17話 スライムと悪魔
「じゃあ、俺の質問に答えてくれ。 まずは俺が知ってる情報の確認をしたい。 スライムはどこに移動した?」
「北と西と南です」
僕がそう言うと、水晶は黒く濁った。
「俺が聞いていたのはその通りだが、お前は違うらしいな。 本当のことを教えてくれ」
「東にも行きました」
水晶は白に戻った。この水晶はだませないようだ。
「これはいい情報を聞いた。 東は目撃例が無かったからな。 次にスライムは何匹移動した?」
「あの、デビルスライムの目撃情報を聞きたいだけなのですが、それは今の情報だけじゃ教えてもらえないんですか?」
正直、デビルスライムの目撃情報がそんなに重要な情報だとは思えない。
「それは教えてやろう。 デビルスライムの目撃は無い。 これでいいか?」
「それはどういうことですか? 悪魔が出現したのは嘘なんですか?」
「それを聞きたいなら、もう少しいい情報がほしいな。 まあ、言ってしまうとここから先は公爵が隠蔽してる情報が含まれる。 だからそれを話すならもうちょっと質問に答えてもらってからだ」
公爵といえば各都市のトップだ。国王の次に権力を持っている。
ここは南都だから…
「アシュタール公爵家ですか?」
「そうだ。 だから、そう簡単に話せる情報じゃない。 それを聞きたいなら、質問に答えてくれ。 スライムは何匹移動した?」
これは大事になりそうな気もするが、話を聞きたい。スライムの数くらい答えてもいいだろう。
「約1200匹です」
「俺は約300と聞いていたが、1200か面白い情報だな。 それが本当だったらよかったけどな」
水晶を見ると黒く濁っていた。
北に110匹、西に110匹、南に110匹、東に約900匹。これであってるはずだ。
「どうした? 本当のことは言えないか?」
そうは言われても何を言えば本当になるのか…。
東が間違ってるのか?たしかにマルルは大体それくらいだと…。
いや、よく考えたら…
「1匹です」
そう言うと水晶は白く濁った。
「ほう、これは面白い。 目撃数は300なのに数は1匹か。 なぜか教えてもらえるか?」
これは以上はマルルのスキルについて話すことになる。言える範囲でいいと言っていたし、ここは答えられないとはっきり言おう。
「それは言いたくないです」
「そうか、でもそれでいい。 情報は言えない時は言えないと言うべきだからな」
「ありがとうございます。 これで情報は十分ですか?」
「まあ、今のでそのスライムの大方の正体はわかったからな。 おそらく巨大なスライムが<分裂>のスキルを持っていたのだろう。 知り合いにスライムが好きな爺さんが居て、スライムには少し詳しいんだ。 <分裂>のスキルは体を削って分身を作るスキルだ。 元が大きい必要があるが、それはスライムが大量に魔物を吸収して大きくなったんだろう。 吸収して分裂して、数を増やしてまた吸収。 これ繰り返せば急速に大きくなれる。 まあ、そんなことをスライムが考えるのか?とか、なぜそれが移動したのか?とか疑問はたくさんあるがな」
一部間違ってるが、結構当たってる。
「その顔は、半分当たってるって感じだな。 まあ、大移動の正体が1匹のスライムってだけでも十分な収穫だ。 この情報はスライム好きの爺さんに売れるだろう」
「あの、情報は売らないんじゃなかったんですか?」
「ああ、誰かから俺のこと聞いたのか。 俺は気に入ったやつには売ることもある。 あとは重要な情報をお偉いさんに売るくらいかな。 さっき言った爺さんはスライムの情報ならいくらでも買うからな」
その爺さんって人すごい気になる…。相当スライムに詳しいのだろう。
「その爺さんって人、紹介してもらえませんか?」
「ダメだ。 あの人はかなり頑固だから、お前を受け付けないだろう。 それより、デビルスライムの話を聞くんだろう?」
「はい。 教えてください」
「じゃあまず聞くが、デビルスライムの出る条件は知ってるか?」
「はい、悪魔が倒されると周囲のスライムが変質すると聞きました」
スライム大全にはそう書いてあったはずだ。
「そうだ。 ここに悪魔が出たからスライムが変質したかもと思ったんだろうが、悪魔は倒されては居ない。 街で暴れたあと、逃げやがった」
「追わないんですか?」
「どこから話そうか…。 まず、今回の悪魔は上級種の魔力体だ。 これの意味は分かるか?」
「分かりません」
