50
「さ、ここが館長室よ」
そう言って足を止めた場所は大きな扉がある重厚感あふれる場所だった。
や、やばい…めっちゃ緊張してきた……ドキがムネムネしてるよ……
「……やっぱり図書館に行ってきてもいいだろうか」
嫌悪感丸出しの顔でそう言ったのはエディ。よっぽど館長のことが嫌いらしい。
「もうきちゃったんだからレッツゴー!」
そんなエディに構うこともなく、豪快に扉を開けた。
そこは大きな部屋だった。応接室としても使っているのか、ソファと机も置いてあり、奥に大きな机が置いてある。
そしてその大きな机に、人が1人、足を組んで乗せている。
こ、こぇえええ!!
顔が見えないから余計怖い!!
「こんにちは、メリッサ」
ニコニコ笑いながら言うカトレアさんに、睨みつける館長さん。
「あ?」
ぎゃーー!! めっちゃ低い声だったよ!! こっわ!! 館長こっわ!!
「ああ、この子たちは私の後輩たち! そしてルカの教え子よ!」
パッと手を広げ、私たちの紹介をする。イラつきながらも見る館長の目が、ある場所で止まった。誰を見ているのかと追えば、エディを見ているようだ。
ああ、確か従姉妹で……
「エディじゃないか! まさかお前があたしのとこへ来てくれるなんて嬉しくて嬉しくて泣きだしそうだよ!」
と明るく涙ぐんだ声で……え?
「うるさい鬱陶しい黙れ。本当は行きたくなんかなかったけどな」
そんな館長とは真逆で冷たくそう言い放つエディ。館長は悲しむどころか、顔を赤らめている。
「ああ、エディの声……もっと聞きたいわ……」
えええ……どういう状況だこれ。
「えっと……私たちは退散した方がいいですかね?」
全くもってここにいる理由どころか、居づらいのでそう言ってみるが、エディの目が絶対にいろと言っている。
「あははー、メリッサ〜、そろそろ本題に入ってもいいかしら?」
なんてカトレアさんは動揺することもなくむしろ笑いながらそう尋ねている。
え? このままでいいの? 放置なの?
「エディの声をしっかり堪能してから……」
「えー、それじゃあ日が暮れちゃうわよー。私がただの挨拶だけど、この子たちの話を聞いて話し合いが必要かと思って」
「長々と喋るな阿呆。あたしのエディの声が穢れる」
カトレアさんの話に聞く耳を持たない館長。どんだけエディが好きなんだ。
「あー……どうしましょう? 聞くつもりないみたいですけど……」
苦笑いをこぼしながら私はカトレアさんにそう言う。困り顔のカトレアさんもここまでだとお手上げのようだ。
「……はぁ。おい、メリッサ」
一つ思いため息をついて、そう呼びかけたのはエディ。
「キャァ! エディがあたしの名前を呼んでくれたっ!」
か、館長が完全なる乙女化してる……。
「この図書館にセキュリティをすり抜けた本があるらしいが、お前の仕業か?」
低い声でそう告げたエディに、赤らめていた館長が固まる。
「……セキュリティをすり抜けた本だって?」
エディの話に瞬時に真剣な顔になる館長。
仕事のこととなると、元に戻るらしい。
「そうなの。私も聞いた話だからよく分かってないんだけど、そんな本があったらしくて」
カトレアさんも真剣な表情で館長に言う。
「正確には俺たちも本人から聞いた話であって、俺たちは当事者じゃない。その本を見たというのは、彼女だ」
エディはそう言って私を見る。すると、カトレアさんと館長さんも私を見た。
「あ、は、はい。図書館にあったので、読みました。魔法についてのことが書かれており、名前、属性、使い方、魔法史についても詳しく書かれておりました。ただ、ラベルなどがついてなかったので貸し出し禁止なのかな、と……」
思った次第でありまして……だんだん館長の顔が怖くなっていくので、言葉尻もしぼんでいく。
「なるほど……その本はどこに?」
「多分図書館にあるはずですけど……」
私がそう言うと、思い出したように、アルナルドが、
「僕も探しましたけど見つからなくて、だからその本には魔法がかかっている可能性も考えているんです」
と言った。
「ふむ……今図書館のセキュリティはある男に任せてある。そいつに会いに行こう」
館長はそう言って立ち上がった。




