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「あ、えっと、か、体は大丈夫……ですか?」
なんと言ったらいいのか分からず、私はとりあえずそう尋ねる。
少女は私を見ながら、コクリと頷いた。
「体に異常がないか、一応医者に見せた方がいいですかね?」
と私がアルナルドたちに尋ねると、すかさず反応したのは少女だった。
「い、医者はいいです! 私は、お金がないので行っても払えません……」
と言われ、ハッと気づく。
そういえばこの世界にも貧困街……みたいなところがあるのだろうか?
もしかして、この子はそこの子……?
私は改めて少女の服装をまじまじと見る。
所々破れた箇所のある黒ずんだワンピース、足は靴などはいておらず、裸足だった。
髪の毛は、綺麗に切り揃えられてはいるものの、艶はなく、絡まりもあるようだ。
「ふむ……君にお母さんやお父さんはいるか?」
そう聞いたのは館長。その顔は子供に見せる朗らかな顔ではなく、厳しい顔つきだ。
「あ、母と父は、流行病で亡くなって…….自分のことは全て自分でやっています」
そんな館長に、少し怯えながらも、少女はそう言った。
「なるほどな……じゃあここ周辺の弁償はお前がするということだよな?」
「……え?」
当然のように言う館長に、え、え?となる私。
「お前の責任者がお前というのなら、きちんとここの弁償もして、しかるべき罰を受けなければならない。だってそうだろう? それだけのことをしたんだから」
幾ら何でも横暴な!
「ま、待ってください、館長! この子はまだ子供ですよ?」
そう言えば、少女の顔は絶望から希望を見つけたような顔になる。
「はぁ……全く、お前は何もわかってないな……いいか? この操作魔法は双方の同意がなければ出来ない魔法だ。この少女は相手に同意をした上で、この魔法にかかっている。共犯だろうが」
呆れながらも館長は説明してくれた。
え、知らずに操られてたわけじゃなかったの!?
「ちっ違います!! 私が同意したのは、共有魔法という魔法です! 私にも魔法を使えるというので、私はそれに同意したんです!! まさか操作魔法にかかるなんて……」
と青い顔でいう少女。
「共有魔法って?」
エルが首を傾げて呟いたので、私は説明する。
「魔法を使える者と、使えない者をリンクさせて、魔法を使えない者に一時的に魔法を使えるようにする魔法、だったと思います。でもこれってほとんど出来なかったはず……」
私は、本の知識を思い出しながらそう言う(もちろんリュラさんが書いた本である)。
「ああ、共有魔法は自分と相手の相性の良し悪しが出る。悪ければ出来ないし、良いと言っても魔法を使える者の技術力も問われるとても高度な魔法だからな。あまり知られることもない魔法のはずなんだが……」
そう言ったのはリュラさん。さすが魔法のことになると、とてもすごい。
「で、でもその人は出来るって!」
「うーん、これは騙されたってことだねぇ……いいの? こういう人はたしか被害者として扱われるって聞いたよ?」
ニコッと笑ってそう言ったアルナルドに、ふむ、と考え込む館長に、頬を赤らめる少女。
「まぁ嘘をついてるという可能性はあるが……被害者は保護せねばならないからな。詳しく聞くためにも私の元へ保護させてもらおう。お前、名前は?」
と問われ、少女は噛みながらも答えた。
「あ、シュラと申します! 苗字は、すみません、分からなくて」
と苦笑する、少女もといシュラちゃん。
苗字は基本的に庶民にもあるが、家を持たない者や、税を納められない者は、苗字を奪われたり、売られたりするため、持たない者もいる、らしい。
「じゃあシュラ、私についてこい。お前らはここの処理、任せたぞー」
館長はそう言って、図書館の中へと入って行った。
……え?
「あのクソ女、めんどくさいところを押し付けやがって……!!」
エディが低い声でそう漏らす。
でも、私もちょっと同意見だった。
これは……
私は周りを見渡し、その惨状に確信した。
うん、ムリ。




