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 本を読みながら、時折本の感想やたわいの無い話をして、気づけばもう夕方になっていた。


「あ、私、もう帰らないと」


 大きな窓から夕日を見て、私はそう言った。


 レインはそうか…と残念そうに言い、私の顔を見て、「次はいつ会えるんだ?」と聞いてきた。


「え?ああ…次は小説じゃなくて勉強もしていきたいし…近いうちにはまた来るけど…」


「近いうちとはいつだ?」


 近いうちは近いうちだよ。


 ちゃんと決めてないよ。


「うーーーん…1週か…あー、明後日、かしらね」


 な、なんだろう。

 1週間後ぐらいかしらって言おうとした瞬間、レインの方からなにか威圧が感じられたんだけど。

 とっさに明後日にしちゃったけど、予定空いてるかなぁ…


「そうか。では、明後日にまた会おう。その本は借りていくのか?」


 あ、もう会うのは決定なんですね、そうなんですね。


「借りていくわ…また明後日に返せばいいし」


「そうか。……あ、俺も帰らないと。今日はありがとう」


「いいえ、こちらこそありがとう」


 笑って言うレイン可愛い。


「じゃあ、俺は借りる本は無いから先に帰らせてもらうよ。また」


「ええ、また」


 手を振り、レインを見送った。



 ああ、なんということでしょう。


 私の推しキャラはレインじゃ無いのに。レインにときめいちゃう…!


 いいえ、落ち着くのよ、私。

 彼はとても怖い人。殺されるかもしれない危険な人。


 私は深呼吸をして、冷静に考える。


 どうせ勉強しに来るんだ。

 ちょっと知り合いができただけ。

 恋に落ちるところなんてどこにもない。


 …よし!


 いつの間にかうつむいていた顔を上げ、私は本を借りるため、司書さんのところへ行った。



ーーーーーーーーーーーーー


 家に帰ると、すぐに自室へ行き、ノートを開いた。

 そして、攻略ヒロインのページを開き、レイン・カルディの部分を見る。


「さて…」


 レインの部分に追加でペンを走らせる。


 レイン幼少期

・感情がよく顔に出ていて可愛い。

・学院時同様、人を見下す気配はなく、気さく。

・読書家は幼少から変わらず、いろんなものに興味がある。



 …ふむ、これぐらいでいいかな。

 1度ノートを読み返し、パタンと閉じた。


 そういえば私が好きになるキャラって可愛い系ばっかなんだよね…そのうちレインの事好きになったりして…いや、警戒してる私にまだ好きなんて気持ち、あるはずない!…多分。



 そんなことよりも…



 明後日どうしよう!!


 自然に約束取り付けられてるし。そりゃあ用事はないけど死亡フラグを確立させるわけには…


 いや…死亡フラグが立つのは相手、つまりレインが私に恋をした時。

 つまり恋させなければいいんじゃない!


 簡単に幻滅させればいいかしら?


 うーん……


 まぁ、第一候補としては幻滅させるってことで…あとはその時に考えればいいか。


 さて、ご飯食べてとっとと寝よう。


 何故だろう。すごく疲れた。



ーーーーーーーーーーーーー


 …特になんの用事も事件もなく、レインに出会った日から2日後…つまり、明後日を迎えました、マリーナです。



 …どうしよう、すっごく行きたくないのに、可愛いレインは見たい。



 はい、図書館に着いたー…。


 もう朝市なんて見てる暇もなく着いちゃったよ。レインのことを考えすぎて昨日はお父さんとお母さんにまで心配されたし。


 …とりあえず、中に入るか……。


 中に入れば、一昨日と同じ女の人が笑顔で立っている。


「こんにちは」


 そう言われたので、


「こんにちは」


 私も笑顔でそう返した。



 中に入った瞬間、本棚にもたれて、立っているレインを見つけた。



 うっわっ!1番最初に目に入ったからビックリした…!


 …これは挨拶をしたほうがいいのか?するべきなのか?


 ……気付かないフリを


「おい」


 …しようと思ったんだけどなぁ…


「え?ああ、レイン。こんにちは」


 今気づいたように装う私、結構演技派では!?


「1番最初に俺のこと、見ただろう」


 おっと、見られてた。演技は向いてないのかな?


