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カトレアさんが帰ったあと、私はカトレアさんに言われたことについて考えていた。
「どうして私たちが転生してきたか、か……」
小さくそう呟き、転生について考える。
転生者は、私とエルと、カトレアさんと、そしてリュラさん。他にもいるかもしれないが、今はこの4人が転生者と分かっている。
私とエルとカトレアさんとは、この世界が、乙女ゲームということを知っていて、私とカトレアさんはこのゲームをとても愛している。エルはともかくとして、私とカトレアさんの転生理由にしては妥当ではないだろうか。
エルは、好きではないものの、知っているという点となによりカトレアさんと姉弟だ。……いや、姉弟というだけでここに転生するのはおかしいか……。
リュラさんはこの世界が乙女ゲームということをそもそも知らなかった。普通にファンタジーの世界として楽しんでいた。エルも同じようにファンタジーの世界として……いや、なら乙女ゲームの攻略対象になるのはおかしいか……。
「あーーわからん!!!!」
頭ごちゃごちゃしてきた!!
まだ思い出してない記憶の方を考えた方がいいってことかなー……。
でも確かに前世のことを思い出そうとすると、乙女ゲームについてはしっかり思い出せるけど、日常生活についてはぼんやりと霞んでいる。
私がどこに住んでいて、何歳で死んだかは思い出せるのに、どんな生活を送っていて、どんな友達がいたかはあやふやだ。
友達いた……よね? もしかしてぼっちだったから思い出してないとかじゃないよね? 私自分のこと友達いっぱいいるって信じてるよ? 信じてるからね、私。
……ほ、本当にいたよね……あと、か、彼氏とかいたのかしら……いやリア充生活謳歌してたよね!!!! してたよね……?
わ、私の前世が心配になってきた……思い出して悲しくなったりしないかな……。
いや、今考えるべきはそれじゃない……!
というか思い出せないからあれこれ考えても意味ない!
なぜ、一部の記憶だけしか思い出せないのだろうか? きっかけ一つですぐに思い出せるものなのだろうか? ……思い出し方とかだけでもいいからカトレアさん教えてくれないかな……。
「失礼します、紅茶を持ってまいりました」
そう言って入ってきたのは、ルイさん。お盆には、ティーセットが揃っている。
「あ、ありがとうございます」
私はそう言って、立ち上がって手伝おうとするが、ルイさんは手伝う前に簡単に済ませてしまった。
手伝わない方がいいんだろうけど庶民的な私にとって全部やってもらうってムズムズするんだよなぁ……なんて考えてたら、「マリーナ様?」と声をかけられた。
「あ、はい」
慌てて椅子に向かうと、椅子を引かれるので、それにならい、ゆっくりと座った。
うん、ちょっと恥ずかしい……。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
私はルイさんに出された紅茶をゆっくりと飲む。ほぉっと息をつくと、心がじんわりとあったかくなり、落ち着いた。
「すみません、カトレア様がいらっしゃった時に出すつもりだったんですが、予想よりも早く帰ってしまいましたので……」
「あ、いえ、大丈夫です。カトレアさんは言わなければならないことがあったようなのでそんなにいるつもりはなかったようです。なので、気にしなくていいですよ」
申し訳なさそうに言うルイさんに私も苦笑してそう返す。
「そうでしたか、いらっしゃった時とは雰囲気が随分変わっていらっしゃるようでしたが、何かのご相談が?」
ご相談……ではないか……?
「心の中の気持ちが吐き出せてスッキリしたんですかね……? 相談というよりは報告って感じだったので……」
「そうでしたか。雰囲気が戻っていたので、私も安心いたしました」
ルイさんもカトレアさんの心配してくれてたのか。
「そうですね、私もよかったです」
ニコッと笑ってルイさんにそう返した。
カトレアさん……そうだ、転生。
とまぁ、私はカトレアさんを思いだしては、転生や記憶についてぐるぐる考えるはめになり、その度にルイさんに心配されるのだった……。
うぅ、記憶って戻るのか……?