「はっきり言って強い。 上級種ってだけなら倒せたかもしれないが魔力体、つまり体が魔力の固まりだ。 物理攻撃は一切効かない上、魔法でも十分な威力が無ければ効かない。 簡単に言えば南都の兵士じゃ倒せないと言う事だ。 あの悪魔は街で100人以上殺したあと、なぜか街を出た。 倒されたと発表されているが、実際には手も足も出ずに逃げられた。 まあ、住人にはそう言っておいた方がいいだろうな。 だが、現場を見ていた冒険者は分かっている。 あれを倒せたなんて嘘で、住民を安心させるために言ってるだけだとな。 だから冒険者も口外しない。 ここまでは、それなりに知られてる情報だ。 ここからは機密情報だから無闇に口外しないでくれ。 今悪魔は西の森に居て、常時数人の偵察兵が見張っている。 報告ではなにかの準備をしているとの事だ。 止めたくとも攻撃が効かないから、今南都の騎士団の出動の準備をしているらしい。 騎士団の仕事は南都の守りで、南都の外に出動するには手続きが大変らしいからな。 俺が知ってるのはこれくらいだ」
こんな情報知ってよかったのかな…。
でも、デビルスライムのことはわかった。残念ながら居ないってという結果だったけど。
「ありがとうございます。 デビルスライムが居ないのは残念ですが…」
「これが仕事だ。 まあ、悪魔が討伐されればデビルスライムが出るだろう。 最後に1つ、いや2つ質問いいか?」
「はい、答えられる内容であれば」
「お前はなぜデビルスライムを探してる? それとなぜそんなにスライムに詳しい?」
「言えません」
「まあ、そうだと思ったよ。 また情報があったら来てくれ。 俺もお前の知りたい事を教えてやる」
「はい、ありがとうございます」
そう言って部屋を出た。
外は少し暗くなっていた。
「ランネル君大丈夫だった?」
「うん。 ちゃんとデビルスライムについて教えてもらったよ」
「よかった。 マルルちゃんが大丈夫だって言うけど、なんか心配で…」
「そんなに心配するなよ。 ちゃんとした情報屋だったぞ」
「でも、あの仮面怪しいし…」
ソフィスが見つめてくる…ちょっと恥ずかしい。
「マルルありがとう。 ソフィスを安心させるために言ったんでしょ?」
「違う。 あの仮面の人何もしてなかったから大丈夫って言っただけ」
「なんで何もしてないってわかったの?」
「だってマルルの体だもん」
あ、よく考えたらこの体はマルルだ。
動かせるようにしてもらってるけど、マルルの体が何をして、何を見てるかくらい分かって当然だ。
そんな事を思ってるとマルルが聞いてきた。
「それより、デビルスライム居ないならどうするの?」
「え? 悪魔が出たからデビルスライム出たんじゃなかったの?」
「とりあえずもう遅いし、部屋に戻ろう。 マルル、行動伝達切ってくれ」
「わかった」
僕たちは部屋に戻った…というか元から部屋に居たが、体が動かせるようになった。
正確には元々動かせたが、2つの体を同時に動かすのは難しい。右手で三角、左手で四角を書くようなものだ。
「とりあえず、説明と今後の予定を話そう」
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悪魔が倒されていない事や、デビルスライムが出てない事、騎士団が準備してる事なんかを説明し、今後の予定を決めた。
マルルはグラビティスライムを探しに西へ行く事になった。でも、悪魔が居る西の森の位置はわかるが、グラビティスライムが居る西というのが曖昧で、正確な場所が分からない。
なので、まず西の森をチラッと捜索し、見つからなかったら他の場所に移動する。あと、悪魔に見付からないように慎重に捜索する!見付かったらその時考えよう。
「今後の予定はこれでいいか?」
「いいけど、私は明日からまた訓練だからこれないよ」
「そうなのか。 マルルに光魔法教えてもらう時間なくなっちゃったな」
「その事なんだけど、マルルちゃんをちょこっともらえない?」
そうか、マルルなら喋れなくてもスキルで教える事ができる。それに通信機代わりにもなる。
「いいけど、その代わり1つお願いがあるんだけど…」
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ソフィスと話がまとまった。
「あとはマルルの意見だけど。 マルルどうする?」
「わかった。 これ持っていって」
そう言ってマルルは指の先からメタルスライムでコーティングされたマルルのかけらを3つ渡した。
「ありがとう! これでいつでも魔法教えてもらえるわ!」
その後、ソフィスは嬉しそうに帰って行った。
そして僕はマルルと一緒に眠った。
日間ハイファンタジーベスト5まであと2歩!
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