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「んん……ここは……?」
目を覚ますと、白い天井が見え、私はポツリ無意識にそう呟いた。
「あ、マリーナ。目が覚めてよかった、んーっと、マリーナだよね?」
横からエルの顔が覗かれ、そう尋ねられる。
は? 何言ってんだ? と思ったが、そういえば先程、違う次元にいたっけ……? とかすかに思い出す。
「……マリーナ・アディソンですが?」
ふふん、と胸を張ってかっこよく言う私。
「うん、OK、マリーナだね、良かった」
よし、と適当にそう返すエル。え、なんかひどい。
「なんかひどくね?? 私に対する扱いちょっとひどくない??」
そう言った私にエルが返そう口を開いた時、ガラガラと扉が開く音がした。
「マリィィナちゃぁああん!!!」
そう叫ぶやいなや、私に抱きついてくるのは……
「わっ、かっカトレアさん!?」
「良かったわぁ! 別次元に飛んだ? らしいじゃない! 私はその間消されててなんにも知らないんだけど無事で良かったわー!!」
なにやら不穏な言葉が聞こえたが、カトレアさんに会えて良かった。
「は、はい、カトレアさんも無事で良かったです」
そう返すと、またぎゅっと強く抱きしめ返してくれるカトレアさん。
「全く……もしアディソンが起きていなかったらどうするつもりだったんだ……」
そう言いながら、開いたままのドアから入ってきたのは、ドルソン先生。
「ルカ! なに言ってるの! マリーナちゃんは何しても許してくれるわ!!」
とドヤ顔で言われ、いや、何しても許すわけではないけどね……?
「えっと、私ってどれくらい眠ってました……?」
そういえば私は少し気を失ってただけなんだろうか? それとも3日ぐらい寝てたんだろうか……?
「ああ……マリーナちゃんはね……1年間も眠っていたの……」
カトレアさんが急に深刻な顔でそう言われ、え? と呆然とする。
「……今日でちょうど1年目でね……目が覚めてよかった……」
潤んだ目でそう言われ、1年も眠ってたのか……と半ば現実逃避のように日数を数え始める。
「……なーんちゃって!!」
「……え?」
大きな声でそう言われ、パチクリとさせる。
「はぁ、なにバカなことしてるの……マリーナが寝てたのは、1日だよ」
「……は?」
え? 待って? んん? 私1日しか寝てないの? まぁ1年にしては全然変わってないなぁとは思ったけどさ、え? 嘘が盛大すぎない??
「えーっと……」
カトレアさんの方を向きそう説明を求めると、いたずらっ子のような笑顔でごめんね! と返された。
「いやー、だってまさか乙女ゲームの1番のバッドエンドを体験するなんて貴重でしょう? だからちょっとテンション上がっちゃって!」
と言われ、私は少し呆れながら、少し安堵する。
「本当かと思いましたよ……」
「ふふん! 演技上手いでしょ?」
ドヤァと腰に手を当て言われ、ああ、そうですね、と返す。
「……演劇部ですもんね」
そう言うと、カトレアさんは、目を見開いて、固まる。
「……思い出したの……?」
そう言うカトレアさんは手を口元に当て、目を潤ませていた。
なんか演劇部っていう名前をド忘れして、マジで焦りました……。ちゃんと間に合ってよかったです
……間に合ってるよね……?




