56
図書館の前に向かったアルナルドを追って外に出た私達が見た光景は、あっけないものだった。
無数に焦げとへこみのある外観、周りの民衆は周りで驚いて固まり、その中心には倒れこむ少女と、アルナルド。
すでにことは済んでいたようだ。
「おい、アルナルド、これは一体……」
どうなったんだ? と、周りを見回しながら尋ねるエディに、ん? と笑って応答するアルナルド。
「どうなったって……暴走してる少女をちょっと強制的に落としただけだよ? 操作魔法がかなり強いようで、解除しようとしても解除されなかったからね」
と簡単に言ってのける。
そんな時、「うう…」とうめき声とともに倒れこむ少女がかすかに動いた。
私は大丈夫か近づこうとした時、アルナルドの腕に遮られる。
「ダメだよ、マリーナ。まだ操られている可能性がある。近づいたら危害をくわえられるかもしれない」
真剣にそう言うアルナルドに、確かにと納得し、一歩引く。
体を懸命に動かそうている少女が、ふと何かをボソリと呟く。
「っ! 下がれマリーナ!」
咄嗟にそう言うアルナルドに、私はすぐに動けない。
私の目の前に火の玉が襲って……こなかっ、た?
「あっぶなー……」
そう呟きながら、手をかざしているリュラさん。火の玉は跡形もなく消えている。
えーっと……? 火の玉どこいった……?
そんな時、フラフラになりながら立ち上がる少女。私たちは思わず身構える。
「催眠、声が出なくなる」
少女が何かを言おうとした時、そんな声が聞こえた。
リュラさんだ。
「っ!」
少女は何かを言おうとしたとき、驚いて喉元に手を当てる。
「今のお前に声は出ない。そういう魔法をかけたからな。さて、器物破損で現行犯逮捕でもするか?」
ええー……そんな魔法もあるの……。ぶっ飛びすぎぃ……。
少女は詠唱できないと判断したのち、すぐに蹴りを繰り出そうとする。物理攻撃に切り替えたようだ。
するとリュラさんは焦りだす。
「うわぁっ! 俺は体力と格闘は底辺なんだ!!」
と言いながら必死に逃げた。
あれー、さっきかっこよかったような気がしたんだけどなー? 私の気のせいかなー?
もう一度リュラさんをちらりと見る。今も必死の形相で逃げている。
「……解除」
どこからかそんな声がし、少女はピタリと動きを止める。そして、リュラさんを蹴ろうとした動作のまま固まっていた。
「……え?」
少女は自分が何をしているのか分かっていないようだ。これは、もしかして操作魔法が消えてる?
アルナルドが解除したのか!!
「はぁはぁはぁ……た、助かった……」
リュラさんは肩で息をしながら、そう呟く。
「さすがですね、アルナルド様」
私がアルナルドの方を向いて笑ってそう言うと、アルナルドは複雑な顔をする。
「今の、僕じゃないよ」
「……え?」
「操作魔法の解除はかなり上級魔法になるはず……アルナルド様と同等の魔法を使う者がいるってことですか……?」
驚いたようにそう言うエル。
「いや、今のは多分、本人だろうね」
えっ?
「あの女の子が自分で解除したんですか?」
驚いてそう言うと、いやいやと苦笑される。
「操作魔法をかけた犯人だよ。これで誰が犯人か特定するのが困難になった……」
悔しそうにそう言うアルナルドに、あ、そりゃそうか、と自分のアホさに目をそらしたくなる。
なにアホなところ見せてるんだ私……!!
「あ、あの……」
そんなか細い声が、横から聞こえる。
そちらを向くと、操られていた少女が不安げな表情を浮かべていた。




