ナチュラル過ぎる執事
「出てきて下さい、お嬢様」
私はいつもの場所に身を隠す。
執事のアルトは私を必死で探し回っているふりをしている。
出てこいと言われて出て行く人など居るのかと毎度思う。
「今日は、お嬢様が好きなアップルパイですよ」
と棒読みで言われても全く心に響かない。
こいつが、何で私の専属執事なのか理解出来ない。
「あっちに行ってよ」
とポツリと呟く。
先程から、場所を変えない所から予想するに分かっててわざとしている。
「ベッドの下なんて王道すぎて隠れる候補にすらなりませんよね。ねー、お嬢様?」
とシーツを捲られる。
「......」
目が合った。アルトはニヤニヤしながら私に右手を差し出す。
「学習能力がお嬢様は低いんですかね」
その手を握ろうとすると、さっと引かれて口に手を当てて笑いを堪えている。
「今、お嬢様の手が見えた気がしたけど気のせいですよね?」
とまた捲られたシーツを戻され光が閉ざされた。
何なのよ。一体...。アルトの馬鹿。真っ暗なベッドの下に再び戻される私。何故か分からないけど不安と涙が込み上げそうな感情に一気に襲われた。
シーツの掛かってる光が当たって少し明るい部分に人影が座り込む。勿論あいつだ。
「ねえ、あんたさ。いつまでそこに居る気?面倒くさいんだよね」
と盛大に溜息を付く。
「うっ、煩い。毎日沢山お金貰ってるんだから少しは付き合ってくれても良いじゃない」
と自分でもデタラメだと思う嘘くさい台詞を並べた。
「これだからお嬢様は嫌い、特にあんたみたいなやつ」
アルトは、ふぁーっと毛伸びをして立ち上がり
「おやつは俺が食っとくね、じゃ」
と盛大音を立てて閉められた扉。
取り残された私。頭が真っ白である。