第三回 「仕官致したく候」
(ナレーション)「父親の大殿に偽の紹介状を渡され、まんまと国を追われた桃太郎ではありましたが、とりあえず順調に堺までの道のりを踏んだのでございます…」
(堺の町辻に立つ桃太郎田舎者丸だし)
桃太郎「(挙動不審)じゃっ、じゃっ、じゃあどこ行く?なにする?」
雉田「まーた若、ドン引きするくらい普通の人ですなあ。もっとこー堂々と歩くことが出来んのですか?大河の主人公とかなら、何もしなくても町中で有名な人に会ってる展開ですぞ!?」
犬千穂「(はっ、と顔を上げる)え、いけめんですか!大名ですかどこですか!?」
雉「姫様も!誰もイケメン言ってないから。そーんな夢みたいな話あり得ないから。まったく、なんたるしょうもない上洛行でござろう。こんな持ってない連中と旅に出てしまって雉田は、将来が不安でござる…」
桃「なーにが不安だ雉田、雇用不安の若者か!大体お前こそ、その年齢でなーにも持ってないじゃないか!長年我が家の外交官を務めてきた身の癖に、まさかのコネゼロかよ!ゼロコネ家老か!織田家中とは言わなくても、山科言継とか、近衛前久とか、そう言うびっ!とした公家の知り合いくらいいないのか!」
雉「恐れながら拙者が知り合いなのは、地元のえらいお坊さんとかちょっとアタマ黄昏れてきてる長老さまぐらいにて。もう公卿さまのお知り合いなどとてもとても!」
桃「雉田…やっぱお前も厄介払いされたんじゃないのか?」
雉「やっ、厄介払いとは失礼な!それにお前も、と言うことはご自分もご廃嫡の上、国外追放されたって認めるのと同じことでござるぞ!?」
桃「ばっ、馬鹿言うなよ!家督は継いでないけど、そんなことないっつーのッ!」
犬「あっ、皆様!あの方、お金持ちそうじゃありません?」
(犬千穂、リッチな匂いを嗅ぎあてる。向こうで袖無し羽織を着た立派そうな武士、何やら揉めてる)
武士「目がやらしかったとか、怪しいとか何を申すか無礼なッ!わしを誰と心得るかッ!?」
桃「あいや、しばらく!なんの揉め事でござるか」
女子高生セーラー服「この人痴漢です!目がやらしいんです!」
武士「ばっ、馬鹿を言え!大体、武士がそんな、やらしい目とかするわけないだろ!?」
女子「このおじさん変なんです!」
武士「だから変じゃないっつの!おのれ二度までも…てゆうかネタ古いし!本当にJK?駅員さんわし、変じゃないよね?」
駅員「(思いきり不審そうな目)いや、でも訴えが出てるからね。身元は…?」
武士「拙者は播州播磨、黒田官兵衛じゃ!堺町奉行をされておった羽柴秀吉様の与力だっつの!お前、わしを逮捕とかしたら絶対後悔するからな!問題にしてやるからな!」
犬「(恩を売るため、とりなす)ほら、この方は羽柴様の身内の地位あるお方ですし、痴漢なんかするはずないじゃありませんか。まあ、もしやってたとしても本人も反省してるようですし、ここは許してあげたら」
官「わっ!わしはやってないい!潔白だあ!」
駅員「全く反省してないように見えるけどね…」
官「うお!よく見たら、こっちもかわゆいちちしりふとももちゃん!…あっ、いや、ご助勢かたぢけない。お名前は」
桃「私は播州桃元家、桃太郎と申すもの。そちらはわたしの御供にて、犬山犬千穂姫!」
官「(なにこいつと言う目で桃太郎をみる)あっ、そう。奇遇だなあ、君、播磨なの~!わしもねえ、播磨播磨!で、なんで堺に出てきたの?」
犬「わたくしたち、織田さまにお頼みしたいことがあって。でも織田のご家中にお知り合いがいないんですのよ。織田家のいけめん大名に…あっ、いやとりあえず信長公に会えるように、官兵衛さん、取り計らってくれませんかしら?」
官「ええっ、信長公に?マジで!?…(面倒くさそうに)ううん、やめといた方がいいよ~、キャラ力試されるよ~?」
犬「あっ、駅員さんこの人痴漢です。わたくし見てました。もう目がやらしすぎます」
官「うあああっ、やめて!拙者これから用事があるんだから!こんなとこで捕まってらんないの!分かった、分かったから!じゃあ、まず羽柴さまに紹介するから!あとでゲストで名前入れとくから!とりあえずそれでいいでしょ!?」
犬「ここで連絡なさいな」
(犬千穂、鬼命令。官兵衛、その場で秀吉にLINEさせられる)
官「言っとくけどね~、羽柴さまも忙しいから既読スルーされちゃうと思うなあ。今、ちょっと播磨三木城攻めとかでばたばたしてるしさあ」
犬「何とかなさい」
(官兵衛、犬千穂姫の写メを送る。五分もしないうちに、秀吉から着信)
官「あっ、『おけww』だって!本ッ当スケベだなああの人!」
(あんたも人のこと言えんだろうと思ったが、黙ってる桃太郎一行)
官「じゃ、そう言うわけだから。拙者、ケツ(後の予定のこと)があってついていけないけど、後は上手くやったらいいんじゃない?」
桃「ありがとう官兵衛殿」
(誰こいつ、と言う官兵衛の視線)
官「まあがんばんなさいよ。犬千穂殿ご一行に幸あれ!」
桃「桃太郎一行だっつの!」
雉「殿のキャラの立たなさは天下一品ですな…」
桃「馬鹿、次は目立つっつの!」
(ナレーション)「かくして『大河の主要キャラにほとんど無視される』と言うビミョーなキャラ立ちを手に入れた桃太郎は、羽柴秀吉との対面に望むのでありました…」