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食堂から少し離れたところで、私たちは足を止め、カトレアさんは私たちを見回した。
「よし、全員いるわね、はぁ、危なかった〜」
なんて言って一息つくカトレアさん。
いや、危なかったじゃないですよ。バリバリアウトですよ。
「あらら? エルは不服そうね。あそこにとどまっていたかったの?」
なんて挑発するように尋ねるカトレアさんに、エルはふんとそっぽを向く。
「ふーむ……さて、人気もないしとっても気になってたことを聞くわね。エル、あなた……誰?」
カトレアさんは瞬時に顔の表情を消し、淡々とエルにそう問う。
その問いはみんな疑問に思っていたことのようで、口に出す者はいなかった。
「誰、ってなに。僕はエル・カトリーヌ。僕はあなたのことを知らない。だから気安く話しかけないで」
カトレアさんの問いにふんっと不満顔丸出しで言うエルに、カトレアさんは目を細める。
「私のことも覚えていない癖に、よく自分がエル・カトリーヌと名乗れたわね。……いや、あなたこそがエル・カトリーヌだから、問題ないってことか。まぁいいわ。でももうその体の持ち主は“お前”じゃない。いい加減に離れなさい」
厳しい表情でそう言うカトレアさんはいつものカトレアさんじゃなく、別人に思えてどきりとする。
「なにを言っているのか理解できない!僕はエル・カトリーヌだし、この体は僕のものだ! 勝手に入ってきて、邪魔をしたのはあいつ方だ! それなのに、寄ってたかって僕を悪者扱い……! 僕が『エル・カトリーヌ』なのに!」
その口ぶりは、もう1人のエルのことを、知っている口ぶり。
「一体なんの話を……」
見えない話の先を怪訝な顔で尋ねるアルナルド。後ろのエディ達も同様の疑問を持っているようだ。
「アルナルド様達も気づいているでしょう。今のエルは……前のエルとは別人です」
私が静かにそう言うと、ばっとエルはこちらを向く。
「マリーナまでそんなこと言うの……? 僕ってなに? 今ってなに? 別人ってなに? 僕は僕だ!! なんでも好き勝手言って……僕がエル・カトリーヌなのに!!」
悲痛な顔でそう言うと、ふらりと力尽きたように倒れたエル。
「!? エルッ!!!」
私はすぐにエルの元で呼びかけるが、動かず、眠っている。気絶してるのか……?
「ど、どうしましょう……!? 医務室に……医務室に送った方がいいですよね、医務室ってどこでしたっけ……?」
私はあわあわとどうするべきか思案しながら口に出す。
「私が運びましょう。もうすぐ授業が始まる。全員、自分の教室に戻るように」
そう言い、エルをおぶったドルソン先生。
私たちが出来ることなどないに等しいので、先生の言葉に、
「はい……」
と呟くように返すだけだった。
「あー、まぁちょっと混乱して頭がパンクしちゃっただけだと思うから、心配せずに、勉強に励んでね!!」
と励ますように明るい声で言うカトレアさん。
「さぁさぁ、みんな戻って戻って! 遅刻しちゃうわ!」
と、急かすように、みんなを戻すのだった。
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「一体どうなってるんだか」
そう言ったのはアルナルド。カトレアさんと別れ、教室に戻る途中、アルナルドはそう切り出すように呟いた。
「そうですね……でもエルが別人っていうのは確かでしょう。どうしてそうなったのかは分かりませんが……」
私もエルの状態を案じながら、そう言う。
「別人格があった、ということか?」
というレインの疑問に、私は言葉を濁す。
「そうですね……多分そういうこと……なのかな?」
そう言うと、エディもなるほどと頷き少し考えこんだ。
「……あ、それでは、アルナルド様、エディッタ様。お先に失礼させていただきます」
教室が近づいてきたので、私はそう言って一礼する。
「失礼いたします」
レインもそう言って2人に礼した。
「うん、ありがとう、マリーナ、レイン」
とアルナルドは言う。
「いえ、こちらこそありがとうございました」
レインはそう言って、再び頭を下げた。
「ふふ、それじゃあ」
そう言ってアルナルドとエディは、自分の教室に戻って行った。
「俺たちも戻ろう……あと、授業が終わったらエルが心配だな。見舞いに行かないか?」
「そうですね、行きましょう」
私とレインはそう言い合い、教室に戻るのだった。
なんかエディのセリフが大幅に少ない気がする……!!
ちょっと喋れるところは喋って欲しいなぁ(願望)




