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走り回ってやっと見つけた保健室に息を切らせながらそっと保健室を開ける。
「……し、失礼しまーす」
静かに息を整えながらスーっと入る。
エルがいるベッドへ行くと、そこには眠っているエルだけで、カトレアさん達はいない。
てかエル寝てるのか……。
そっとエルに近づき、顔色を確認する。
良くはないが、悪くもない。問題はなさそうだ。
……まぁ問題ないなら寝てるし出るか……てかルイさんに会ったらやばい気がするし……うん、逃げよう。
私は即座にそう判断し、保健室を出ようとする。と、ふと腕を握られる感覚。
「んぇ!?」
急な感覚に変な声で叫んでしまった。でも私のせいじゃない、うん。
「……なにその変な声」
後ろからそんな声が聞こえ、振り返ると、腕を掴み、私を変なものを見るような目で見るエルが。
あれぇ、寝てたんじゃないの……?
「いや、急に掴まれたら誰だって驚くし……っていうか寝てたんじゃ?」
私がそう言うと、今起きたと返される。
「えーっと……なに?」
未だ離されない腕をチラリと見て、私はそう尋ねる。
「……。僕は、本物……のはずだった」
ポツリと、そう呟くエルに私はなにも言わずに耳を傾ける。
「何かわからない、知らない誰かに、僕は僕を取られ、僕は奥へと追いやられた」
知らない誰か、というのは、きっと転生したもう1人のエルのことだろう。
「出ることも出来ず、消えることも出来ない。なにも見えず、なにも感じない。なのに、ある日、光が見えた」
虚空を見つめ、エルはそう言う。
「その光にもまれたらここに出て、ここは、僕の場所なのだと、直感した。でも、僕じゃない僕がここで生活していて、ここはもう、僕の場所じゃないことを、知った。もう1人の僕が、どこからか来て、何かの目的で僕になったことも感じた」
「目的……?」
「そう、目的。マリーナも、その目的で、マリーナになった、そうでしょう?」
目的で、私はマリーナになった……? それは、私とエル、カトレアさんやリュラさんは、その目的で転生してきた、ってこと……?
「その目的……って?」
私のその問いに、エルはキョトンとした顔になる。
いや、何故そんな顔になるんだ……。
「マリーナ……。分かんないの?」
そりゃあな!!
思わず心の中で叫んでしまった私は、絶対に悪くない。というかそんなえ? マジで?みたいな顔するな!!
「私物知りじゃないからね? 分からないことぐらいあるからね?」
私がそう言うと、心底不思議そうな顔をして、そうなんだ、と呟いた。
「……僕はもう1人の僕の記憶を元に目的や、事実を知った。でも、もしかしたら、もう1人の僕も、マリーナのように思い出してないのかもね」
記憶を元に……? ということは、記憶を思い出せば、分かる、ってこと?
「その目的や事実って、なに?」
そう尋ねれば、またもキョトンとされ、次にクスクスと、笑われた。
「それは、自分で考えるものだよ。……さて、僕はどーしたもんかなぁ。一応選手交代、出来るんだけど」
……!?
「せ、選手交代!? って、もう1人のエルに戻れるの!?」
「うん。あれ、選手交代って使い方あってるよね? 記憶を元に使ってみたんだけど」
私の言葉にさも当然のように言い放つエル。
「いや、うん、合ってるけど……」
そ、そういうことじゃなくて、ね……?
「まぁ全部理解したしね、この世界のことも」
「この世界……?ああ、ゲームの世界だしね、ここ……。記憶で全部分かっちゃうこか……」
なんか、驚きっぱなしだな……。
「まぁいいや、っていうかカトレアさんにも会おうと思ってたんだった。そろそろ行くよ。あと……エルがもう1人のエルになるかは、私の決めることじゃない。エルが決めることだよ。エルが望む未来に、エルがするんだ」
私は笑顔でそう言って、保健室を出た。
……私、カッコよかった……はず!!
保健室を出て、1人ドヤ顔になりながらそんなことを考える。
私が出て行った後、保健室のエルが、
「……僕が望む、未来……」
驚きながらそうポツリと呟く。そして、微かに顔を綻ばせた。
「ああ、そういえば……」
そして、続けて首を傾げながら呟く。
「この世界って、ゲームの世界と同じなんだ」
……その呟きは、誰の耳にも、届かなかった。
3/27
すみません、書き忘れてたので、今日書かせていただきます、Twitterでは思い出した瞬間ツイートしたんですが(今さっき)、今週の更新はお休みさせていただきたいと思います。
理由は春休みなので、あの、旅行に行ってまいります。
今週の予定を思い出してたら更新休むこと言うの忘れてるやん!ってなって焦りました……お伝えするのが遅くなり申し訳ありません。次の更新は4/7になりますので、よろしくお願いします!




