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「エル……様?」
後ろを向くと、そこにはエル様が。
心配の色を伺わせて私を見つめるエル様に、私は何を言えばいいのか分からず、黙ってしまう。
「寄ってたかって庶民いじめなんていうダサいことをする者たちと同じクラスなんて、残念なことこの上ないな。うるさいから1番下のクラスにでも下がってくれないか」
横からはそんな冷えた声も聞こえた。
確か、彼はレイン様。あまり関わりはなかったような気がするが、まさかそんなことを言ってくれるとは思わなかった。
レイン様の言葉に周りの人たちは気まずそうに顔を合わせ、何も喋らなくなった。
そして1人、また1人と自分の席で種に魔法をかけ始めた。まるで何事もなかったかのようだ。
「マリーナ、大丈夫?」
もう一度エルにそう尋ねられ、私はハッとする。
「はい、大丈夫です、ありがとうございます、エル様」
私がそう言うと、エル様は少し首を傾げ、
「そう……なんだ?何かあったら言ってね」
そう笑って言い、自分の席に戻っていった。
私は自分の席に戻るエル様を少し見て、また種に目線を戻す。
なにかあったら、って、この種の成長のさせ方とかはありなんだろうか……?
……いや、これくらい頑張らないと……。
貴族じゃないなんて、Bクラスで言い訳にはならないし。
「……成長」
種をじっと見て、そっと呟くように言うが、種から芽が出てくることも、動くこともなく、ただ種のままそこにあった。
次は動かなくなっちゃった……。
どうすれば芽を出し、花を開くのか分からず、そのまま考え込む。
「もっと集中しないといけないのかな……? それとも他になにか問題があるのかな?」
そんな時、ちょうどチャイムが鳴った。
「それじゃあ今日はここまで。起立、礼」
先生の言葉にならい礼まですると、そのまま休憩に入ってしまった。
……出来ないままになっちゃった。
はぁ、と静かにため息をついてチラリと周りを見渡すと、各々に休憩を取り、友人と楽しく談笑しているようだ。
私はなにしてたっけ。
少し前のこの時間を思い出そうとして、頭を働かせるが、よく分からない。
なにしてたんだっけ……。
また、この感覚。
覚えてるはずのことが忘れて、それも忘れて、なにかが、消えてる感覚。
……気持ち悪い。
また、なにか忘れそうで、また、なにか消えそうで、怖い。
「マリーナ? 大丈夫? 顔色ひどいよ!?」
そう話しかけてくれたのはエル様。その隣にはレイン様もいる。
「エル様、レイン様……?」




