私、まだ生きているの
馬車の窓からバラや色とりどりの花が美しい庭園が見える。
そして、大きなお屋敷の前に止まった。
「お疲れ様でした」
白いひげを生やした老人が馬車の扉を開けた。
私を肉屋の店主から救ってくれた人。
ありがとう。
私はあなたの顔を一生忘れません。
私はメイド服を着た女の人に引き渡された。
私は厨房に運ばれてとうとうお肉になってしまうのね。
とうに覚悟を決めていたはずだけれど――
「ピィィィ(私、美味しくないですよ)――ッ!」
思わずカゴの中でばたついてしまった。
マーチンに愛情を注いでもらって幸せだったのに……
世界一幸せな時を過ごした鳥だというのに……
駄目ね、私。
最後は潔く天国に旅立たなくちゃいけないのに。
お屋敷の広い廊下の両脇には沢山の扉があった。
扉の向こうは全部部屋なの?
一体何人の人が住んでいるのだろうか。
メイド達はおしゃべりをしながら私を運んでいる。
私は物珍しい室内に目を奪われながらも、彼女達の話を聞いていた。
この屋敷にはジミーという名の坊ちゃんがいる。
彼は手のつけられないやんちゃな性格でメイド達は手を焼いている。
でも、彼は動物の世話をしているときは大人しくなる。
とくに鳥の世話が好き。
でも、その鳥はいなくなってしまった。
そう……
そういうことなのね。
私は厨房に向かっている訳ではないことを理解した。
ガチャリ――
水色の扉が開けられた。
天蓋付のベッドとソファー。
本棚には沢山の本。
机の上には四角くて大きな鳥かごがあった。
「さあ、今日からここがあんたのお家だからね」
メイドの一人が私を大きな鳥かごに入れた。
つり目気味のちょっと怖そうな顔の女の人。
「ピッピピー(私には少し広すぎないかしら)?」
羽をパサパサ動かしながら言ったけれど……
つり目気味のメイドには伝わらなかった。
マーチンの家がすっぽり入ってしまうぐらいに広いジミーの部屋。
メイド達はその広い部屋の掃除を始める。
ベッドのシーツを取り替える人。
床をピカピカに磨き上げる人。
窓を拭く人。
皆、慣れた手つきで分担して仕事をしている。
つり目気味のメイドは机の引出し開けて何かを探している。
掃除はあっという間に終了。
メイド達は一斉に部屋を出て行った。
静か。
鳥かごからは窓の外がよく見える。
小高い丘に立てられたお屋敷の窓。
そこ見える景色は、とてもきれい。
庭園の向こうには深い森があった。
小鳥たちが楽しそうに遊んでいる。
私、この景色が好きかも……
マーチン……
私、まだ生きているのよ。




