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「おかえりなさいませ」


 そう言って私を出迎えてくれたのはとてもとても素敵な笑顔を浮かべるルイさんだった。しかし目は笑っていない。


 こ、怖いぃぃぃぃ!!!!


「今日は楽しかったようで?」


 顔の表情を崩さずそう聞くルイさんに私は冷や汗がダラダラと流れる。


「あ、あの、な、なんと言えばいいのかわ、分からないというか、い、言い訳にしかならないというか」


「はい?」


「ひぇっ」


 ひええええ!! 怖いよぉお!


 今の声すっごい低かったよぉ!!


「……あなたは、私なんかにも優しくしてくれて、同等に扱ってくださります」


 とポツリと言い始めるルイさん。顔もだんだん下を向いている。


「本当は同等でもなんでもないのに、自惚れも甚だしいですが、少なくとも私はちゃんと対等に、優しく笑顔で接してくださるあなたを……」


 と、そこで止め、深呼吸する。


 え? どういうことだ……?

 私はだんだんと声がしぼんでいくので聞き取りづらくなり、何を言っているのか分からなくなる。



「あなたがどこか行くのなら、こんな世界潰して小さくしてしまおうか……」


 私は何かをボソリと言ったその声が聞き取られずに、思わず「え?」と聞き返してしまう。


 だがそんな時にはルイさんは普通の顔に戻り、「いえ、なんでも」とはぐらかされてしまった。


 も、もう怒ってないのか……?


 じっとルイさんの顔を見る。も、元に戻ったか……?


「あの、本当にごめんなさい、私エルとカトレアさんの仲直り大作戦について考えててルイさんこと忘れちゃいました……」


 私は正直にきちんと話し、改めて反省する。


 エルとカトレアさんのことを考えていたとはいえ、約束を反故にしてしまったのは変わりない。


「まぁ故意ではないのでしょう、ずっと怒ってるほど怒りの沸点は低くないですよ。それに、一応休めはしたので」


 穏やかに笑って許してくれるルイさんに、ジーン感動する。


 そう、もしこれがエルならばこんなに優しく言ってはくれない気がする。


 思えば前世でも可愛げのない生意気な弟はちょっとしたことで怒っていた。ルイさんのいう怒りの沸点が低いのだろう。可哀想なやつだ。


 今是非ここでルイさんを見せてやりたい。


「ありがとうございます、でもやっぱりなにかお詫びをさせてほしいです」


 ルイさんが休めたのは良かったが、私が悪いのは変わりないので、やはりお詫びをさせてほしい。


 見返りをよく求められるせいで何もなければそわそわしてしまう。


「そんなことを言われましても……マリーナ様は私の主人ですので、私から何かお願いすることなどありませんよ」


 そう諭すようにいい、話題を転換させようとする。だが、私はそれを阻止した。


「いいえ! 絶対なにかお詫びします!」


 食い下がる私に、困った表情をするルイさん。


「……では、そうですね、お願いをしてもよろしいですか?」


 お願い?


「それぐらいどんとこいです!」


 胸に手を当て、キリッとキメ顔を決める。ルイさんはその姿を見てクスリと笑い、お願いを言った。


「まず、私を気にかけていただかなくて結構です。私に休みはありませんが、それを設けていただく必要はありません」


 お、おう……?


「えっと……迷惑ということですか?」


 私がそう言うと、言葉につまるルイさん。


「迷惑というわけではありませんが……それが常識なので、気遣い無用、ということです。例えば料理は食器を用いて食べますが、自分が素手で食べたいからと言って相手にそれを強いるのはおかしいと思いませんか?」


「そ、それはたしかに……」


「つまりそういうことです。なので私にお休みを作っていただくこともお気遣いしていただくことも無用なので、どうぞマリーナ様はご自分のことを第一にお考えください」


「あ、えっと、はい……?」


 私は論破する勢いでまくしたてるルイさんに押されながら半ば強制的に了承させられた。


 ……あれ、これでいいのか?

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