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 午後の授業が終わり、帰り支度を整えていた時、ふと、横から声をかけられた。


「ねぇ」


 明らかに私に向けられた声だったが、女の子なので、おそるおそる振り向いてみる。


 すると、そこにいたのは例のごとく、先程私に嫌がらせをしてきた女子だった。


 え、なになに怖い……。


「は、はい。なんでしょうか……?」


 キッと睨み、私に何かを言おうとした時、後ろから大きな声が聞こえてきた。


「おーーーい!! マリィーナちゃあーん!! レインくぅーん!! あ、いたいた!」


 う、うるせぇ……。


 ま、まぁ、この子の話をとりあえずうやむやに出来たのは良かったかな?


「さぁ、エルのお見舞いに行くわよー!!」


 と言いながら、私とレインの腕をガシリと掴み、問答無用で歩いて行く。


「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください! 痛い痛い!強すぎですよ、カトレアさん!」


 と言いながら抵抗するも虚しく、ずんずん歩いて行く。


「か、カトレアさん、もしもし? 聞いてます? 痛い……っていうか早いっ!!」


 繰り返し言うが、全く聞く耳を持たない。というか無視しやがる。


 早足で歩いて行くので、すぐに保健室についてしまった。


「ハァ、ハァ……つ、着いた……」


 軽く息を切らしながらそう呟いたが、ガラガラっとドアを開く音にかき消される。


「あら、先生がいない」


 と言いながら、立ち止まることなく、エルのベッドの元へ行く。


「エルも寝てる……か」


 エルの眠った姿を見ながら、そう呟いたカトレアさんは、しばらくエルの顔を見た後、ばっとこちらを向く。


「さて、じゃあお昼のエルのこと、しっかり説明してもらうわよ! 私のこと覚えてないってどういうこと!!」


 と怒った口調で言ってきた。


 ええ……よく私も知らないんですけど……。


「ええっと……まぁ詳しく知ってるわけじゃない……ってか、私も結構混乱してるんですけど」


 と前置きをし、エルについて話し始める。


「えっと、まず私が前のエルを最後に見たのは、多分昨日?かな。なので、どうして突然今日は違う性格、というか態度なのかは全くわからないし、いつ変わったかも不明なんですが、多分、あのエルは確実に私たちの知ってるエルではない、というのは断言できます。あのエルは、」


 乙女ゲームのエル・カトリーヌだと思います、と言いそうになって、レインがいることを思い出す。


 しかし、カトレアさんは分かったようで、ふむ、と頷いた。


「昨日から今日にかけて、なにかがあった、ということか……」


 レインもそう呟きながら、顎に手を当て考え込む。


「なにか……事件……? 人格が変わるほどの出来事って一体……」


 ぶつぶつと深刻な顔でそう呟くカトレアさんに、昨日から今日のことを思い出す。


 ……しかし、これは人格が変わる、というより、元のエル・カトリーヌが一時的に消滅、あるいは眠っている状態の気がする。なので、またエルの体に元のエルが戻る、目覚めることがあれば、その主導権は元のエルがあるのだろう。


 だから、今のエルは元のエルのことを拒絶する……のだと思う。


 ふむ……難しいな……。


「ん……」


 そんな微かな声と毛布が動く音に、みんなエルに目線を向ける。


 ゆっくりと開かれたエルの目は私たちを見ているようで、見ていないような、無機質で空虚な目だった。

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