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授業が始まり、何事もなく進んでいく。
「ではアディソン、この種を魔法で成長させてください」
そう指名され、種を渡される。
「はい」
そう返事をするが、内心はバクバクだ。
種の成長……? やり方知らないけど……!?
席を立ち、そっと深呼吸をする。
「……成長」
小さくそう言うと、種がかすかに動いたが、変化することはなかった。
「ふむ、では、次、サラン。やってみろ」
そう言い、先生はルージュ・サランに種を渡した。
「はい」
ルージュ様は、そう返事をして、種を手の上に乗せ、私と同じように「成長」と詠唱する。
すると、種はカタカタと震えるように動き、そこから芽が出てきた。
その芽は、止まることなく伸び、茎となり、葉を生やし、花の蕾をふくらませる。
そして、ゆっくりと花が開いた。
「おぉ……」
「花までも……」
「すげぇ、しかも早い……」
と周りの人はヒソヒソと言い合う。
「それに比べてあの庶民は……」
「魔法一つ出来ないのか」
「これだから庶民は……」
と同時に私への冷たい言葉。
私はいたたまれなくなって、顔を俯かせる。
目の端にうつったルージュ様はさも当然のように手に花を乗せ、ドヤ顔をしている。
それを見てさらにいたたまれなくなり、目をぎゅっと閉じた。
「さすがだな、サラン。その花をこちらに、座っていいぞ。では全員にこの種をまわすので、各自魔法で成長させるように」
先生はそう言い、種を全員に渡す。
そして、各々で魔法が使われ始めた。
私も、ノロノロと机に置いた種に手を伸ばす。しかし、周りは魔法よりもヒソヒソ話をする者が多く、声がよく届く。
「どうせ出来ないんだから無駄だろ……むしろ暴発してこっちに迷惑かけないでほしいね」
「つか出来ないのになんでいるの。とっととクラス下がればいいのに」
「庶民ごときがこのクラスにはふさわしくない。どっかいけよ」
そんな声がよく聞こえて、泣きたくなった。
どうして私がそんなこと言われなくちゃいけないの。
私だってどうしてBクラスに入ったかなんて知るわけない。
庶民庶民って、お金があるかなんて、関係ない……。
そう心の中で呟くが泣きそうな気持ちは強くなるばかりだ。
泣いちゃダメ……。我慢しなきゃ……。
恥ずかしくて、そう必死に抑えるが涙がこぼれそうになる。
その時。
「大丈夫?」
後ろから、そう声が聞こえた。




