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「そういえば名前聞いてなかったですよね。お伺いしても?」
私は別の話に切り替えるために前から思っていたことを女の子に尋ねた。
「ああ、そうね。私はあなたのこと知ってるけどね」
「あ、はい」
「……」
「……」
……え? お、教えてくれないの?
「私の名前はマリンダ・ユートリア。ユートリア家三女よ。よろしく」
マリンダ・ユートリア……?
どっかで聞いたような……。
……マリンダ……うーーんと……
「マリーナ? どうかした?」
そう尋ねながら私の顔をうかがうアルナルドに、慌てて
「いえ! なにも。よろしくお願いします、マリンダ様」
私はモヤモヤを抱えながら笑ってそう言った。
「じゃあとりあえず解散する? もうすることもないし……エルのこともちょっと心配だしね」
アルナルドにそう言われ、カトレアさんとエルのさっきの喧嘩を思い出す。
「……そうですね、私もカトレアさんを探してみようと思います」
「じゃあ解散ってことで」
アルナルドはそう言い、私とマリンダさんははい、と頷いた。
アルナルドが出て行くと、くるりとマリンダさんが私の方を向く。
んん? な、なんだ?
「あなた、アルナルド様のこと好きなの?」
と切り出された。
……アルナルドのことを?
「いえ……憧れと尊敬はありますが……」
あと殺されるかもしれないって言う恐れもあるけど。
「ふーん……」
あからさまにホッとした顔をしたマリンダさん。……おやおや? これはもしや?
「アルナルド様のことがお好きなんですか?」
ニコッと(ほとんどニヤッと)そう尋ねると、ズサズサッという物音が。
マリンダが滑って転んだようだ。顔は真っ赤だし、一目瞭然。
「な、なななな……」
「ヘェ! そうでしたか! もしや、一緒の空間に入れたこと今感動してたり?」
ズサズサッ
「あ、もしかして私につっかかってたのもアルナルド様と一緒にいるのをよく見て気に食わなかったからとか?」
ズサズサッ
「せめて気持ちは秘めたいけど仲良くはなりたい的な!」
ズサズサッ
「マリンダ様ってわかりやすいですよね」
「うるさいわよ!!」
顔を真っ赤にして睨まれても怖くもなんともないんですよ。
「……確認なのだけど」
「はい?」
マリンダさんに真剣な顔でそう言われ、首を傾げながら応答する。
「アルナルド様のことは好きじゃないのよね……?」
……。
「大丈夫です、私はマリンダ様を応援したいと思ってますよ」
ニコッとそう言うと、顔を赤らめながら、「そ、そう」と嬉しそうに言う。
あら可愛い。
……あ。
「思い出した」
マリンダ・ユートリア。
ゲームでは私の数少ない信頼できる友人で、サポートキャラだった人だ。
たしか初心者向けにサポートキャラがいて、それがマリンダだったような……うん、マリンダだった。私あんまり頼らなかったから覚えてなかったんだろう。
「どうかしたの?」
不安げにそう尋ねられ、私は何事もなかったかのように
「いえ、なにも」
と答えたのだった。
ーーーーーーーーーー
というわけでマリンダの恋の応援をすることになり、マリンダとは先ほど別れた。
そして現在カトレアさん捜索中。
いや、もう、なんなのここ。
広すぎだろ!!
カトレアさんの方が詳しいのにこれは探し出せない可能性の方が高いんじゃ……。
いや、めげないぞ。頑張る。
というのを心の中で何回か繰り返し、カトレアさんを探しているのだが、中々、というか全然見つからない。
「か、カトレアさーん……」
あからさまに大きな声を出すわけにはいかず、小声になりながらもカトレアさんを呼ぶが、もちろん応答はない。
あれ、ここさっきも来たような気がする。
……あれ、ここ3回目じゃね?
あ、やばい。
これは……うん、迷った。