「え?気のせいじゃない?」


 ニコッと笑って誤魔化す。疑わしい顔で私の顔を見ていたが、フッと解くと


「さっき見ると面白そうな小説があったんだ。見に行こう」


 と言った。


「あ、私、がくい……貴族階級について調べたいことがあるからそれからしてもいい?」


 学院のことは言わないほうがいいかな…。まぁどうせ入学すれば会っちゃうんだけど、今言うと魔法のことも普通にバレるし……


「貴族階級?どうしてだ?」


 そりゃあ学院の…いや、それを伏せて…


「…庶民が貴族に刃向かうにはどうすればいいかと……」


 完全に言葉間違ったーー!!


 刃向かうってなんだよ!不自然この上ない!


 虚をつかれたような顔をするレインに、とりあえず弁解を……


「あ、いや、下克上するには何をすればいいのかと…」


 ほとんど何も変わってなかったーー!!


 おかしい。私の語学力。いや、それ以前に言葉の選び方。あと、考えずにものを言いすぎる!


「…げこくじょう?」


 …あれ、伝わってない。


 もしかしてこの世界に下克上とか存在しない?


「あー、下克上というのはですね、身分の低いものが身分の高いものに決闘を挑むといいますか、刃向かうといいますか…まぁ、そんな感じです!」


 私はドヤ!という顔で言う。


 あれ、私今、墓穴掘ってる?


 レインは圧倒されたように私を見て、そうか…と顎に手をあて何かを考えていた。


 …え?別にレインさんに手を出そうなんて考えてませんよ?

 普通に隠そうと思ったら変なことを言っただけなんですよ?

 そんなに考え込まなくてもいいんですよ?


「俺も今日は小説を読まない」


「んうぇ?」


 うわっ、変な声出た!

 急に喋るから!


「……。今日は俺も勉強しようと思う」


 待って、目を逸らして言わないで。あとちょっと肩震えてますよ。笑いをこらえてるんですね?そうなんですね?

 ちょっと私が変な声を出したぐらいで!ひどいわ!全く!


「…そうですか、良かったですね。ではこれからは別行動ということで。ああ、そういえばレインさん、肩が震えてますが大丈夫ですか?寒いのであれば今すぐ医者に見せるのもいいのでは?ああ、それがいいですね、そうしましょう。それではさようなら」


 作り笑いを浮かべ、私はそう言う。


 私はスカートを翻し、貴族について書かれている本棚を探す。


「いやいや、待て待て!今のは俺が悪かった!だからちょっと待て!」


 大声で言うと、人に迷惑がかかるので、あくまで小さく、でも私には届く距離でそう言うレイン。


 私はピタッと止まり、ゆっくりとレインの方へ体を向ける。


「…まだ何か?」


「…今のは俺が悪かった。謝る、すまない」


 申し訳なさそうに謝るレイン。


「…はぁ、別にいいよ、怒ってるわけではないし」


 怒ってるわけではない。ただイラついただけ。



「…それで、勉強のことなんだが、マリーナはなにか勉強をしているのか?」


 もう大丈夫と判断したのか、真剣な顔つきで、勉強について問う。


「…いいえ?特に何も勉強はしてないけど?」


 なにを突然。勉強をするために図書館へ通い始めているのだが。


「なにも勉強をしていないのか!?なら「なりきん」や「げこくじょう」などはどこで覚えるんだ?」


 日本です。という言葉が喉まで出かかり、必死で抑える。


「…人が使ってる言葉を聞いたりして…とかかな?」


 あながち嘘ではないので、そう言う。ただ日本で、という言葉が抜けているだけである。

 嘘は言っていない。


「そうなのか…どうすれば言葉や語学を身につけられるだろうか?」


 いや、わからないです…。


「…まぁ、人と話をするのは重要じゃない?人の使っている表現や言葉の言い回しを真似して自分のものにする…とか」


 あれ、いいこと言ってない?


「真似して自分のものに…なるほど、ありがとう、マリーナ。今日はやっぱり帰ることにする。それじゃあまた明日!」


 私に明るくそう言ってレインは去っていった。


 …え?また明日?なんかちゃっかり約束事を取り付けられてるんだけど。


 呆然と去って行くレインを見た後、ハッとして貴族のことや、レインがいないので学院についても調べてノートに書いていった。


 ……なんなんだろう、私って。


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