16話 デビルスライムと情報屋
ソフィスの提案により、今ちょっとした実験をしている。
理由はソフィスが南都の見物をしたいと言ったのが原因だ。
マルルの体を借りれば、僕たちも南都に居るのと同じ感覚を味わえる。しかし、マルルの体の制御はできない。やってみたら、そーっと動こうと意識している間はいいのだが、不意に動かそうとすると暴走する。ちょっとのつもりが、無意識に力が入り、思い切り動かしてしまう。
そこでソフィスは催眠魔法を使ったらどうかと、言ってきたのだ。催眠魔法は無意識の部分の教育に使われることもある。悪い癖を直したり、逆にいい癖をするように教育する。催眠魔法である行動を繰り返しさせることによって、魔法がなくとも無意識にその行動させるという教育の方法だ。
つまり、僕たちが無意識に力を加減するような魔法をマルルがかければいい。
ということで、今僕たちは南都の近くの森で、マルルに体を2つ作ってもらい、その体で魔法を待っている。
「魔法かけたよ~」
ちなみに、普通は魔道書で勉強して魔法を覚えるが、マルルは自分で作り、5分でこの魔法を完成させた。そして、魔法をかけられた僕たちはとりあえず体を動かしてみる。
「大丈夫そうだ。 力を込めようと思えばできるけど、勝手に力が入ることはなさそう」
「私も大丈夫みたい」
実験は成功のようだ。これでマルルの体を安全に使える。
「じゃあ南都に行って来ていい?」
「先にデビルスライム見つけてからだったらいいぞ」
「南都でデビルスライムの情報聞けるかもしれないじゃん!」
言われて見れば確かにそれもありうる。それに、正直僕も南都に行きたい。
「わかったよ。 ただ、目的は情報収集だからな?」
「もちろん!」
「じゃあ、マルルは僕たちと一緒に来る人型を1人用意して、残りは周囲の捜索をスライムでしてくれ」
「わかった」
という事で、3人で南都での情報収集をすることになった。
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「南都ハールワスへようこそ」
門番がそう言いながら、顔を確認していく。犯罪者がいないかチェックしてるのだろう。
出入りの多い時間でもあり、門番に止められることもなく南都に入れた。
「まずは、情報屋に聞くのがいいな。 ギルドに居ると思うから、行ってみようか」
情報屋とは、文字通り情報を売ってくれる人だ。
基本的に冒険者は情報が命に関わる事もあるため、情報はギルドで買い取り、無料で教えるのが基本だ。
ただ、すべての場所がそれを出来るわけではない。命に関わる情報はギルドで買い取るが、他の情報は個人で買ってもらう、という場所が多いのが現状だ。
そのため、情報屋の推奨はしないが、容認はしている。
ギルドを目指して街を歩いてると、所々壊れた建物がある。やはり悪魔が暴れたのは事実のようだ。
道行く人は壊れた建物を気にも留めず、普通に歩いている。栄えているのか、廃れているのか、一見するとわからない光景だ。
そのあと、またしばらく歩いて、ギルドに到着した。
王都ほどではないが、なかなか広く、王都の様に冒険者が酒を飲んだり、掲示板を見たりしている。
だが、壁際に王都には居ない情報屋が4人居る。
情報屋の前に行き、そのなかで誰に聞こうか悩んでいると、1人の冒険者が話しかけてきた。
「お前このあたりの人間じゃないな? どの情報屋がいいのか悩んでるなら教えてやろうか?」
「よかったらお願いします」
「お前、金はあるか? 金が無いなら左端の男だが、あいつの情報は信用ならねぇ。 金があるなら右から2番目のいい服着てる女がいい。 値段は高いが情報は信用できる。 時々貴族の使いが聞きに来ることすらある。 そして、左から2番目の灰色尽くめの男は値段も普通、信用も普通。 俺のおすすめはこいつだ。 冒険者はこいつに聞くのが多い」
聞いた限り、灰色の男が良さそうだ。でも右端の…明らかに怪しい黒い仮面を付けた、男か女かもわからない人の話は聞いていない。
「右端の仮面の人はどうなんですか?」
「ああ、黒仮面か。 情報はとても信用できる。 だが、あいつは情報は金じゃ売らねぇ。 情報の対価は情報しか受け付けない変わり者だ。 情報の交換をする時はいつもどこかの部屋に連れて行って、1対1でしか教えないし聞こうともしない。 おそらく、情報が盗み聞きされるのを極端に嫌がってる。 それに、誰も顔を見たやつも名前聞いたやつも居ない。 声から男だって事は知られてるが、それ以外は一切情報が無い。 だから、そんな怪しいやつに聞く人は少ない。 まあ、金が無いってならあいつに聞くのもありだけどな」
まあ、今回はデビルスライムの目撃情報とか聞きたいだけだ。たいした金額はかからないから灰色の男でいいと思うが…。
しまった!この体はマルルなんだから、お金は持っていない。
正直気が進まないが、あの怪しい人に聞くしかない。チラリと仮面の男を見ると…
ギロッ
仮面の奥の瞳と目が合った。
「おい、なにか聞きたいのか?」
仮面の男が聞いてくる。
「はい、すこしデビルスライムのことで…」
「ついて来い」
男はそれだけ言ってギルドを出て行く。僕たちも慌てて男について行く。
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男はボロイ小屋の前で止まった。
「お前1人で入れ。 後ろの2人は外で待ってろ」
そう言って男は小屋へ入った。
「ランネル君、あの人大丈夫なの?」
「多分…。 怪しいけど、冒険者の人は信用できるって言ってたし…」
「それはそうだけど、冒険者の人がうそつきだったら?」
「そんなこと言ってたらなんにも信用できないよ。 とりあえず話してみるよ」
「わかったわ。 気を付けてね」
小屋に入ると、そこには机1つと椅子2つがあった。と言うかそれ以外何も無い。
「とりあえず、そこに座れ」
言われた通りに座る。すると椅子がギシィと軋む。男は机の反対側の椅子に座る。
「デビルスライムの事を聞きたいと言っていたが、その前にお前はどんな情報を提供できる?」
正直、情報屋が欲しがるような情報はない。そんなこと10歳の子供が知ってるはずが無い。
「僕にはそんな提供できるほどの情報はないです…」
「不要な情報なんてものは無い。 お前が知っていることを教えてくれればいい」
「でも、どんな事を話せばいいのか…」
「お前は王都から来たのだろう?」
「なぜそれを?」
「言葉のなまりだ。 王都には王都のなまりがある。 なまりだって情報の1つだ。 それで相手の出身が分かるんだからな。 でも、お前が何を話せばいいのか分からないなら、俺から聞くことにしよう」
「はい」
「王都から来たのなら、スライム大移動の事はしってるか?」
やばい、めちゃくちゃ知ってるが、これは答えるわけには行かない。
「なんのことか分からないです」
「そうか、ならばこれを使おう」
そう言って、白く濁った水晶を取り出した。
「これは審判の水晶だ。 これに触れて嘘をつくと黒く濁る。 俺は情報屋を10年やってるから、顔を見れば嘘かどうかわかる。 次は本当のことを言ってくれよ」
仕方ないので、僕は水晶に手を置いて話す。
「はい、知ってます」
「そうか。 一回嘘をついたということは、知っているが話せない事情があるんだな。 まあ、話せる範囲でいいから話してくれ。 そうしたら俺もその情報に見合った情報を教えてやる」
そして僕は話せる範囲で質問に答えることにした。