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「……あのー」
私は、もう普通になってきつつある攻略対象との食堂での食事で、私はそう声をかける。
夕食時になり、食堂に行けばもういつも通りの面子がたまっている。これは、なんだか色んなフラグが立ったり折れたりしてる気がす……うん、気のせいだよね。
「すっごいここに溶け込みながらいますけど大丈夫なんですか? ……カトレアさん」
私は考えをすぐに打ち切って、当たり前のようにアルナルドの隣にいるカトレアさんにそう言う。
カトレアさんはニコニコ笑いながら「大丈夫よ〜」と返しているが、本当に大丈夫なのか……?
「あ、」
と私はカトレアさんの後ろに目を向け、そんな声を出した。
「カトレアさん、後ろに……」
「わぁっ、これ美味しそう! 私のこれと交換しない?」
私がカトレアさんに話そうとした時、カトレアさんはアルナルドに笑顔で話しかけている。もうそれは恋する乙女のように。
ちょっ、後ろ! だんだん怖くなってる!! 気づいて、カトレアさん!
「んーじゃあ、これもらおうかな」
と、アルナルドもカトレアさんの問いに笑顔で答える。
後ろーーー!!!
「……ご飯は、確か外で食べたのでは?」
と、とても低い声がカトレアさんの後ろで聞こえる。そしてその瞬間、ピシリと固まるカトレアさん。
「こんなところで何をしてるんですか? カトレア?」
こ、こわっ!! カトレアさんの名前呼ぶ声が何よりも低かったんですけど……!?
カトレアさんはギギギ、と壊れかけのロボットのように顔を後ろに向ける。
「ル、ルカ……な、なんでここに……?」
顔を真っ青にしながら先生に尋ねるカトレアさんに、ただ無表情にカトレアさんを見る先生。
「ちょうど切らしていたコーヒー豆をもらっていたら、大きな声の聞こえるはずのないカトレアの声が聞こえたのでここにいるんですが何か問題があるんですか? ああ、ありますね、嘘ついてたんですもんね、何か言い訳はあるんですか? まぁそれが通用するかは分かりませんけどね、そう簡単に許すつもりはないので」
と淡々と、しかし真っ黒な笑みで言った先生に、私はゾクリと背筋が凍る。
怖い怖い怖いっ……!!
しかも今のいつ息継ぎしてた!? 私が気づかなかっただけか? 気づかなかっただけなのか? 休んでる暇もなく抑揚もなくただただ言ってるだけだったんだけど?
でも見てるだけだと面白いな、なんて……
「で? いつまで座ってるつもりですか?」
真っ黒な笑みのまま、カトレアさんにそう問い、カトレアさんはばっと立ち上がる。
「今から! 今から帰ります!! さぁ行きましょう!!」
すぐにそう言い、カトレアさんは早足で食堂を後にした。
その様子を見て、私達の方に向き直る先生。
せ、先生は行かなくていいんですか……?
「カトレアがすみませんでした」
にこりと笑ってそう言い、先生も食堂を後にする。あれ、先生、食堂を出る前にアルナルドを見た……?
「……あー、怖かったね〜」
と先生が去った後に呑気な声で言うアルナルドに私達は一息つく。
「めっちゃ黒いオーラ出てましたね……最後、アルナルド様の方を見た気がしたんですが、私の気のせいですかね?」
とアルナルドに尋ねる。
「ん? ああ、見てたね、目合ったし。いやぁ、すっごい怖かった」
と普通に笑いながら言うから本当に怖いのか分からない。
「あ、そうなんですか」
と私は苦笑いで返すだけだった。




