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「エ、ル……」
そこにいたのは、無表情で突っ立っているエルだった。驚いて私は思わず呼び捨てでエルの名前を呼んでしまう。
それが女の子には気に入らなかったようで、ギンっと睨まれたが、私はそちらを見ていなかったので、気にしていなかった。
「もうすぐ休み時間終わるよ?」
と笑ってエルはそう言うが、目が完全に笑っていない。
「申し訳ありません、エル様。少しマリーナ様とお話を……」
と続けようとした時、エルがそれを遮り、ぴしゃりと言った。
「君に名前で呼ぶ許可を出した覚えはないんだけど?」
エルにそう言われ、女の子はびくりと肩を震わすが、気持ちを持ち直して、また話しかける。
「す、すみません、カトリーヌ様……私今マリーナ様とお話をしておりますので、カトリーヌ様はお先に教室にお戻りになった方が……」
とにこやかに言った。さすが女の子、度胸あるなぁ……。
「……わざわざ遅刻しそうな人をほっとけって? 僕ってそんなに薄情に見えるかな?」
と笑みを深めながらたずねると、「そ、そんなことは……!」と即座に否定する。
「そろそろ行かないと遅刻しちゃいますね。行きましょうか」
とやっと声を出した私に、女の子は睨み、エルは黒い笑みを少し抑える。
「嫌だわ、マリーナ様ったら。私とのおしゃべりがそんなに嫌なのかしら。これだから庶民は地べた這いつくばって仕事しかできないのよね」
ハッと失笑しながら言う女の子。
なんですって?
「一体なぜそんな結論に至ったのか知りませんが、庶民を馬鹿にするのはやめてください。その言葉は、私の父や母、そして友人達を愚弄する言葉。私の大切な人たちを馬鹿にするのは許さない」
キッと私は女の子をにらんでそう言う。
「あらあら、私は真実を言ったまでよ? それとも図星を突かれてそんなに突っかかってるのかしら? なんて惨め!!」
と女の子はあははっと笑いながら返す。とその瞬間、女の子が「きゃぁっ!」と叫び、軽く後ろによろける。
彼女のよろけた逆を見れば、無表情でなんの感情も持っていない、エルが立っていた。
き、気づかなかった……。
女の子が左頬を抑えているところを見ると、エルが平手打ちをしたのだろうか……?
「な……ど、うして……カトリーヌ様……」
と驚きと混乱と怯えなどが色々が入り混じった顔をして、体をかすかに震わせている。
「マリーナの侮辱は僕が許さない」
……これは……誰?
「マリーナの害になるのなら、殺してしまいたいな」
エルはこんなこと言わない。
「別に1人や2人ぐらいいいよね?」
違う。
これは『エル・カトリーヌ』だ。
「ふふふっ、氷でじわじわ殺してあげるね……?」
これは、ゲームの中の、あの『エル・カトリーヌ』なんだ。
よしよしよし話動いてきたぞ……!!
(だんだんプロットからズレてきてるのは内緒……全力でプロットから離れすぎないように努力します)




