い姿勢をとった。 


「うおっ、びっくりした! この馬鹿猫がッ!」

「ブギャー!」


目付きの鋭い執事が叫んだ。

ハリーは威嚇するような声で鳴いた。

ハリーは私の体を咥えたまま螺旋階段を駆け上がる。

彼のお陰で私の姿は見られずに済んだみたい。

鳥かごから逃げたことが人間に知られると大騒ぎになるから。


「ブニャァー(オレ様はあの黒い服の人間が嫌いだ)!」


2階の廊下で私を下ろすなり、ハリーが吐き捨てるように言った。


「ピュルル(どうして)?」

「ブニャァー(オレ様を蹴ってくるんだ。他の人間がいないところで)!」

「ピュル(なぜ)?」

「ニャー(理由はわからないさ)!」


ジミーの部屋に戻る途中、向こうからメイド服を着た人間が歩いて来た。

咄嗟に近くの部屋に逃げ込む。

大きなテーブルのある部屋。


「ニャーゴ(ここは食事室だよ)」


彼はそう言って、茶色くて大きなテーブルに乗った。

私も少し羽ばたいて乗ってみた。


テーブルの真ん中には銀製の装飾品が並べられている。

イスは12脚。


「ピュルル(ずいぶん多くの人間が集まるのね)」

「ニャーゴ(いや、普段は旦那様と奥さん、そしてジミーだけさ)」


長いテーブルの手前と奥、その真ん中にランチョンマットが置かれている。

奥が旦那様、手前が奥様、真ん中がジミーの席ということね。


「ピュルル(そろそろジミーの部屋に戻らないと)……」

「ニャー(そうだな)……」


そのとき、足音が近づいてきて――


ドアが開いた。



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